第31話 厳重体制です!
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「坊ちゃん。」
「晴人様。」
「「学校、休みましょう。」」
眉間に皺を寄せて、そう言った環さんと千里。
2人共、苦しげに顔を歪めている。
「え?いいの?」
いつもなら、学校に行くように言われるのに、今日は休んで良いと言う。
ベッドから起き上がると、千里が傍らで膝をつき、俺の頬にそっと触れ、そのまま親指で目の下の涙袋をそっと擦る。
「坊ちゃん⋯⋯⋯死相が出てます⋯。」
「しそう⋯⋯え?⋯死相?」
「また夜中に、胸に痛みが走ったんですよね?」
「うん⋯」
月曜日の夜に突如現れた異変は、毎晩現れ、今日で4日目だ。
「今日は金曜ですし、今日休めば土日を入れて3日、休めますよ。」
「⋯⋯⋯そんなに酷い顔してる?」
「酷いなんてもんじゃないっす。ごっそり生気が抜かれてる⋯。」
千里が、珍しく懇願するような目をしている。
「⋯⋯⋯てことは、やっぱりこれは⋯⋯」
左胸に手を当てる。
今、左胸には霊力の低い者には見えない、黒い釘のようなものが刺さっている。
今朝、目覚めた時に現れた、昨日までは無かった物。
中々起き出さない俺を心配して、見に来た千里が慌てて環さんを呼んできた。
そして、これを見た瞬間、2人の表情には怒りと焦り、そして心配が入り混じっている。
やがて、環さんが口を開く。
「それは⋯⋯⋯呪い、です。」
部屋の中に沈黙が落ちる。
「呪いって⋯⋯⋯俺、そういうのに強いはずなんだけど⋯⋯⋯。」
「ですよね⋯。」
「ええ⋯。」
「「「うーーん⋯⋯。」」」
3人とも、腕を組んで悩む。
呪いと言えば⋯⋯
「⋯⋯高坂、かな?」
俺には一つしか思い当たらない。
最近、色々あったばかりだし⋯。
「可能性は高いです。」
「十中八九。」
「ですが⋯⋯、そうだと言い切る証拠も無いです。」
「まぁ⋯そうだね⋯。」
けど、それ以外で、呪いをかけられる覚えも、掛けられそうな術者も、俺は知らない。
「これ⋯⋯⋯どんな呪いか解る?」
俺が尋ねると、2人はじっと、俺の胸元を見る。
そして、ほぼ同時に首を横に振る。
「徐々に生気を奪い、死に至らしめる類のものとしか⋯」
「俺達は、陰陽師じゃないから、そこまで詳しくないんだ⋯」
2人揃って、シュンとしている。
「しょうがないよ⋯⋯俺も分かんないし⋯。この間の件と言い、経験不足が身に染みるよね⋯。」
「それこそ仕方が無いっすよ。」
「ええ。むしろ⋯この時代に、晴人様の年齢で、呪いに詳しい訳が無いです。」
「そうですよ!」
俺は、あまりこの村から出ないこともあって、呪具なんてものは、昔、じいちゃんと見た一回きりだ。
基本的な勉強は、陰陽師としてしていても、なんせ実践が足りない。
「これ、釘みたいに見えるよね⋯。時間帯も深夜二時って言うと⋯」
「⋯⋯丑の刻ですね。」
「うん。どうしても、丑の刻参りが浮かぶよね⋯。」
呪いの儀式として、一般人によく知られている儀式。
用意する物も、比較的簡単。
「でも、実際に民間伝承で知られているものと、呪術師が行うものは違ってきますからねぇ。しかも、邪術師だと、どう変貌を遂げているかもよく分からないっすよ。」
「⋯幸い、今夜、和泉殿がようやく帰ってこられる。」
「明さんが?帰ってこられるの?」
「ええ。彼ならおそらく、呪いの事にも詳しいかと。」
「⋯だと良いなぁ〜⋯。」
何となく、明さんならどうにかしてくれるような、そんな気がする。
明さんの名前に、心が軽くなる。
「⋯⋯じゃあ、頑張って学校、行ってこようかな。」
「え?」
「ええ?!」
俺の決意に、2人がとても驚く。
そうだよねー。
いつもの俺なら、間違いなく喜んで休む。
なんなら小躍りしちゃうかもしれない。
けど⋯。
「⋯⋯今日も、練習があるんだよ⋯。俺、キーパーを舐めてたわ⋯⋯。」
「坊ちゃん⋯。」
「晴人様⋯。」
「⋯⋯だからさ、今日は行ってくる。で、帰ってきたら、明さんに見てもらおう。そしたらきっと、今夜からぐっすり眠れるはずだもん。」
まぁ、絶対とは言いきれないけど、期待を込めて言う。
俺の願望でもある。
頼みますよ、明さん。
環さんも千里も、納得はしていないようで、眉は下がったままだけど、小さく息を吐いた後、それぞれ朝の準備を手伝ってくれる。
環さんは、ご飯の準備に階下へ向かい、千里は制服を出した後、ふらつきながら立ち上がった俺を支えてくれる。
「本当は休んで欲しいんですけどねー。真面目に学校行くなんて⋯坊ちゃんらしくない。」
なんて、ブツブツと不満を垂れる千里。
「ふふっ⋯⋯それじゃあ、俺がいつも不真面目で学校サボってるみたいだからやめてくれる?」
「だって、いつも「眠いー」「めんどくさいー」「休みたいー」って言ってるじゃないですか。」
「⋯⋯それは、本心だよ。出来れば今も行きたくはないよ。けど⋯⋯やっぱり、クラスメイトに迷惑かけっぱなしだからね。ちょっと頑張らないと⋯。」
「⋯⋯⋯無理はしないでくだせぇーよ?」
「うん、分かった。」
着替えてゆっくり階下のダイニングに向かい、食欲は無いので、いつものミルクティーだけ飲み、ギリギリまで時間を使って、支度をする。
(⋯⋯体が重い⋯⋯気落ちする⋯⋯これが呪い⋯⋯)
日に日に弱っていく体。
霊力を練ろうとしても、栓をされているみたいに上手くいかない。
(もしも、丑の刻参りか、その系統なら⋯術が完成する日数があるはず⋯通説なら7日間。あと、3日⋯)
準備が整い、玄関で靴を履いていると、千里がやってくる。
その両隣には、俺の使い魔の玄と輝。
「あれ?2人ともどうしたの?修行中じゃなかった?」
「坊ちゃん、今日はこの2匹を連れてってください。」
千里が2人の背中を押す。
「え、でも⋯」
「こいつらには、他の人間には見えない位置で見守るように言ってありますんで。こんな弱ってる時に、悪い奴らが近付いてきたら、あっという間に攫われますぜ。」
「あ⋯⋯。」
「晴様、よろしくお願いします。」
「任せろよ、晴。」
玄が胸を張り、輝がペコリとお辞儀をする。
「うん。こちらこそ、よろしく。なんか、ごめんねぇ。」
「晴様が謝る事ではありません。」
「そうだぞ!俺達は、お前の使い魔なんだから!」
「ありがとう。」
ニコッと2人に笑いかけると、とても嬉しそうに尻尾をブンブン振っていた。
「⋯⋯とりあえず、耳と尻尾は隠せよ?」
と、千里に耳を引っ張られている。
「「痛いっ!」」
千里に見送られ、いつもより遅い歩調でゆっくりと歩き、颯介と合流して、バス停に向かった。




