第9話 晴人と明③
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暫くして落ち着いたのか、大きく息を吐き出した後、明さんがこちらを見る。
「そういえば晴人くん、キミ、夢見はどうです?先祖返りならもしかして⋯あ、でも夢なら、忘れちゃうかい?」
俺は軽く首を振って答える。
「いいえ、頭の中の映像も、目で直接見たものと同じように、記憶してますよ。」
「では、安倍晴明と同様、夢見の力を持っているということですね?」
「正夢⋯というか、予知夢?のことなら、多分そうです。まぁ、大抵は俺と関係なかったりしますけど。」
「⋯⋯もしかして、最近、嫌な夢でも見ましたか?」
そう言って、目の下を指でなぞる。
つられて俺も、目の下の隈を擦る。
「あぁ⋯⋯そうですねぇ。ちょっと、非現実的な夢がここのところ続いてて⋯」
「⋯⋯それは、⋯晴人くんのお父さんに関わること⋯ですか?」
父さん?
なんでここで父親のことが?
「?⋯⋯いえ、父親のことではないです。⋯⋯なんて言うか⋯⋯地震とか、津波とか⋯⋯自然災害のことですね。それも、一度にたくさん⋯。」
地球滅亡してもおかしくないレベルで。
けど、流石に言いきれず、濁した。
「⋯⋯⋯⋯⋯そうですか⋯⋯。なるほど⋯⋯。」
意外とあっさりとした返しだな。
もう少し驚いても⋯。
その時、ふと、誰かに聞いてみたいと思っていた事を思い出した。
思い出したら、口に出していた。
「⋯ねぇ、明さん。⋯⋯御先祖様は、既にこの世におられるのでしょうか?⋯⋯口伝にある、「約束の1000年」は、既に過ぎてしまった⋯。」
そう言うと、明さんは、少しの間、何かを考えているようだった。
これ、まずいかな⋯?じいちゃんには、他の子孫の前では口にしないように言われてたけど⋯。
明さんは、顔を上げてジッと御堂を見つめたあと、静かに話し出した。
「⋯安倍晴明は実は既に生まれ変わっていて、それは「桜庭晴人」だ。⋯⋯と、一部の者が言っているって知ってます?」
「⋯⋯⋯はい?」
⋯誰だって?⋯⋯俺だって?!
「⋯まぁ、先祖返りっていうのと、安倍晴明の没後、既に1025年。音沙汰の無い先祖に色々な憶測が飛び交ってるので、その一つですね。」
「⋯⋯⋯⋯はぁ⋯。」
⋯⋯⋯ある日突然、押し掛けられたらどうしよう?
やっぱり、血筋もダメなセキュリティにしようか?
「もしも、安倍晴明が約束通り、既に生まれ変わっているのなら、今は25歳くらいですかねぇ。」
「⋯そうですね。」
「彼の言う「蘇る」というのが、母親の体内から生まれ出たその日を指すのなら、ですが。」
「⋯⋯⋯とは?」
「⋯⋯これは、私の考えですが、良いですか?」
「え、は、はい!もちろん。」
「⋯⋯もしかしたら、生まれ出た日ではなく、母親の体内で、命が宿った瞬間を指すのなら⋯⋯24歳かもしれませんね。」
にこっと笑う明さん。
「そうしたら、私の同い年の人間の中にいるかもしれませんね。」
とてもにこにこしている。
なんだろう⋯⋯なんか怖い。
「あ、知ってます?「安倍晴明」は、現代でこそ「せいめい」と皆呼んでますが、本当はちゃんと分かってないんだそうですよ。実際は「はるあき」とも、「はるあきら」だったとも言われているんです。子孫なのに、世論に洗脳でもされたのですかね。」
「知ってますよ。俺の名前、「晴人」は御先祖様から一文字いただいたって聞いてますから。」
「そうなんですね!奇遇です。私も「明」をいただきました。」
「あっ、やっぱりそうなんですね。」
霊力の強い子ほど、御先祖様の名前にあやかる傾向があるからなぁ。
「⋯⋯安倍晴明は⋯⋯生前、最後の夢見の後に、「1000年後に、またこの世に蘇る」と言ったと、子孫には伝わっています。⋯もしもその言葉に、夢見が関わっているのなら、彼はいったい、どんな夢を⋯未来を見たのでしょうね?」
明さんの言葉に、ふと、最近見る夢を思い出す。
自然災害によって、街が崩壊し、滅亡を想起させられるあの夢。
さすがに同じとは思わないけど、あれくらい衝撃な夢でも見たのだろうか?
自分が何とかしなければと、そう思ったのだろうか?
