第33話 暗中模索
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千里達が帰った後、看護師さんが来て、明日の検査について、色々説明してくれた。
その後しばらく、眠っていたようで、目を覚ますと、窓のカーテンは閉められ、代わりに照明が点いていた。
ーーまた、夜が来る。
病室を見渡すと、簡素な個室なのが分かる。
夜中の胸の痛みの事を考えると、周りに人が居ないのは助かる。
きっと環さんが気を利かせてくれたのだろう。
ベッド上のテーブルには、いつの間にか食事が置いてあった。
(そういえば、朝はミルクティーだけだし、昼はパンだけ⋯流石にお腹空いた⋯)
身体を起こして、テーブルを手前に引いて、箸を取る。
病院食は薄味で美味しくないと聞くけど、普通に美味しい。
色々制限があったり、病状によって粥だったりするんじゃないかな。
せっかくその人の身体を思って作ってくれてるのになぁ。
食事を済ませて横になっていると、ノック音が響く。
「はぁーい。」
返事をすると、ドアが開き、明さんが入ってきた。
約10日ぶりの明さんだ。
顔を見た瞬間、一気に安堵した。
ホッとして、心が温かくなる。
身体中の力が抜ける。
同時に、自分がどれほど緊張していたのかを知る。
心も、身体も。
「⋯明さん⋯⋯。」
明さんが俺の顔を見て、いつもの穏やかな笑顔を見せる。
そのままベッドサイドまで来て、椅子に座る。
「大変な、11日間だったようですね。」
「はいぃー⋯。」
「そんな時に傍に居られず、すみません。」
「いや、そんな⋯!誰も予期出来ませんし、それに⋯明さんも大変だったでしょう?」
少し前に史道さんから聞いた、神託の話を思い出す。
明さんは、仕事とは別にその件でも色々動いていたはず。
「ええ、まぁ⋯⋯本当に⋯⋯何年経っても彼は⋯⋯」
明さんが若干疲れた顔をする。
彼とは、史道さんのことかな?
でも、そうなら名前で言う?
確か、当主会議があるって史道さんが言っていたけど、そこで何かあったのかな?
「当主会議が上手くいかなかったんです?」
「ああ、史道に聞いたのですね。まあ⋯⋯大丈夫ですよ。」
「当主っていうのは、直系の方々と?」
「それもありますが⋯メインは、違います。蘆屋家、賀茂家、あと⋯本来なら桜庭家、ですかね。今回は私が代理です。」
「え?そうなの?⋯⋯⋯賀茂家っていうと、平安時代に安倍家と双璧と言われた、あの?でも、あそこは⋯」
「ええ。あそこも直系は戦国時代末期に断絶、傍流の幸徳井家も今は表舞台からは消えていますが、安倍家と同様、史実とは別の隠れ傍流が存在します。それが平安から脈々と続く賀茂家の裏の直系、そして現当主は賀茂光希です。⋯⋯私や史道より1つ上の、少々癖のある男ですよ。」
「へぇー⋯それは知らなかった⋯。」
「まぁ、この辺は、当主になった時に伝えられる話なので、今の晴人くんが知らなくても仕方が無いですよ。⋯それより⋯身体はどうですか?」
明さんが、心配そうに眉を寄せる。
「今は⋯⋯とにかく身体が重くて⋯⋯何か気力が無い?うーーん⋯やる気が起きない⋯?かな?」
「それは⋯⋯困りましたね⋯元々、晴人くんのやる気は低空飛行なのに⋯。」
「⋯⋯⋯そんなこと⋯⋯」
明さんにニコッと微笑まれた。
ありますね、あります。
俺のやる気はいつも低空飛行です。
「⋯⋯今は、墜落の危機です。」
「それは、大変です。」
そうなんです。
もう、俺、ベッドから降りたくないもの。
「⋯晴人くんの身に起きていることですが、これは、呪いです。」
「⋯⋯やっぱりですか?」
「ええ。今、玄と輝が、病院に集まってくる黒蛇を一匹ずつ捕獲していますが⋯次から次へとやってきますね。」
それで2人の姿が見えないのか。
それにしても⋯
「黒蛇?」
「黒蛇は、使い魔です。しかも、高坂家が代々好んで使役しているそうです。」
「高坂⋯⋯じゃあ、この呪いも?」
「恐らく⋯⋯。今、史道が調べてくれています。晴人くん、最近、高坂家の者と接触しましたか?」
明さんに聞かれて記憶を呼び起こし、ここ1ヶ月くらいを遡る。
「⋯⋯⋯⋯いえ、記憶に無いですね。休日も村から出てないし、村の人か学校の人としか接してないです。」
「⋯うーん⋯学校の関係者に、新しく仲良くなった人は?」
「⋯⋯仲良いのは、颯介だけです。」
あ、なんかちょっと可哀想な子を見る目になった。
いやー、知らない人と接するのは疲れるし、あまり周りも寄ってこないんです。
あっ、そういえば⋯⋯。
「⋯⋯⋯そういえば、10日前までストーカーされてたのと、肝試しで、颯介以外に女子が2人居たのと、サッカーで、クラスの男子が何人か⋯⋯話したかな?」
「ストーカー⋯⋯⋯それは?」
山下さんの話をする。
まぁ、例の口が触れた件はぼかして。
口に出すのも、こうして話して思い出すのも、本当は嫌だ。
記憶ごと消してしまいたいくらいに。
けど、いつ、どんな時に、どんな記憶が必要になるか分からないために、実際に消すことはしない。
まぁ⋯⋯消したいくらい嫌な思いでも、この1件だけだけど。
今は極力思い出さないように封印状態。
「⋯⋯⋯独特な⋯変わった子ですねぇ。お疲れ様。」
明さんに頭を撫でられた。
そう、俺は頑張ったんですよ⋯⋯再封印しても良いかな?
