第7話 晴人と明①
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その後、那智と狼牙達と箱庭内の自宅に行って、使い魔達から農作物の報告を受けたり、寝殿造の建物内で呑んだくれてる鬼の様子を見たり⋯全く聞いてなかったけど。
田圃を見たり、鶏に怯えられたりしながら、滞在時間約2時間。
外の世界に戻ってきた。
なんだか急に現実に戻されたみたいで、うら寂しい気持ちになる。
けもの道を出て、手入れがされた道を戻ってくる。
(⋯明さんはまだみたいだな。)
スマホで時間を確認すると、18時を回ったところだ。
ここからは見えないが、日もまだ沈みきっていないようで、明るさもある。
家に戻る前に、御先祖様の御堂に寄ることに決めた。
林の中に入るとさすがに暗い。
スマホで灯りを照らしながら進み、御堂の前にたどり着く。
うちの御先祖様。
ーー稀代の陰陽師、安倍晴明。
ある時は小説の主人公、ある時は漫画で主人公のサポーター、ドラマに映画、能や歌舞伎、様々な文学、芸能の題材に取り上げられ、日本人なら誰でも知っているといっても過言ではない、実在した歴史上の有名人。
その知名度は、三英傑にも劣らないだろう。
一説には、一度はライバルだった「蘆屋道満」に殺害されたのに、呪術で生き返ったと、伝えられている⋯。
⋯⋯⋯⋯生き返るって何?
呪術でって⋯それ大丈夫なのか?
昔の時代のことだから真相は分からないけど、⋯俺は死ぬよ?多分⋯いや、絶対。
俺、生まれたのが現代で良かった⋯。
俺には、確かにこの血が流れている。
先祖返り⋯はどうか分からないけれど、溢れる霊力と、それを使って結界を張ったり、索敵したり、使い魔を使役したりと色々出来るのは確かだ。
けど、この時代では妖魔と戦うなんてことはない。
呪術なんてのは、俺は関わったことは無い。
(そもそも、物の怪や妖怪と呼ばれる妖魔達は、妖魔界に移ってしまったし、時々発生する人間由来の怪異達は、こんな田舎じゃ殆ど見ないしな⋯。出会っても死霊くらい。簡単に払える程度の⋯。)
「もう、すっかり暗くなったよ?晴人くん。」
「うわぁっ!」
急に声を掛けられ、驚き過ぎて声を上げる。
振り返ると、いつの間にか後ろに居た明さんが、握った拳を口に当てて、「ただいま。」って笑っている。
「⋯お、おかえりなさい⋯。って、明さん、いつの間に?」
「今さっきですよ。遅くなりました。」
スマホを見ると、“18:20”。
メッセージでは2、3時間って言っていたから、時間内だ。
19時頃を想定していた俺から見たら、早いぐらいだ。
「⋯いやいや、そんなことないですよ。」
「そうですか?それなら良かったです。」
にこにこと微笑む明さん。
⋯いや、全く気配を感じなかったけど?
いくら考え事してたといっても、声を掛けられるまで全く気付かなかった。
(⋯⋯⋯俺が?⋯⋯嘘だろ?かくれんぼの天才と言われた俺が?)
(※注:鬼の時は隠れているのをすぐに見つけてしまうし、隠れている時は絶対に見つけられない為、颯介が「お前はかくれんぼの天才かよっ!」と、皮肉で言っただけ。要は、索敵能力を使った、霊力の無駄遣い。)
⋯⋯この際、比較対象が颯介達三兄弟しかいない事実はさておき、明さん⋯何者?
「⋯⋯明さんって、実は先祖返りとか⋯だったりします?」
「⋯⋯え?」
明さんが珍しく、目を見開いて驚いている。
いつもは、穏やかな時も、怒っている時もにこにこしているから(ある意味怖い)、表情が変わるのは珍しい。
場違いにも「あっ、この人も人間なんだな」って、思ってしまった。
⋯⋯さすがに心は読めないよな?
「⋯⋯何でそう思ったんです?」
真面目な顔をした明さんが聞いてくる。
ん?
⋯⋯あ、まずい。
ちょっとびっくりして、他のこと考えてたわ。
⋯先祖返りの話だよな?
「いや、明さん⋯⋯普通に強そう⋯っていうか、凄そうっていうか⋯。俺、気配感知できずに後ろ取られたの、初めてですよ。これでもかくれんぼの天才って言われてるのに⋯。」
思わず、後頭部を掻きながら乾いた笑いを浮かべてしまう。
今度はキョトンとした明さんが、ふっと笑う。
今日は表情豊かだ。
「私は、違いますよ。かくれんぼは分かりませんが⋯⋯経験の差でしょう。先祖返りがそんなにポンポンいたら、安倍晴明も、力を傍系に逃がして隠すのではなく、堂々と権力握りにいくように言い残したと思いますよ?」
「⋯⋯⋯先祖返りって⋯⋯なんでしょうね?」
明さんの答えに、俺は以前から疑問に思っていたことを口にする。
「⋯なに⋯⋯とは?」
「だって⋯⋯今のこの時代に、必要ないじゃないですか?平安時代とは違って、倒さなければいけないような妖魔がいるわけでもないし⋯。それに、この時代には、科学の力がある。」
「⋯まぁ、お金さえあれば、ある程度のことは出来ますね。⋯陰陽術なら、経費削減の上エコですけど。」
「⋯エコですね、確かに。」
門も玄関も自動で開くし、防犯もしっかりしてるけど、必要なのは霊力で、電気代はかかってない。
しかも、認証付きの超優秀セルフSECOMだ。
「⋯⋯君にとって、安倍晴明の血は⋯負担ですか?」
意識を向けると、笑みのない、真面目な顔をした明さん。
思わず息を呑む。
そして⋯その顔を見た瞬間、ちゃんと答えないといけない気がした。




