第36話 反撃、そして⋯
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ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ⋯
電子音が聞こえる。
うん、またこの展開かぁ⋯。
せっかく、この機械外れたと思ったのにぃ⋯。
「晴人くん?気付きましたか?」
声のする方に目だけを動かす。
(⋯⋯⋯あれ?身体が動かないぞ?)
「晴人くん、身体、動かせます?」
声の主は明さんだ。
明さんに聞かれて、もう一度身体を動かそうとしてみる。
やっぱり、上手く力が入らない。
動かそうと強く力を入れてみるも、体が固まったみたいだ。
「どうやら無理そうですね⋯⋯。」
明さんが、とても不安げな表情だ。
「晴坊、声は出せるか?」
今度は史道さんの声。
明さんと反対側から、聞こえた。
声⋯⋯声か。
先ずは口を動かしてみる。
ほんの僅かだけど動いた。
次は、声⋯⋯⋯⋯無理だ。
喉にも力が入らない。
声を出すって、意外と筋肉を使うのな。
「⋯⋯出せないか。」
「⋯⋯ちょっと待っててくださいね。」
明さんが、病室を出ていき、次に戻ってきた時には玄を連れていた。
「千里と交代で、玄を連れてきました。⋯⋯晴人くん、玄は君の使い魔なので、恐らく「念話」で話せると思うんですが⋯⋯霊力を練る事は出来ますか?」
明さんに言われて、そっと目を閉じる。
身体に力は入れず、刀印を結ぶイメージをする。
そして、額に意識を集中させる。
ズキンッ
左胸に小さな痛み。
丑の刻参りの影響か、いつもより練りづらい。
それでも、痛みを無視して少しずつ霊力を高める。
「大丈夫ですよ、晴人くん。それくらいあれば、大丈夫。では、玄、頭の中で、魔力を込めつつ、晴人くんに話しかけてください。」
「おう、分かった!」
『⋯⋯は⋯⋯』
ん?何か聞こえた気がする。
頭の中で、何かが響いたような変な感じ。
『⋯⋯⋯ーい⋯⋯⋯か⋯⋯⋯⋯。』
ん、あともう少し⋯。
『⋯⋯おーい、聞こえてるか?晴っ!』
『⋯⋯聞こえたっ!』
『うおっ!デカイ声出すなよ、ビビるだろ?』
『いや、音量調節とか、ちょっと分かんないけど⋯⋯今はどう?』
『おう、ちょうど良いぜ!』
「どうです?出来そうですか?」
『はい!』
「うす!大丈夫だ!」
「では、玄、通訳をお願いしますね?」
「任せろっ!」
念話が成功し、俺の言葉は玄が伝えてくれる事になった。
「颯介くんが、慌てて私に連絡してくれたんです。時間も時間なんで、彼には帰ってもらいましたけど。颯介くんから大体のことは聞きました。⋯大変な目にあいましたね。」
「まさか、ストーカー少女が来るとはなぁ⋯⋯。ナースステーションも、たまたま看護師が居なかったらしいぞ。」
あー⋯だから病室まで⋯⋯あれ?
『なら、彼女は看護師さんに聞いて病室まで来たわけでは無いって事?』
「⋯⋯そうなるな。」
「颯介くんも、何故彼女が入院先を知っていたのか不思議がってましたよ。」
だよねぇ。
病院内にもセキュリティが必要かもしれない。
悪意を遮るやつ。
⋯あーー⋯でも、彼女の場合は、あれが悪意なのか分からないな⋯。
元々、思考が少し変わっているだけかもしれない。
⋯⋯そっちの方が怖いな。
「ただまぁ、色々と仮説は立てれる。⋯が、先ずは晴坊の状態についての説明だな。」
「ええ。⋯⋯晴人くん、君、丑の刻参りとは別の呪いに侵されています。」
『⋯⋯丑の刻参りとは別の⋯?って事は、2つの呪いに掛かってるの?俺。』
「そうです。それで⋯⋯原因も分かっています。」
明さんがそう言うと、史道さんが護符が貼ってある透明な瓶を、横になっている俺にも見えるように掲げる。
中に入っているのは、紺色のリボン。
「例の少女が持ってきたクッキーのビニール袋を縛っていたリボン。これ、裏に呪詛が描かれています。」
『呪詛が?』
「恐らく、身体の動きを奪う呪いだ。」
『身体の⋯⋯これ、いつまでこの状態なんですかね⋯』
「分からん。だが、ずっとという訳ではないはず。」
「ええ、恐らく。一応封印していますが、このリボン自体にはもう、効力は無いですね。一度きり、しかも、晴人くんが気付かない程度の霊力しか無かったはず。」
「せいぜい1日か2日⋯⋯晴坊の今の抑えられてる霊力だと、長くて3日ってところか。」
「まるで、丑の刻参りの補助をしているみたいですね。」
『補助⋯⋯⋯なんで彼女が?意味が分からない⋯。』
彼女は何がしたかったんだ?
