第32話 暗転
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今日は一日、グッタリと過ごした。
今朝、神社下の鳥居で合流した時から、颯介の視線が痛い。
朝からずっと、眉間に皺を寄せて心配そうに俺を見ている。
颯介だけじゃなくて、クラスの皆も気遣わしげな視線を送ってくる。
その視線に気付いていない訳じゃないけど、今日は愛想笑いする元気は無かった。
まぁ⋯⋯いつもしてないか。
ーー放課後。
重い体をノロノロと動かし、グラウンドに向かう。
(これじゃあ、かえって邪魔だな。知識は詰め込んでも、体の動きは別だし⋯。)
メンバーが集まり、練習が始まる。
「もう無理だと思ったら、抜けるね。」
そう声を掛けて、皆に心配されつつもキーパーのポジションにつく。
「無理するなよー。」
「お前に何かあったら、俺たちの命が⋯⋯。」
⋯⋯⋯なんか、命が脅かされているみたい。
俺もこんなんだし、世の中物騒だな。
怖い、怖い。
キーパーは、他のポジションのように走り回りはしないけど、ボサっと立っているわけじゃない。
もちろん、素人の俺に、指示を出したりなんてことは出来ないし、求められていない。
メンバーから依頼されたのは、
「とりあえず、ゴールに向かってきたボールを止めてくれ。それなら手も使ってよし。」
それだけ。
けど、ちゃんと流れを見ていないと、構えられないから、常に見ていないといけない。
「「「キャーッ!桜庭くん、頑張ってぇー!」」」
⋯⋯⋯なんか、ギャラリー多くない?
あの子達、練習無いの?
しかも、俺⋯⋯⋯まだ、立ってるだけだけど?
頑張るって事は、ボールを追い掛けるの?
「ダメだ、桜庭っ!お前はそこから動くなっ!」
ビクッ
「⋯⋯⋯まだ、動いてない⋯。」
思わず足が一歩、動いたけど。
なんで分かったんだ?
あの子達⋯⋯紛らわしい応援しないでほしい⋯。
あぁ⋯ドッヂボールだったらな⋯。
そうこうしている間に、敵チームがボールを蹴りながらこっちに向かってくる。
「⋯来たっ!」
いつでも動けるように、構える。
味方チームも必死にボールを奪おうと攻めたてる。
味方チームの間を抜けて敵チームの1人が近付いてくる。
よし、止めてや⋯⋯ ズキンッ
「え?⋯⋯⋯あ⋯。」
左胸に、鋭い痛みが走る。
ズキン ズキン ズキン ズキン ズキンッ
「⋯ぐっ⋯!」
あまりの痛みに、思わず胸を押さえて膝をつく。
同時に俺の顔の左側をサッカーボールが横切っていく。
ボールはそのままゴールに入り、地面を転がる。
「桜庭っ?!」
遠くで、驚愕の声があがる。
脈打つ痛みに胸が詰まる。
呼吸が苦しくなり、慌てて空気を吸い込む。
途端に噎せて咳き込み、赤黒い血が吐き出された。
あちこちで悲鳴が上がり、それを聞きながら、俺の意識は段々と遠のいていったーー。
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ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ⋯⋯
ーーーなんだろう⋯⋯機械の音⋯⋯⋯
少しずつ意識が浮上し、ゆっくりと目を開けると、視界には白い天井。
(⋯⋯どこ、ここ⋯⋯)
「⋯⋯⋯晴?」
名前を呼ばれてそちらを向くと、泣きそうな顔をした颯介がいた。
「⋯⋯⋯颯介?」
「大丈夫か?⋯⋯お前、サッカーの練習中に倒れたんだよ。覚えてる?」
「⋯⋯⋯⋯ああ、そうだった⋯⋯急に胸が痛んで⋯」
そう言いながら、左胸に触れる。
触った感じは何も無い。
「お前、血を吐いてるし、意識は無いしで大騒ぎになって⋯。先生達が救急車を呼んで病院に運ばれたんだよ。」
「じゃあ、ここは⋯⋯病院?」
「うん。今、環さんと千里さんが医者から話を聞いてるよ。」
「そっか⋯。」
あー⋯結局、迷惑掛けちゃったな。
やっぱり休んでおけば良かった。
慣れない頑張りはするもんじゃないな。
「坊ちゃんっ!!」
「晴人様っ!!」
千里と環さんが慌てた様子で病室に飛び込んでくる。
「⋯⋯⋯2人とも、ここ病院⋯⋯」
「そんなことより、大丈夫ですか?!」
そんなことって⋯。
「あーー⋯なんか、ごめんね?」
「晴人様が謝る必要はございません。」
「そうだぞ?⋯⋯こうなったらもう、あの野郎どもを⋯」
「こらこら⋯。証拠も無いんだし、ダメだよ?」
千里が握り拳を顔の前でプルプルさせて怒っている。
あの野郎どもって、きっと高坂家の事だと思うけど、確証も無いしな。
呪いって、簡単なものなら祓うのは簡単だけど、手の込んだものや、術師が絡んでいると中々難しい。
祓うだけでなく、媒介となっている呪具自体を破壊するなり祓わないといけない。
⋯⋯⋯って事は、俺の呪いにも呪具が存在⋯⋯する?
「あの、医者はなんて?⋯晴、なんか大変な病気だったりします?」
颯介が環さんに、尋ねる。
「いや、簡単な検査では異常は見当たらなかったようで⋯。ただ、喀血しているということもあり、検査入院になりました。追加検査をしながら経過観察をし、その上で精密検査をするかどうか決めていくことになりました。」
「まぁ、呪いじゃあ異常は⋯」
「え?」
「あ。⋯いやいや、こっちの話。」
おーい、千里。
心の中で呟いてー。
(⋯⋯でも、現実的に症状が出始めたって事は、やっぱり術の完成が近付いているって事だよな⋯⋯。)
ちらっと千里を見ると目が合い、小さく頷き、更に眉間の皺を深くする。
千里も同じ事を思ったようだ。
「とりあえず、颯介くん、家まで送りましょう。」
「え?でも⋯」
「我々も慌てて来たので、晴人様の着替えや手続きに必要な物を取りに一度帰りますので、ついでにお送りしますよ。」
環さんに言われて、颯介が心配そうにこっちを見る。
また、色々抱えているのかもしれない。
俺を休ませればよかったとか、思っていそう。
⋯⋯⋯俺が、元気になったら休ませてくれ。
「大丈夫っすよ、颯介くん。和泉さんがこっちに向かってますから。お説教も、お世話も、教育的指導も、後始末も、全部やってくれると思いやすぜ!」
おい、怒られるのが2つなかった?!
「⋯⋯後始末?」
もう、本当に千里くん⋯⋯お口にチャックだよ。
俺のジト目を気にすることなく、颯介の背中を押して、病室から出ていったのだった。




