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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第一章

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 電車に乗っているとき、ふと気がつく。吊革つりかわに掴まって、他の客に当たらないように踏ん張っていた。普通電車だが、速度を上げると揺れる。慣性の法則で、進行方向に引きずられてから逆方向に倒れそうになる。誰かの足を踏みそうになる。

 真っ昼間なのに、満員電車だ。国営だった電鉄も民営化したが、利潤りじゅんでたっぷり儲けているのだろうなと思った。敦也の乗る時間帯の電車は、毎日人ごみで溢れ返っている。

 ぎゅうぎゅう詰めになっていて、暑苦しいことこの上ない。汗臭くてベタベタとしていて気持ち悪い。誰かの加齢臭もする。満員電車はこれがいやだと敦也は苦い顔をする。

 ――そういや、あいつ……みんなの前でばらしやがったんだった。

 助けてもらったが、命の恩人とは思えない仕打ち。めちゃくちゃムカつく。一発殴らせろ。

 命を助けたのは運転手のためであって、敦也のためではないのだと本人も言っていたので、恩に着ることもないだろう。が、逆恨みをするのはいかがなものか。

 彼女がどんな考えの持ち主なのかは多少理解できてはいるが、何が目的なのかまではわからないのだ。不思議な魅力を持つ、謎の多い人物だ。陽太の言っていた、非の打ちどころがない絶世の美女という談が本当だとしても、性格には大分難ありではなかろうか。

 陽太に問いたださなければならない。あの女と仲良くなりたいなどと言わせるものか。どうでもいい他人とはいえ、一応は友達なので仲の悪い人間と仲良くすることを嫌う。自分の嫌いなタイプの人間と友人になって欲しくない。話題に上げるのも許さない。

 大守敦也はどこまでも自己中心的で、利己主義な男だった。ある意味、人間らしい性格をしている。


 住宅街の中にひっそりとたたずむアパート。一か月の家賃はおよそ一万円の格安物件。トイレもない、風呂もない、電気やガスもほとんど通らない。最低限の寝る場所があるだけの狭い部屋。それが敦也の家だ。家でなく、小屋としょうするのが相応しいかもしれない。

 裕福ではない。本物の最底辺の貧乏一家だ。母親曰いわく、標準未満の暮らし。

 オンボロアパートに帰る度、漏れ出てくる感想はこれしかない。

 ――最悪。最低。マジでクソだ。

 敦也は足を振って靴を脱ぎ、部屋に入るなり汚くてボロボロの畳で寝た。布団があるのに布団で寝ず、だるそうに畳で寝て、畳をよごした。ただでさえきたないのに、もっと汚れたら弁償しろと大家に怒鳴られる。母親にも怒られるのに、面倒くさがって服を着替えることもしない。体臭も靴下が臭うのも気にならない。そんなことはどうでもいいのだ。

 何もする気が起きなかったので、とりあえず寝た。

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