「今、その子との接触は?」
「無いです。⋯⋯そういえば、彼女、あれからずっと休んでるって颯介が言ってましたよ。」
「⋯⋯そう、ですか⋯⋯。聞く限りは、そんな繊細なタイプには感じませんが⋯。」
「⋯⋯あ。⋯この間史道さんが、その日、俺が帰った後に、俺の異母兄が、学校に現れたって言ってました。」
「⋯⋯君の兄が⋯?ふーむ⋯。」
「⋯⋯⋯そう、そういえば、千里もあの肝試しの日も、深夜に異母兄が旧校舎に居たって言ってた⋯。」
「ふむ、どちらも異母兄⋯⋯高坂秀治ですか。」
もう、高坂が無関係っていう方が無理があるな。
コンコンッ ガラッ
返事をする間もなく、ドアが開き、史道さんが入ってくる。
⋯⋯ノックの意味とは?
「よう、晴坊。お前⋯⋯次から次へと⋯⋯面白いことになってるな?」
「史道さん⋯⋯。」
「何、呑気なことを。」
他人事のように言う史道さんに、明さんが注意をする。
史道さんは素知らぬ顔だ。
「それで、晴坊から聞けた事は?」
明さんが、さっきまでの話を史道さんにもする。
「ああ、例の⋯顔が酷え事になってた時か。」
「そうです。」
「それから、肝試しの時の呪具に、高坂秀治ねぇ⋯⋯。」
「あ、あの時の魔鏡は?」
「ああ、あれはこのまま、こっちで預かる。」
何やら研究するんだね。
良い事に使われることを祈る。
「何か分かりました?」
明さんが尋ねると、史道さんが顎に手を当てながら答える。
「まず、これは“丑の刻参り”又はそれの類似呪術だ。これは、分かるな?」
「はい、そうじゃないかとは思ってました。」
「⋯通常、丑の刻参りは7日間毎夜儀式を行い、7夜目に願いが叶う。ただ⋯⋯俺達陰陽師や呪術師の呪術と、邪術師の儀式が同じかは分からない。更に、改良されている可能性もある。ただ⋯初めに痛みが出てからの様子を聞くに、日数的には7夜である可能性が高い。」
「7夜⋯今日は5夜目⋯。」
明さんと史道さんの顔に真剣味が増す。
「晴坊。丑の刻参りには、藁人形が呪具として使われる。これは知ってるな?」
「はい、知ってます。」
「そして、より効果を強めるには、藁人形に対象者の写真を貼ったり、藁人形の中に対象者にまつわるものを入れる。」
「対象者のってことは⋯」
「お前の物ならなんでも。常に身に付けている物や、髪や爪、体液なんかだな。」
「体液⋯⋯血を吐いたのは今日だし、俺の髪や爪⋯⋯そんなもの⋯⋯⋯」
『高坂の長男が深夜に旧校舎でなんかしてるのを、この目で見てましたからねぇ。』
旧校舎?
「⋯⋯⋯あ。髪の毛⋯⋯。」
「何か思い当たる事でも?」
「いや⋯⋯あの肝試しの時、邪気が凄くて⋯。皆が体調を崩していたから、護符と俺の髪で、簡易御守りを作って、颯介と女子2人に渡したのを思い出した。けど⋯。」
「あー⋯なるほど。⋯⋯その時に余分に抜けた髪を落としたのを拾われたかもな⋯。渡した奴らが、高坂の関係者じゃなければ、だが。」
「メンバーはクジ引きだったし、あの女子2人が高坂の関係者とは思えないけど⋯⋯。めっちゃ怖がってたし、霊力なんて全然。」
「その子達、今は学校には?」
「普通に来てましたよ?来てないのは、意識不明だった12人と⋯⋯あの例の彼女と⋯⋯あ、あと取巻の人が1人噂をばら蒔いた後から来てないって颯介が⋯」
「うーん⋯そうか。まぁ、それは一度調べてみよう。ただ、呪具は強化されてる可能性が高いな。」
「ええ。肝試しの後に旧校舎に現れたというのもそうですね。後で千里に詳しく聞いてみましょう。なぜ始末しなかったのかも含めて。」
「うん⋯⋯ん?始末?」
ニコッと笑う明さんと、無言の史道さん。
聞き間違いかな?
「⋯でも、髪の毛って、あの旧校舎で見つけられるものですか?」
「普通の人なら難しいですが、奴らには使い魔がいますからね。」
「晴坊の髪なら、例え1本だろうと、かなり霊力を含んでるだろうからな。霊力を含んだものを探させればいい。」
「あ⋯⋯そうか。そうだね。」
お守りの御神体に使えるわけだから⋯霊力感知さえ出来れば、難しくないのか。
「やる事は2つ。まずは、今夜。送られてくる呪いを祓う。もしくは、身代わり人形に呪いを移す。あとは、呪具の回収。」
「呪具の回収は、使い魔達に頼むしかないでしょうね。証拠も無いのに、生身で乗り込む訳にはいかないですし。」
「ああ。最終手段だな。」
ん?
最終手段って事は、それも最後にはありうるの?
「あとは、祓うのに失敗した時の為に、身代わり人形も作っておきましょう。晴人くんの髪を後で1本くださいね。」
「はい!」
明さんと史道さんを中心に、今後の流れが決まっていった。




