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「正直に言った方が身のためよ。嘘に嘘を塗り重ねたら、苦しむのはあなた自身。黙秘権を行使できるのは、取調室と……裁判所だけ」
遠くて聞こえないはずなのに、敦也には香名の声がはっきりと届いた。それはもう、鮮明に。
「俺が……やりました……」
敦也はゆっくりと心中の思いを吐露した。周りの声が段々と静かになっていく。みんな、話を聞く気はあるようだった。立ち竦む敦也に、視線が更に集まる。
言いにくいことを言う決意を固めた。いざ言おうとしても、声が小さくなって肩が強張る。責められているのはわかるし、責められて当然だと思っていても、口にするのが怖かった。怖くて、怖くて、逃げ出したかった。
手に汗が滲む。身体が震える。声も震えて、表情も作れない。怖い。怖い。誰か助けてくれ。
「毎日つまんなくって……どうでも良くなって……。それで、死のうと思って飛び出したんです。でもなんか怖くなって、どうしようって思って……。そしたら誰かが走れって言ってくれて……。事故は起きたけど誰も死ななかったって、その人が言ってました」
「あのとき走れって言ったのは私」
「……何?」
「あなたが死んだら、轢き殺した人の責任になるから。あなたのせいで、一人の人の人生が狂うのよ。あなたが悪いのに、そんなの可哀想でしょう? やるせないじゃない。だからあなたを死なせるわけにいかなかった。あなたが好きで言ったんじゃないの。勘違いしないで」
香名は敦也を冷ややかな目で睨みつける。優しさの欠片もない、冷たくて凍えるような目だ。
教授は唸ってから、明るい声で提案した。意外にも、軽薄、とも取れるような声で。
「……話はよくわからんが……、怪我人がいなかったのなら、ぎりぎりセーフだろう。警察の知り合いと話をつけてみるが、処分は優しめにしといてもらう。お前、とりあえず今日は帰れ。疲れてるんだろう? 家帰って、とっとと寝ろ! 万病には睡眠が効く」
敦也は頭を下げて、鞄を持ってそそくさと出て行く。廊下を走る敦也の気分は昂揚する。
「いい人だった。いい人だった……。いい人だった! マジでいい人!」
両手を上げて、こどものようにはしゃいだ。ゲンキンなことに、敦也は心を入れ替えた。今度からは教授の話をきちんと聞こうと決めた。周りからどう思われようが構わないと。敦也は教授のことが好きになったのだ。自分に優しいから。
廊下を突っ切って、通りに出る。講義のない数人の学生が楽しそうに喋りながら散歩していたのを見かけた。
大学の履修は基本的に自由形式。必修じゃなければ、それなりに自由に受けたい講義を選べて、途中でやめてもいいから、周りの学生が勉強している間に休んでいる学生もいる。
草が生い茂る庭園で、学生たちがレジャーシートを敷いてお茶をしている。可愛げに談笑している華やかな女子学生達。お洒落なのに、和やかな雰囲気があって、とても素敵だと目を奪われる。いつもだったら苛々してぶち壊してやりたくなる光景を、敦也は微笑ましく眺めることができた。
――教授公認でサボれるのって、最高だな。
不真面目を地でいく敦也は、空が青いことを、今日初めて知った。