「晴人くんは、安倍晴明を⋯どんな人だと思いますか?」
明さんに聞かれて、蔵書で知り得た情報、じいちゃんから口伝で伝えられた情報、自分で色々調べた情報を全て自分の中に落とし込んで、自分の中に改めて「安倍晴明」を描き出す。
「御先祖様ですか⋯⋯⋯“稀代の陰陽師・安倍晴明”⋯ですかね。」
「え⋯っと?」
「そのまんまの意味ですね。⋯ご本人には会えないじゃないですか?どうしたって過去の人なので。それこそ、御先祖様が、記憶と人格を持ったまま、生まれ直さない限り⋯。なので、俺が持っている情報を全部集めて描き出したら、やっぱり凄い人だなぁって、思います。」
「ほう?」
視線で続きを促されたので、そのまま続ける。
「⋯世間では、ずば抜けた霊力と才能を持ち、呪術を主とした陰陽術で妖魔を払う天才陰陽師として知られています。まぁ、それは事実ですが、才能ーーそれ以上に御先祖様は、類い稀な努力家であったと伝記にも家伝にも残されています。そして、天才と言われながらも、実は活躍は遅咲きだったとも。それってその間、才能に溺れることなく、修行なり勉強なりしていたってことでしょう?だからこそ、誰にも負けない、唯一無二の“稀代の陰陽師・安倍晴明”!⋯⋯⋯どうしました?」
少し熱く語っちゃったな、なんて思いながらちょっと照れながら明さんを見ると、⋯⋯⋯何故か、両手で顔を覆っていた。
いったい何が?!
俺の視線に気付いたのか、慌てて手を顔から外して、コホンって咳払いしている。
なんとなく、この行動には触れない方が良いような気がしたので、話を振ることにした。
「明さんは、⋯どう思います?」
「⋯え?!」
「え?」
何故か、とても驚かれた。
「あ、いや⋯⋯⋯ン、ンンッ!⋯そうですね。私も⋯⋯晴人くんと同意見です。それに⋯⋯⋯安倍晴明は、必ず、約束を守る。」
「⋯え?」
再度咳払いをした後、明さんは視線を御堂に向けて、真面目な表情に戻る。
明さんの言葉に、聞き返すと、想いを馳せるように、夜空を見上げる。
真剣な目が、まるで星を読んでいるようだ。
「⋯⋯もし、彼が見た未来が、彼が転生先を指定するほど、危機的なもの、もしくは悲惨なものだったとして、それを予知して放っておくほど人でなしでは無い。例え、その身に人外の血が混ざっていようとも、生まれた地を愛し、切磋琢磨した日々、関わりあった人々、自分と同じ血脈達⋯それらを大切に思う気持ちは彼も持っている。⋯と、私は思いますよ。」
「⋯⋯⋯⋯。」
にこにこしているいつもとは違う。
神々しい、その姿。
暗い林の中で、淡く光を発しているような錯覚を起こす。
ふっと、明さんの表情が緩む。
「それに、安倍晴明が生まれ変わっていても行動を起こさないのなら、それは⋯⋯「まだ、その時ではない」って事なのでしょう。」
「え?」
「これもまた、私の見解ですけどね。⋯もし、彼が生まれ変わっても表立って行動していないなら、それはきっと、この先に起こるなにかへの“準備中”なのではないでしょうか?」
にこっと笑う、明さん。
さっきの雰囲気は見間違えかと思うほど、いつもの雰囲気に戻っている。
「準備中⋯⋯。そう、なの⋯かな?⋯うーん⋯そう、なの⋯かも?」
俺の反応を見て、くすくすと笑う。
「子孫達が、心配してくれてるなんて、彼も喜んでるんじゃないですかね。」
「⋯⋯⋯案外、恥ずかしがり屋なのかもしれないですしね、御先祖様。」
「ぶっ!あはははははっ!」
吹き出して、笑い始めた明さん。
思わず後退ってしまった。
⋯いつもどおりじゃなかった。
どうしよう。
槍が降るかもしれない。
後で、占っておこう⋯。
「⋯ふふっ⋯⋯はぁ〜⋯笑った⋯。⋯おぉ、大笑いすると、頬が痛くなるんですね。⋯ふむ、肺活量も⋯」
⋯⋯⋯明さん、今までどうやって生きてきたの?
一通り、自分の体の観察を終えた明さんは、穏やかな顔をしている。
「心配しなくても、彼は現れる。そして、それはそんなに遠い未来じゃない。⋯⋯私はそう思います。」
にっこーと笑う明さん。
何故か、背中がゾワリとした。
「えっと⋯⋯そう、かな?」
「なに、他人事みたいに言ってるんです?多分、晴人くんの前に現れますよ?なんてたって、先祖返りなんですから。」
「ええっ?!」
「さて、19時を回りましたし、ご飯、食べましょう。」
「えぇ!?ちょっと、明さん?!」
「さて、今日のご飯はなんでしょうね?」
爆弾落として、さっさと戻っていく明さん。
聞き捨てならないセリフを残して⋯。
明さん、絶対色々情報持ってるよね?!
嫌だ。
面倒なことには、絶対に関わりたくない。
俺は、平穏に生きていきたいのだ。
よし、やっぱり血脈も含めたセキュリティ強化だ!




