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1話:もう1度、ゲームスタート!★

  『ちゃいるど・はーと・おんらいん』。

  VRの技術を駆使して、子どもの姿のアバターを使い、子どもの頃の遊びを楽しもうという、VRゲームとしては珍しく、剣も魔法も一切なく、レベル上げすら必要としない、体験型ゲームである。

  その世界では、誰もかれもがまるで本当の子どもになったように、すべり台で遊んだり、|NPC≪大人≫からお使いを頼まれたり、喧嘩だってして、その後に仲直りしたり。もう大人になってしまった今となっては体験しがたい、貴重な体験を行わせてくれる。

  そして、そのゲームのある意味では1番の特徴として、性別を偽る……というと聞こえが悪いが、本来の自分と別の性別でプレイすることが、推奨というか、オススメをされている、稀有なゲームである。

  例えば男性なら、女の子になって、お人形遊びやおままごとをしてみたり。

  例えば女性なら、男の子になって、サッカーや野球みたいな、思いっきり身体を使って遊んだり。

  普通のゲームではあまり推奨されないことが推奨されているあたり、やっぱり珍しいゲームなんだと、しみじみと感じる。

  まぁ、そもそもの源流というか、βテストを行っていた時の名称が、『ようじょ・はーと・おんらいん』だったのだから、その異質さは十分感じていたのだけれど。

  友人である月本の誘いで、『ようじょ・はーと・おんらいん』のβテストをやり始めて、毎日のように女の子になって遊んでいたことで、俺自身の生活にも、多少なり変化が起きてきたように思える。


「せーんぱい。これとこれ、どっちがいいと思いますか?」


  後輩の岬が、女性服雑誌のページを広げて、俺に訪ねてくる。もちろん俺が着るわけではないので、岬にどっちが似合うのかを答えてやればいいわけなのだが。


「うーん、どっちも似合うとは思うけど、右のティアードスカートより、左のショートパンツのサロペットの方が似合うんじゃないかな」


  岬はどちらかと言えば活発そうなタイプなので、ティアードスカートよりはサロペットじゃないかなぁと思った。まぁ、〜っすの喋り方がなければ美人だとは思うので、ティアードスカートが似合わないわけではないと思うのだけれど。

  しかし、岬の反応は思っていたのと違ったようで。


「先輩……正直詳しすぎて引くっす。そんなに服詳しかったっすか……?」


  見れば、岬の顔は完全に引いていた。いや、自分でもこんなに詳しいのは気持ち悪いと思うのだが。

  実際のところとして、ゲーム内で自分で買うようになってから、店員のおねーさんにあれやこれやと呪文のように言われるものだから、俺も自然と覚えてしまっているのだ。

  そして着るのも自分なもので、その組み合わせの合う合わないも大体わかる。

  ……これは確かに、男では気持ちが悪いのかもしれない。


「最近の先輩、なーんか怪しいんすよね。月本サンになにか吹き込まれたんすか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどな……」

「そーだぞ。別に俺が教えたとか、そんなんじゃねえからな。ほい、これ書類な」


  急にかけられた声に驚きながら後ろを見てみれば、別部署のはずの月本がそこに立っていた。


「うわ、月本サンどうしたんすか」

「わっ、いきなり現れんなよ」

「ひどい言い草じゃないの君たち……これそっちで使う書類混ざってたから持ってきたんだよ。そだ、折角だし、1本付き合えよ」


  そう言うと月本は、胸ポケットからタバコを取り出してみせる。

  俺は別にタバコを吸わないのだけれど、そのことを知ってる月本がこういうということは、何か話があるということだろう。


「はぁ……じゃあ岬、5分くらい席外すから」

「むー……了解しましたっす」


  むくれる岬の頭を、そっと撫でる。


「ひゃうっ!?」


  頭を触れられた岬が、急に声を上げる。結構大きな声を出したので、何事なのかと注目が集まった。

  視線に耐えきれなくなった岬は、慌てて部屋を出てしまう。

  そうなると俺の方に視線が集中するわけで……。俺も月本を連れて、その場から逃げ出した。


「いやー、お前アホだな」

「……仰る通りで」


  俺の横でタバコを吹かす月本はそんなことを言う。

  今回バカやったのは俺自身だから、何も反論することができないのだけれど。


「あんな風にむくれられるとさ、なんとかしなきゃって思うわけよ。それで普段……」

「みづきにやってあげてるみたいに、頭を撫でたと。あのゲームの中と同じ手が通じる訳ないだろ」

「……仰る通りで」


 本当に、だんだんとゲームに毒されている気がして嫌になる。変化していくことは、悪いことばっかりじゃない事は分かっていても、今日のは完全に失敗だった。

  俺が反省していると、横で月本がポツリと呟く。


「……相手が岬ちゃんでよかったよ本当……」

「え? なんか言ったか? 風でよく聞こえなかった」

「なんでもねー。それより、今日はインするのか?」


  何を言ったのか気になるところではあったが、話を切り替えてきたということは聞かれたくないことだったのかと思い、その質問に答えることにする。


「今日は特別予定もないし、残業もこの分だとしなくてよさそうだしな。多分インすることになるかな」

「わかった。スズのやつと、あの秘密基地どうなってるか気になるって話してたところだから、みんなで見にいこうかと思ってな」

「そういうことか。わかった。じゃあ、帰ってからインするよ」


  夜の予定を立てて、すぐに仕事へと戻る。

  岬の様子がなんだかおかしく、話しかけるとそっぽを向かれてしまうので、やっぱり撫でるのはよくなかったと反省をする。

  予定通りに仕事を終わらせ、帰宅して晩飯を食べて、ドリームギアをセットする。そして、誰もいない部屋の中で、ひとりごちる。


「それじゃあ、ゲームスタート!」


  そうして今日も、子どもになってみんなと遊ぶ、もう一つの世界へと向かうのだった。


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