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みんなの視線が自分に向けられていることに気づいたのは、一拍を置いてから。
「……スーパーマン? なんのことかしら。私はスーパーマンではなくて、あなたの救世主なのだけど。先生、あの人です。あの人が昨日、この近くで事故を起こしました」
香名は勝ち誇った笑みを浮かべて、大勢の前で事実をばらした。
もしや、名誉毀損が成立するのでは? と敦也は思ったが、故意に事故を起こすのは犯罪なので訴えても確実に敗訴する。敦也のしたことは、当たり屋みたいなもので、迷惑極まりない非道な行いだ。たとえ負傷者が出ていなくとも、刑事裁判を受けなくてはならない。有耶無耶にしてはならないのだ。
彼女がばらした途端に学生がどよめき出す。敦也を見る目が、侮蔑と軽蔑と憎悪へと変わっていく。事件とは全く関係がないのに、みんなは事故にでも遭ったかのように錯覚している。これが集団心理というものだ。誰も敦也を庇う者はいない。
「それは本当か?」
「はい。私、事故現場の近くにいたんです」
「それで……何故事故を起こした奴がここにいるんだ?」
教授が怪訝そうな顔つきで、敦也を見る。心理を探られているのか、心に突き刺さる視線。
「彼は故意に事故を起こしていたので、私は警察に出頭するようにと言ったんですが……。あのまま普通に家に帰ってしまったようですね。学生として、大人として、恥ずべき行為かと。もう右も左もわからないようなこどもではないはずですが、彼は悪さをして気を引きたい、人に構って欲しいこどものようです。愛に飢えているこどものようです。悪いことをしたら、罪を償うのが道理なのではないでしょうか。人の道を外れれば、罰を受けて然るべきです。先生も、そう思われるのではないでしょうか」
香名の演説は正論で、反論の余地もない。みんなの意見が合致した。
小さい頃から、当たり前のこととして学校で教えられてきたことだ。悪いことをしたら、叱られる。罰を受けて反省しなければならない。
大人になったのだから、誰もが自覚しなければならない社会の常識であり、絶対的な法の下の平等に人々は安寧を約束されている。悪いことをしたら、刑罰を受けなければならない年齢になったことを、敦也も知っていて実行したのだ。
「大守。それは本当なのか?」
敦也は俯いて、黙り込んだ。うんともすんとも言えない。ここでイエスと答えたら、明日から檻の中で暮らさなければいけなくなるかもしれないのだ。答えられるはずがない。
もっとつまらない毎日が待っているかもしれない。




