第34話 反撃の狼煙
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ーー午前1時50分。
いつも釘を打つような音が聞こえるのは、決まって午前2時。
律儀だよねぇー。
ベッドサイドには明さんが、足元には史道さんがスタンバっている。
そして、外では玄と輝が、性懲りも無く集まってくる黒蛇を払い除け、千里と環さんは千里眼を使って黒蛇の元を探っている。
そして俺の顔の横には、「身代わりの藁人形・改」も、準備万端。
これは、史道さんお手製の改良版。
本来の身代わり人形は、呪われた人の代わりに呪いを受けてくれるだけの人形。
呪いの種類や強さによっては数回受けてくれるけど、「死」を招くような呪いには1回で黒焦げになる、言わば使い捨て。
そして、呪いが届く前に祓ってしまえば未使用で終わる。
けど、この「改」くんは、たとえ祓っても、近くで呪いの邪気を感知すると、少量ずつ溜め込み、人形の中で倍に増やし、解呪と共に、術者の元へ邪気を送り返す「倍返し人形」くんなのである。
怖い。
絶対に、史道さんを敵に回してはいけないのである。
まぁ、そもそも人を呪わなければ良いんだよ。
人を呪わば穴二つ⋯⋯俺は入らない予定だよ、墓穴には。
カチッ カチッ カチッ カチッ⋯
2時まであと1分。
「晴人くん、そろそろです。」
「はい。」
「晴坊、今夜は俺達がいる。気を楽にな。」
「⋯ありがとう、ございます。」
皆がいる。
皆が、俺を助けようとしてくれている。
だったら俺も。
こんな卑怯なやり方には、絶対に負けてやらない。
カチッ
⋯カーンッ カーンッ カーンッ⋯
来た。
丑の刻参りが、始まった。
ズキン ズキン ズキン ズキン ズキンッ
痛みが出るのも早くなったな。
明さんが、刀印を結び指先を顎につける。
明さんの霊力が、高まっていくのが分かる。
前から思っていたけど、明さんって、凄い霊力量だよな。
先祖返りの俺と、そんなに変わらないんじゃないか?
もし、御先祖様が生きていたらーーいや、御先祖様がもし、既に生まれ変わっていたとしたら。
明さんぐらいの力を持ってるんじゃないだろうか。
ズキンッ
「ぐっ⋯!」
一際強い痛みに胸を押さえる。
「ーー反呪!!」
明さんが、空に五芒星を描いて、俺に向かって反呪術の呪文を唱える。
明さんも、うちに来てからは「晴人式」である。
まぁ、効果は明さんの方が、断然上だけど。
俺の身体が、優しい光に包み込まれる。
それと同時に、胸の痛みが引いていく。
そして、さっきまで見えていなかった、窓の外から長く伸びる黒い靄が、突如頭上に現れて、俺を包む光に跳ね返されて戻っていく。
「千里、環っ!」
「「はっ!お任せを!」」
史道さんの呼び掛けに、千里と環さんが、窓の向こうで応える。
そして、黒い靄を追いかけて行った。
「⋯⋯ひとまず、これで様子を見ましょう。⋯⋯晴人くん、身体はどうですか?」
「明さんが術を発動させてからは、痛みは消えました。ありがとうございます。」
「それは、良かった。今回は、術者を見つける為に、呪いの打ち消しでは無く、防御に重点を置いたのですが⋯さてさて。2人が帰ってこないと分かりませんね。」
「呪詛返しとは違うんですか?」
さっきの呪文。
あれは、呪術全般への対抗手段だ。
防御、無効化、解除、封印、遮断、打ち消し⋯どこに重点を置くかは、術者のイメージ次第。
「まぁ、呪詛返しでも良かったんですが、ほんの少しでも返せない確率を残したくなかったんで、防御に全振りです。まぁ、成功すれば、呪いは術者の元へ戻るので、結果は似たようなものですね。」
「まぁ、馬鹿じゃなければ、向こうも何かしら対策はしているだろう。そういう意味じゃあ、この「身代わり人形・改」が後で良い仕事するだろうよ。」
「呪いは少しでも吸収出来ましたか?」
「ああ、バッチリ。」
うわぁー⋯2人して、悪い顔でニヤって笑ってるぅー。
俺が敵なら、土下座して謝ってるよ。
明さんと史道さん。
2人がいれば、怖いもの無しに思えた。
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「「すみません、やられました。」」
環さんと千里が、項垂れて帰ってきた。
「やられた?」
「はい、あの黒靄が戻っていく先を追っていったんですが⋯」
「その先には、身代わりに使っただろう、藁人形が残されていただけでした。⋯⋯これです。」
千里が黒く焦げた藁人形を、ベッドテーブルの上に置く。
「⋯まぁ、そうするでしょうね。」
「あいつら、お前が戻ってきた事を知ってるようだな。」
「ええ。」
明さんと史道さんが、顔を見合わせる。
そして、皆の視線が、藁人形に集まる。
まぁ、呪いをかける以上は、返される事も視野に入れるよねぇ。
家業としてやってるなら尚更。
「これは、俺が焚きあげておこう。」
そう言って、史道さんが藁人形を護符で包む。
「こちらはどうなりましたか?」
「うん、今回のは祓い返した形になるね。あとは⋯史道の「藁人形・改」もちゃんと機能している。」
「と、言うことは⋯」
「とりあえず、あと2夜だな。報復はその後だ。」
環さんの問いに、明さんと史道さんが答える。
「今回は返す形になりましたが、相手の術者は無事。なら、明日、明後日と、続くでしょうね。晴人くん、大丈夫ですか?」
「⋯うん、大丈夫。俺には、皆が居てくれるから。」
そう言うと、皆の表情が少し柔らかくなった。
術の完成まで、恐らくあと2夜⋯⋯。
絶対に乗り切ってやる。




