第8話 晴人と明②
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ほんの少し、居住まいを整えて、俺の中のツッコミ心を取り押さえる。
今は、余計なことを言ってはいけない。
思ってもいけない。
「⋯⋯いえ、それはないです。尊敬してますし。ただ⋯大事な友達にも言えないことは⋯増えていきますけどね⋯。それに俺、バリバリ現代っ子ですしね。あははっ。」
しまったな⋯。
子孫達は、「安倍晴明の血筋」を誇りにしている人が多い。
批判に聞こえてしまったかな⋯。
乾いた笑いで誤魔化してみる。
ただ、やっぱり科学の力が発達した現代だと、エコより利便性なところもあるよね。
気を練って紙に書いたり、呪文唱えたりするよりボタン押す方が楽だし、天気や運勢は朝のニュースで事足りる。
わざわざ道具を出して占わない。
夢見は⋯⋯寝不足の元。
「ふふふっ⋯。確かに、ボタン押す方が楽ですよね。」
あ、通じた。
同類だった。
良かったぁ~。
「薬の研究で、薬研や乳鉢で潰すのを使い魔を召喚してやらせるより、機材の電源入れた方が早くて均一ですからね。」
「⋯⋯そ、そうなんすね。」
なんかちょっと違った。
ていうか、使い魔、いるんだ。
もちろん、使い魔がいる人も、召喚出来る人もいるにはいる。
けど、召喚出来るって事は、明さん自体が霊力が強いってことだ。
「あ、もしかして使い魔ですか?私、これでも曽祖父は直系の入り婿なんですよ。」
え?もしかして、明さんも心を読めるのか?
なんてアホな思いが一瞬過ぎったが、今はそこじゃない。
「え?⋯それってすごいじゃないですか。」
入り婿ってことは、直系に女子しかいなかったって事だ。
その場合、傍系から霊力の強い者が婿に選ばれる、って聞いた。
「じゃあ、明さんは直系?」
「いえ、祖父は長男でしたので、傍系ですね。」
「あぁ、なるほど⋯。」
直系のしきたりか⋯。
安倍晴明の能力は、第1子に強く受け継がれる。
けど、安倍晴明の意向で、強い力は傍系に流し、直系は弱らせて国から距離を置く、と。
公職として政治の中枢にも影響を及ぼしてきた陰陽道は、1870年、明治時代に入ると当時の政府によって、廃止されていった。
第二次世界大戦後に、明治政府の発令した法令自体が廃止されて、今はカレンダーや手帳で補助的に見られる程度で、表舞台からは消えつつある。
確か⋯今代の直系も後継者が居なくて、傍系の存在を知らない世間では、安倍晴明の末裔も今代までか、と言われている。
いやいや、本当はもっと居ますよ。
国やら政治やらに巻き込まれるのは、もう嫌だってことですよ。
そうやってひっそりと消えていく⋯それが御先祖様のご意向だったらしい。
まぁ、長かったよね。
1000年だよ?
まさか、御先祖様も、子孫が中々権力手放せずに政界に居座るとか、御先祖様が1000年先でも名を馳せているとは思わなかっただろう。
今頃、「あんなに言ったのに~!」って墓の中でお怒りなんじゃないだろうか⋯。
「今は、修行の方はどうしてるんです?」
「今は⋯祖父に習ったことを復習しつつ、書庫から代々の蔵書を見て一人で⋯ですね。」
「蔵書でって⋯代々のなら沢山あるのでは?今、どこまで修行が進んでいるのかは分かりませんが⋯」
「あ、蔵書の方は問題ないんです。俺⋯特技っていうか、昔から一度見たものは覚えちゃうんで⋯なんで大丈夫です。」
明さんが、2度目のびっくり顔をしている。
今日はレアな日だな。
「それは⋯本の内容とかかな?」
「本は勿論ですけど、今この瞬間とか⋯⋯うーん、なんていえば⋯⋯⋯あっそうそう!常に自動録画している感じですかね?頭の中に。それで、後で、思い出そうとすると、思い出したいところがピックアップされる⋯スマホの動画編集?みたいな感じですね。」
「それは⋯⋯今も?ってことかな?」
「はい。後で、この会話の時の明さんの表情ーーと思うと、ポンって頭の中に浮かびます。⋯ピンポイントだと写真みたいですね。」
「瞬間記憶だね。それは凄い。覚えたものはそのままずっと?」
「そうですね。ずっとです。」
「てことは、保持能力もか⋯。いつ頃からの記憶があるの?」
「⋯⋯赤ちゃんの頃、目が見えるようになった頃から?ですかね。」
「頭痛くなったりしないのかい?」
「いや⋯⋯ないですね。」
「じゃあ、テストの時は大活躍だ?」
「テストは得意です。」
「はははっ!そんなセリフ、初めて聞きましたよ。」
「いやー、羨ましいなぁ~」なんて言って、明さんが、涙を拭いながら笑っている。
⋯⋯この辺だけ、明日雪かもしれない。
5月の終わりなのに。
「はぁー⋯久々に思いっきり笑いました。きっと、安倍晴明もびっくりですよ。」
「⋯⋯⋯お墓から出てきちゃったらどうしましょう⋯。」
「⋯⋯⋯⋯⋯さぁ、どうしましょうね⋯?」
明さんが、手を口元に当てて、「ふふっ⋯」って言いながら、肩を震わせている。
そんなに面白いこと言ったかな?
御先祖様ジョークがブラック過ぎたかな?
明さんの震えが止まるのに少しの時間を要した。
⋯⋯もしかしたら、降るのは雪ではなく、雹かもしれない。




