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なんの代わり映えもしない退屈な講義は、敦也の心を憂鬱にさせた。
待っていても何も起きない。自分で起こすしかないのだ。スーパーマンだって、祈れば来てくれるわけじゃない。来てくれたのは、ヒールなスーパーマンだ。あれは別物だ。祈っていたって、誰も助けてはくれない。自分で自分の道を切り拓かなければ、人生は好転しない。それは自分が一番よくわかっているじゃないか。
人生はいつだって選択の連続で、自分自身が主役にならなければいけない。何もしないまま過ごしていれば、平凡な日常を送って、いつかは塵になっていくだけのちっぽけな命。なんの変化も齎さない。脇役のままで終わってもいいのか? それで、自分は満足できるのか? 本当は、誰かのために、自分のために、生きてみたいと思っているのではないのか?
現状を打破して、生まれ変わりたいと思っているのではないか?
――けど、俺なんかに、そんなこと……できるはずねえよ。
変わりたいと思っているのに、変われない。自分はそんなに大それた器なんかじゃない。生まれたときから偉人になる道を運命づけられていた人にはなれない。自分はみんなが思うような、凄い人間なんかじゃないのだ。ただ駄々を捏ねているだけの――悪ガキみたいに我儘で、自分勝手なやつなのだ。人に褒め讃えられるような、素晴らしい人間にはなれっこない。両親にすら褒めてもらえなかった自分が――、なして他人に褒められようか。
陰鬱とした闇に染まりゆく心。秩序の崩壊を求む怨嗟の声が、生まれ出づ。
どうか、このつまらない講義をぶち壊してくれる人がいたらいいのに、という破壊的衝動による切なる願いを抱く。
――どうか、こんな俺でも認めてくれる人が、こんな俺でも生きていてもいいよって優しくしてくれる人が、俺の目の前に現れますように。俺を殺さず、俺を生かしてくれるような神みたいな人が、俺の目の前に現れますように。
昨夜とんでもないことをしでかしたのに、敦也は反省の色を見せない。
見せかけだけで、心中では全く反省していないのだ。自分のことしか考えていない。
心理学を学びたいと思っていたわけでもなかった敦也は、適当に講義を聞き流して内職をすることにした。鞄の中のポケットに手が伸びる。当然のことだが、講義中に携帯を触るのは禁止されている。携帯はマナーモードに設定しておくのが常識なのに、敦也は常識から敢えて外れることをしていて、教授が話している最中にも音が鳴る。その度に注意されるが、改めない。
目の据わった敦也は携帯を触り、音を消してゲームをし出した。
ゲーム自体もつまらないが、暇潰しにはなるだろうと思ってやっている。
ばれていないと思うのは学生だけで、大半はばれている。教授のいる場所から見れば、どの学生がどんな行動を取っているのかは一目瞭然だ。目線や手の動きだけでわかってしまう。
敦也もばれているであろうことには、気づいていた。しかしわかっていても、手が止まらない。他人の決めた規範に悖るのはなんだか負けたみたいだったので反発して、悪いことを好んでやっていた。それらは、優秀ないい子に育っていた敦也が、我儘を言えずに溜め込んでいたストレスが引き起こした反動によるもの。優秀な学生にならなくても、俺という一個の人間を肯定してくれよというこどもじみた思いをぶつけているのだ。遅れてきた反抗期だった。