あれだけ好きって言っておきながら、なんでこんな事に?
「さっき言ってた仮説だけどな?⋯晴坊がストーカー少女に虐められた日。あの日、お前の異母兄が、あの場に現れたって話したろ?覚えてるか?」
『あ、はい。覚えてます。』
「研は離れた所に居たから詳しい事は分からないが、もしかしたら、そこであの少女と高坂秀治の間で繋がりが出来た⋯もしくは何かしらの取り引きがあった⋯のかもしれない。」
『兄とあの子が?』
「断定は出来ないが⋯⋯今回の事や今の状況を考えると⋯⋯可能性はある。」
「かなり高いと思いますよ。さすがにただの女子高生がこの呪詛を持ち込むなんて⋯⋯これが普通だったら、世も終わりですよ。」
「まぁな。」
『確かに⋯。』
「それと、こんな状態なので、しばらく退院は出来ません。」
「医者も、何が起きてるんだって慌ててたからな⋯。」
『でも、このままだと、病院も困りませんかね?』
「このままだと⋯少しまずいかもしれませんね。」
「とりあえずは、今夜だ。」
「そうですね。この新しい呪いの影響があるかどうかも分かりませんし、今夜で終わるかどうかも⋯。」
『うん。』
「さっさと呪詛返しで終わらせたいが⋯身代わり人形がな。後は、奴らの正体を暴けるかどうか。狐共にかかってるな。」
玄がビクッとしたけど、触れないでおこう。
「少し休んで、備えましょう。」
「ああ。」
『はい。』
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午前2時。
時間だ。
⋯カーンッ カーンッ カーンッ カーンッ⋯
釘の音と共に、左胸に痛みが走る。
けれど、今は身体が動かせない為に、左胸を押さえることも、呻き声をあげることも出来ない。
左胸を押さえても痛みが軽減する訳じゃないけど、押さえていないといつも以上に痛みを強く感じる。
ーーもどかしい
ーー痛い
ーー苦しい
「今夜、ケリをつけましょう!ーー反呪っ!!」
明さんが術を発動させると、黒い靄の形をした邪気が可視化される。
俺の傍で動きを止め、来た方向へと戻っていく。
「今日は多いな。そして、濃い。」
「ええ。あちらも勝負を賭けてきたのでしょう。」
「まあ、それはこっちもだけどな。⋯おい!狐共!後を追って、その先で待機だ!この邪気が消えたら、「身代わり人形・改」を発動させるっ!それを追えっ!」
「はあ?!なんでお前に指示されなきゃ⋯」
「千里。⋯⋯やってくれますね?」
「⋯⋯⋯⋯いえっさー。」
うわぁー⋯明さん、笑顔で千里を黙らせた。
千里、明さんの事怖いって言ってたもんな⋯。
明さん、本当に一瞬だけど、霊力上げたよね?
頑張れ、千里。
俺の為に。
そして、1分と経たないうちに、邪気が全て病室から出ていく。
「次はこいつだ。奴らの身代わり人形は、今の跳ね返りで、既に使い物にならないだろうからな。」
「ええ。向かう先は⋯⋯」
「「術者だ。」」
「身代わり人形・改ーー解呪っ!!」
改くんが、光を放ち、大量の黒靄が立ち上がる。
そして、さっきとは別の方向へと飛んでいく。
飛びながら、先が幾つかにバラけていく。
「何ヶ所かに分かれているようですね。」
「ああ、他の気狐達も呼んでおいて正解だったな。あとは⋯呪具の回収だ。」
「ですね。」
明さんが、こちらを向く。
「晴人くん。これから私と史道も奴らの方へ向かいます。ここは一時的に空になりますが⋯⋯結界を張っていきます。看護師さんが来るかもしれないので、絶対防御にはなりませんが、悪意を持つ者は入れませんので、安心してください。」
俺は、明さんの言葉に、瞬きで返事をする。
それを見た明さんが微笑む。
「必ず、呪具を回収してきますね。」
そう言うと、窓のサッシに手をかけ、2人とも飛び降りた。
ーーここ、三階ですけど?
いや、俺は何も見てない。
あれは気のせいだ。
もしかしたら、俺の勘違いで、ここは2階なのかもしれない。
⋯⋯⋯いつか俺も、三階から飛べるかなぁ⋯。
ガチャッ
ん?今、扉が開いた音がしなかった?
くそっ、体が動かせない。
コツ コツ コツ コツ コツン
「ハルくん、見ぃ~つけたぁ。ふふふっ。」
⋯⋯⋯ああ、地球よ。
頼むから、滅びるなら、今。
今、滅びてほしい。




