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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第一章

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 みんなの視線が自分に向けられていることに気づいたのは、一拍いっぱくを置いてから。

「……スーパーマン? なんのことかしら。私はスーパーマンではなくて、あなたの救世主なのだけど。先生、あの人です。あの人が昨日、この近くで事故を起こしました」

 香名は勝ち誇った笑みを浮かべて、大勢の前で事実をばらした。

もしや、名誉毀損めいよきそんが成立するのでは? と敦也は思ったが、故意に事故を起こすのは犯罪なので訴えても確実に敗訴する。敦也のしたことは、当たり屋みたいなもので、迷惑極まりない非道な行いだ。たとえ負傷者が出ていなくとも、刑事裁判を受けなくてはならない。有耶無耶うやむやにしてはならないのだ。

 彼女がばらした途端に学生がどよめき出す。敦也を見る目が、侮蔑ぶべつと軽蔑と憎悪へと変わっていく。事件とは全く関係がないのに、みんなは事故にでも遭ったかのように錯覚している。これが集団心理というものだ。誰も敦也を庇う者はいない。

「それは本当か?」

「はい。私、事故現場の近くにいたんです」

「それで……何故事故を起こした奴がここにいるんだ?」

 教授が怪訝けげんそうな顔つきで、敦也を見る。心理をさぐられているのか、心に突き刺さる視線。

「彼は故意に事故を起こしていたので、私は警察に出頭するようにと言ったんですが……。あのまま普通に家に帰ってしまったようですね。学生として、大人として、恥ずべき行為かと。もう右も左もわからないようなこどもではないはずですが、彼は悪さをして気を引きたい、人に構って欲しいこどものようです。愛に飢えているこどものようです。悪いことをしたら、罪を償うのが道理なのではないでしょうか。人の道を外れれば、罰を受けてしかるべきです。先生も、そう思われるのではないでしょうか」

 香名の演説は正論で、反論の余地もない。みんなの意見が合致がっちした。

 小さい頃から、当たり前のこととして学校で教えられてきたことだ。悪いことをしたら、叱られる。罰を受けて反省しなければならない。

 大人になったのだから、誰もが自覚しなければならない社会の常識であり、絶対的な法の下の平等に人々は安寧あんねいを約束されている。悪いことをしたら、刑罰を受けなければならない年齢になったことを、敦也も知っていて実行したのだ。

大守おおもり。それは本当なのか?」

 敦也は俯いて、黙り込んだ。うんともすんとも言えない。ここでイエスと答えたら、明日からおりの中で暮らさなければいけなくなるかもしれないのだ。答えられるはずがない。

 もっとつまらない毎日が待っているかもしれない。

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