第30話 平穏って遠いね
❀ ❀ ❀
「結局、解体工事は延期になったらしいぞ。」
週が明けて、月曜日のランチタイム。
今日は、教室で颯介とお弁当を食べていた。
食べながら、颯介が話し出した。
「へー⋯。まぁ、あんだけ注目されたらなぁ。警察もマスコミもまだ来てるし。」
「捜査が終わってないのもあるけど、高坂グループ側が、手を引いたらしい。」
「あれ?でももう、着工間近だったんじゃ?」
「けど、高坂側も何か家宅捜索入ったみたいで、それどころじゃないらしいぞ。で、学校側も穏便に契約を白紙に戻して、新たに業者を探すって。次は、地元の解体業者になるんじゃないか?この辺、幾つかあるし。」
⋯⋯詳しいな?
どこでそんな情報、拾ってきたんだ?
それよりも⋯。
「家宅捜索?」
「⋯あ、そうそう。ネットで見たんだけどな?なんか、高坂の解体業者の敷地内から、動物の死骸とか見つかって、旧校舎のって言うよりも、動物虐待とか、そっちの捜査らしい。」
あれかな?
あの逆五芒星の陣を描くのに使われた⋯⋯ん?待てよ?
「⋯でも、そういうのって、普通隠すもんじゃない?なんで見つかったんだろう?」
不思議に思ったことを口に出す。
「なんかー、最初は旧校舎の件での、任意の事情聴取だったらしいんだけど、捜査員が向かった時に異臭がして、臭いの元を辿っていくと、裏手で動物の死骸が大量に埋められてたのが、掘り返されてたらしい。何かの動物が掘り返したんじゃないかって。祟りとか何とかネットに書いてあったぞ。」
「⋯⋯⋯祟りというか、嫌がらせ⋯」
「ん?」
「いや、なんでもない。」
違うよね?
千里?
暇潰し⋯⋯嫌がらせ、続けてないよね?
今朝、とても楽しそうに、朝食を並べてくれた千里が脳裏に浮かんだ。
俺は⋯⋯何も知らないぞ。
放課後。
来週末の球技大会に向けて、競技ごとに分かれた練習が始まる。
俺はというと、集まって早々、補欠での参加を表明する。
皆に驚かれ、何故か選手として参加するように説得される。
女子がどうとか、補欠になんかしたら殺されるとか⋯⋯物騒だな?
あまりにも必死で説得されるので、仕方なく、1ゲーム練習試合をしてみたら⋯⋯皆の顔色が悪い。
「まさか、桜庭が⋯⋯こんなにサッカー酷いなんて⋯」
「え?これ、女子になんて言えば?」
「いやいやいや⋯⋯⋯いやいやいや⋯⋯。」
「え?どうしよう⋯⋯どうすれば?」
「こんなの試合に出せない⋯⋯けど、出さなかったら俺達の命は⋯⋯」
俺以外のメンバーがめちゃくちゃ悩んだ末、キーパーを任された。
ボールが来たら、飛びついてキャッチすれば良いんだよな?
それなら出来る!
⋯⋯そう言ったら、皆が哀れんだ目を向けてきた。
⋯⋯なんか、ごめんね?
家に帰ると、何時もより遅い時間の為、箱庭には行かずに、家の裏手にある道場で、瞑想しながら霊力を高める。
昨日の日曜日は、環と千里を連れて箱庭へ行き、那智共々霊力のコントロールについて、ダメ出しされたのだった。
あの小型の竜巻を起こした那智の羽。
俺は那智から「そよ風程度」って聞いていたから、強めに霊力を込めたんだけど、実際は突風⋯分かりやすく言うと「春一番くらい」の突風だったらしい。
『だって、さすがにそよ風じゃさぁ〜かっこ悪いでしょ?⋯まさか、晴が5~6回分も霊力込めるなんて思わないし?!』
って、言われても⋯。
他にも、千里を召喚した時も、最後に皆を祓った時も、霊力込めすぎで、最後ガス欠になったらしく、「霊力でゴリ押ししようとするな」と、怒られちゃった。
『まぁ、でも、初めて一人で怪異に出くわしたにしては、頑張りましたね。』
と、労ってもらった。
そう、俺は頑張ったよ。
千里と環さんは、どちらが呼ばれるかの話していて、お互いに自分が呼ばれると主張しあっていたらしい。
それで、千里が呼ばれたので、環さんは落ち込んでいたらしい。
「えっと⋯⋯環さんは忙しいと思って⋯ごめんね?」
って謝ったら、機嫌は直り、千里が「俺も忙しいっすよ?!」と憤慨していた。
嘘だ。
今回、一番楽しんでいたくせに。
という事で、体内での霊力の練り方から、修行し直しである。
明さんが帰ってきたら⋯⋯⋯怖い。
絶対にしごかれる⋯。
その後は風呂に入り、ご飯を食べて、課題をやって就寝。
やっと、平穏が訪れたようで、心は落ち着いていた。
❀
深夜2時ーー。
カーンッ カーンッ カーンッ⋯
ーー⋯⋯なに?この音⋯⋯
カーンッ カーンッ⋯ ツキン
ーー⋯⋯⋯ぅん?⋯⋯今なにか⋯⋯
カーンッ カーンッ⋯ ズキンッ
「痛いっ!」
急な痛みで目が覚め、飛び起きる。
「⋯え?な、なにっ?」
痛みが走った左胸を押さえる。
まるで、何かで刺されたみたいな⋯⋯。
額から、嫌な汗が流れる。
恐る恐る、押さえていた手を胸から外して、手の平とパジャマの胸元を見る。
何も無い。
今度はパジャマのボタンを外して、左胸を直接見る。
何も無い。
「⋯⋯⋯はぁ〜〜⋯⋯。」
ホッとして、大きな溜息を吐く。
背中も汗ばんでいる。
「何今の⋯⋯夢?⋯⋯⋯また夢見か何か?」
そう呟いて、さっきの事を思い出そうとするけれど、思い出せない。
「⋯⋯⋯何となく変な音がしていた位しか思い出せない?⋯え?どういうこと?俺が思い出せないなんて⋯夢じゃない??⋯⋯⋯じゃあ、何?」
今までにない事が起きて、意味が分からない。
嫌な感じの気配が心に残っているのに、記憶にも無く、体にも異常は無い。
「⋯⋯⋯⋯気のせい⋯⋯なのか?」
ここのところ色々あったせいで、過敏になっているのかもしれない。
そう思うことにして、俺は再び眠りについた。
けれど、この夜の不快な異変は数日間、毎夜続き、次第に俺の心身にも影響が出るようになっていった。




