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小一時間ほど寝たら、敦也は目を覚ました。欠伸をしながらゴロンと横になる。首に痛みを感じて、片目を瞑った。首をさすり、寝起きのしゃがれ声で呟く。
「いて……。寝違えた」
起き上がって、胡坐をかいた。
テレビもない、ゲームもない、遊び道具も何もない。あるのは携帯。安物で、月千五十円で契約している。それしか暇潰しになるものがない。毎日つまらないのも当然だった。
汚い畳を、汚い卓袱台を、汚い壁を、汚い自分を映す窓を見る。深いため息が出た。
「……ハアアア……」
だが、それでも母親は女手一つで敦也を大学に通わせている。奨学金で大学に通うと言ったが、頑張ると言って母親は自分のプライドを優先させたのだ。世間体が気になるから。プライドで赤貧生活を送るのもどうだろうか。プライドより大事なのは金じゃないのか。
そこまでやってもらっているのだから、感謝をしてもいいはずなのだが、敦也が捻くれてしまった理由は、両親に存在を全否定されてしまったから。何をさせても優秀だった敦也に、生まれて来なければ良かった、俺なんか死ねば良かったのにと思わせてしまったのだ。
人間不信に陥ってしまったのは、両親のせいだ。
敦也を自殺に追い込んだのは、敦也が生まれることを祝福していたはずの両親だ。
大守家の長男として生まれた敦也は、めちゃくちゃ優秀な人間として育った。勉学でもスポーツでも、なんでも一番を取ってきて、いつも優秀な結果を残してきた、地元じゃ名の知れた実力者だった。あの頃の敦也は、自他共に認める天才児でありながらもそれを鼻にかけず、努力家で人気者だった。友達に囲まれて、毎日が楽しくて仕方なかった。努力することを厭わなかったし、人に頼られることが好きだった。
習い事もさせてもらい、なんでもそつなくこなせるように日々努力を惜しまなかった。両親は敦也を一度たりとも褒めなかったが、周りの人間は褒めて褒め契った。敦也もいつか両親に喜んでもらえるようにと、必死に努力した。
だがある日、父親の会社が倒産した。なんでも、事業に失敗した部長が首を吊ったそうだ。社長からパワーハラスメントを受けていて、精神は崩壊状態だったそうだ。業績を立て直せと無茶なノルマを課され、物の見事に大失敗で大損害を被った。借金が膨れ上がり、もう後がない。家族を残して一人で先に逝ってしまったのだ。それが公になると、社長は会社を潰すしかなかった。部下の命を放り出して、面倒事はすべて押しつけて、我が身可愛さに逃げ出したのだ。社長が背負うはずの借金を、数百人の部下に全部押しつけて。
小心者の大悪党は、今ものうのうと生きている。
優しい人間は死に、優しくない人間は長生きする。優しい人間は自身を責めるから。優しくない人間は他者を責めるから。自身を責めると重圧がかかる。それはいつしか尋常でない負荷となり、精神的に参ってしまうのだ。




