2話:のこってたひみつきち
「おぉー……」
「うそやん……」
るなとりんが、驚愕に打ちひしがれている。
かく言う俺とみづきも、驚きのあまり声が出ていないだけなのだけれど。
「うちがかいたのも、ぜんぶのこってるやん……はずかしいわぁ……」
「なかのふとんとかも、のこってる……」
るなとりんは、早速「そこ」の周りをぐるぐる回ってみたり、中を確認したりしていた。
事前に約束していた通り、今来ているのは、βテストの際に秘密基地を作った裏山の、大きなカエデの木の下である。
そこには、βテスト時代に作った俺たちの秘密基地が、そっくりそのままの形で残っていた。巨大ダンボールに布を被せて、周りに絵を描いたあの秘密基地だ。
「なんでのこってるんだろぅ……」
「……ふしぎ」
俺とみづきは、ぎゅっと手をつないで、ぽかんと秘密基地を見ていた。
るなとりんはどこへ行ったのか、そこら中を駆け回っている。
「あー!あった!」
るなが大きな声を出して、何か見つけた様子だ。
「るなー?なにをみつけた……ひゃうぅ!」
るなに近付いて何を見つけたのか聞いてみると、聞く前にぶん!とそれが振り回された。
結構目の前を通り抜けたそれに驚き、俺は思わず尻餅をついてしまった。
咄嗟に手を放したから、みづきは転ばないで済んだ。転んだ俺の側に、みづきがやってくる。
「……ひーちゃ、だいじょうぶ?」
「ふっふっふ。このだんぼーるばすたーそーどをそうびした、るなさまはむてきよ!」
そう言って、そのダンボールに棒切れをつけたそれを振り回するな。あれ、これ前も見た気がする。
いつの間にかるなの背後に回っていたみづきが、るなの服の裾を引っ張る。
「……るーちゃ」
「……あ、あのその」
「……せいざ」
「……はい」
それは、いつかにも見た光景。
るながやらかして、みづきに怒られて。りんは自由に気ままに動いていて、俺はそれを見守っていて。
「……ふふっ」
何かそれが嬉しくて、つい笑みがこぼれてしまう。
いつの間にか、こっちにやってきたりんが話しかけてきた。
「なんやひなちゃん。なんかいいことでもあったんか?」
「んーん。なんでもないよっ」
「そか、……ってるなちゃんはなにおこられとん?」
「あれはねー……」
りんはそれ以上は何も聞いてこなかったから、俺も特には話さなかった。けれど、俺が何を思っていたのか、りんはわかっているのかもしれない。もしかしたら、同じことを考えていたのかもしれない。そうだと、嬉しいな。
「それにしても……なんでのこってるんだろうね」
「それな」
説教中の2人は置いておいて、りんと2人で秘密基地が残っていることについて考えてみる。
「まぁ、ぜんぶのでーたなおすのがめんどうだったから、まえの、『ようじょ・はーと・おんらいん』のでーたを、りゅうようしたってだけやん?」
りんが言ったのは、身も蓋もない考えだった。
「でも、まぁそんなところだよねぇ」
たははと2人で笑いあっていると、るなとみづきが戻ってきた。だんぼーるばすたーそーどは、何処かへと消えていた。
みづきはすっきりした様子だったけれど、るなは何か様子がおかしかった。
「みづき……あ、あし……しびれ……」
「……るーちゃがわるい」
るなの足はぷるぷると震えていて、歩くのがとても大変そうだったけれど、特に誰も助けなかった。
そういえばと、ふと思いついたことを言う。
「はんたいがわの、ありすたちのひみつきちもあるのかな?」
「そういえばそうやなぁ、ちょっとみにいってみよか」
「……いく」
おー!と掛け声をかけて、俺たちはカエデの木の周りをぐるっと回った。
俺はみづきの手を引いて。みづきは手を引かれながら、とことこと俺の横を歩く。りんは、マイペースに頭の後ろで手を組んでついてきた。
「まってってばぁー……」
少し遅れて後ろから、足が痺れてふらふらのるながついてくる。
木の周りをぐるっと回れば、俺たちが作ったのと同じようなダンボールの秘密基地がそこにはあった。
「こっちもあるんだぁ……」
そんな風に言いながら近づいていけば、秘密基地の前を箒で掃いて掃除をする女の子がいた。
淡いピンクと白のエプロンドレスを身に纏い、大きなピンクのツインテールが特徴的な、従者然とする女の子、ろぜったさんだ。
「あら、みなさんおそろいで、どうかしましたの?」
いつ見ても大人の様に――実際に中の人は大人なのだけれど――落ち着いた対応と、そのお嬢様のような喋り方は、彼女がまるで主人の様に扱う女の子、ありすよりもお嬢様のようだ。
こちらに質問を投げかけるろぜったさんに、俺が代表して答える。
「んっとね、ひみつきちのようすを、みにきたの。ろぜったさんはどうしたの?ありすはいないの?」
「あら、それならわたしとおんなじですわ。ありすちゃんなら、きょうも『おてつだい』にいってますの」
口元に指を当てて、うふふ、と笑うろぜったさん。まるで、お転婆な妹の帰りを待つお姉さんのようだ。
「それにしても……まさかのこっているだなんて、おもってもみませんでしたわ」
「ねー。びっくりしたわよね」
るなが俺の後ろから、肩を掴んでひょっこりと頭だけを出してそんなことを言う。いつの間に復活したんだろう。というか、重いからあまりのしかからないで欲しい。
そんなるなを降ろそうと、後ろからみづきが引っ張っているのが微笑ましい。
「まぁ、のこってたいたことは、とてもうれしかったのですし、いいことですわ」
今度は両手を合わせて斜めにして、それに合わせて顔を斜めにしてニッコリと微笑む。本当に、いちいち仕草がお嬢様な動きをしている。
しばらくの間、他愛もない話をした後、最後にろぜったさんが気になることを教えてくれた。
「そういえば、ありすちゃんからきいたのですけれど、『おてつだい』をいっぱいすると、あたらしいなにかにあえるとかなんとか……よくおぼえてませんわ」
そう言うと、舌をちろりと出すろぜったさん。
なんだか、肝心な情報が抜けている気がするが、覚えていないならどうしようもないだろう。
けれど、るなやりんは何か閃いたのか、後ろで悪巧みのようなことを考えている。
「それから……なんだか、おっかないことをするこたちがいる……なんてことも、いっていいたかしら。なにかあぶないことがあったら、きをつけてね?」
危ないことがあってからでは、遅すぎる気がするのだけれど……。
言ってもしょうがないし、とにかく、忠告は心に留めておこう。
口々にわかったと返事をして、俺たちは秘密基地を後にしたのだった。




