第27話 他力本願です!
❀ ❀ ❀
「⋯⋯⋯⋯はぁ。」
溜息を吐きながら、教室内を見回す。
音楽室ではあるけど、楽器等も特に無く、ただただ広いだけの空間。
まぁ、使わないところに高価な楽器が置いてあるわけもないか。
⋯⋯今は木材の破片が沢山落ちているけど。
そういえば、と、木材の破片が落ちている床を見ると、赤いペンキか絵の具で、何か描かれているのが見える。
(⋯なんだろう?)
描かれているものを確かめる為に、木材をどかしていく。
現れた図に、驚きを隠せない。
星のような形に、それを囲む円。
「⋯な、五芒星?」
それは、確かによく見るもの。
でも⋯⋯何か変だ。
違和感を感じて、図の全体が見えるように、扉付近まで下がる。
「これは⋯⋯逆五芒星?!」
「逆五芒星」は、近代になって、オカルトブームに乗って、海外から入ってきたもので、日本ではあまり使われない。
使われるのは、シンボルとして、そして⋯⋯我欲を叶える「悪魔召喚」の儀式として。
実際に、「悪魔召喚」を行うには幾つか条件があるし、条件が揃ったところで、悪魔が召喚されることなど、ほぼ無いと聞く。
まずは、「生き血」を用意する事。
これで逆五芒星の陣を描く。
多くは、動物の血が代用されるらしい。
後は、生贄。
これは様々。
最後に、術者自身の魂。
ただし、霊力の密度が高いことが条件。
要は、魂そのものに宿る霊力が高いこと。
単純な霊力の総量とは違うらしい。
あとは、悪魔の好みによって、色々らしいが、召喚者がそういう条件を揃えていて、悪魔がそれに応じなければならない。
悪魔も、人間界に出ると、ペナルティがある為、引き受ける事は稀なんだと、以前、魔界の事情に詳しい、知り合いの鬼が言っていた。
ただ、悪魔召喚とは違う使い方をされることもある。
五芒星は御先祖様ーー安倍晴明が使用していたものだ。
「晴明桔梗印」とも呼ばれ、映画やドラマでも取り扱われている為、「陰陽師」と言えば、「安倍晴明」、「安倍晴明」と言えば「五芒星」と連想する人も少なくない。
何が言いたいかと言うと、「反陰陽師」、「反安倍晴明」である。
前に、じいちゃんに見せられたことがある。
あの時は、逆五芒星の描かれた古い壺だった。
既に祓い済みだったけど、じいちゃんは険しい顔をしていた。
『晴人、この印が刻まれている物は「呪具」または「呪物」と言って、他者を害するために使われる。見つけ次第、祓い清めよ。』
『⋯陰陽師が作ったの?御先祖様の印に似てる。』
『いや、違う。陰陽師とは、人々の暮らしに安寧をもたらす仕事。これを作った者達は、似て非なる、思想の者達。そしてーー陰陽師を妬む者達だ。』
あの時、じいちゃんはハッキリとは言わなかったけど、この間の史道さんの話と合わせれば、自ずと分かる。
ーー「邪術師」。
⋯⋯⋯そういえば、史道さんが、学校の周りを異母兄が彷徨いていたって言ってたな⋯。
もしかして⋯⋯高坂家の仕業か?!
そんな、まさか。
こんな所にどうやって?
しかも封印されて⋯⋯解いたのか?
⋯⋯⋯そういえば俺は、奴らの強さがどれくらいか、知らない。
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
考えても、仕方がないな。
さっきの竜巻で、外がどうなってるか分からないし、早々に終わらせないと。
逆五芒星を見る。
⋯⋯⋯何をしようとしていたのか。
あの黒い靄は、どうやって?他所からここに集めていたにしては、外の気は綺麗だった。
俺が気付かないくらい。
なら、ここに持ち込んだ物に封じ込めていたか、召喚の類い⋯⋯。
どちらにしても、何かしらの物が近くにあるはず。
見つけて封印するか、壊すかしないと⋯。
竜巻で壊れててくれれば良いけど⋯。
注意しながら床を見ていく。
(うっ、臭い⋯⋯これ、やっぱり血?⋯さすがに動物だと思うけど⋯⋯酷いことに変わりは無い⋯)
顔を顰めて見回していると、木材の隙間からキラリと何かが光った。
駆け寄って、木材をどかすと、そこには手鏡のような物。
拾い上げて裏返すと、そこにも逆五芒星の印。
重さもあり、社会科の資料で見た、銅鏡に似ている。
「なんでこんな物⋯」
呟いて表を返すと、綺麗に磨かれた鏡面。
そこに映った黒い影が、ニヤッとーー笑った気がした。
「うわっ!」
ゴドンッ!
思わず取り落とすと、重たい音をたてて床に落ちて転がる。
誘われるように、床の逆五芒星の上で鏡面が上を向いた状態で止まった。
「⋯なんか、まずい⋯!」
拾おうと、慌てて近付くと辺りが暗くなる。
なんだ?と見回し、最後に上を見上げると、さっき吹き飛ばしたはずの靄が集まってきていた。
すぐさま、右手で印を組むも、頭上の靄が勢いよく銅鏡に吸い込まれていく。
「なっ!⋯⋯くそっ、せっかく校舎まで吹っ飛ばしたのに⋯!!」
大量の黒い靄が全て吸い込まれ、辺りがシーン⋯となる。
「馬鹿でも分かるよ。どうせこの後、一気に噴き出すんだろ?!」
言い終えた瞬間、銅鏡がガタガタと振動しだして、鏡面から大きな黒い影が飛び出した。
霧状でも雲状でも無く、真っ黒な、巨大な鬼のようなシルエットが、鏡から生えている。
「くそ⋯怨霊かよ⋯。てことは、あの銅鏡は呪具かよ。お前の為に、天井飛ばした訳じゃないのに⋯⋯!」
怨霊が、ニヤッと笑った⋯ような気がした。
「馬鹿にしてるだろ?この状況なら、もう手加減しないからなっ!」
怨霊が襲い来る。
ポケットから護符を取りだし、護符に霊力を思いっきり込める。
「俺は、早く、帰りたいんだっ!!ーー急急如律令ーっ、召喚っ、“千里”っ!!」
ピカッ
護符が強い光を放って、ボロボロと崩れ散る。
同時に、大きな妖狐の姿の千里が現れーー⋯
パクッ
「⋯⋯え゙。」
食べた。
ゴクンッ
⋯飲み込んだな?
「な、何やってんだ、千里!そんなの腹壊すぞ?!」
ゴロゴロゴロッ⋯⋯⋯ガタン
足元で、銅鏡が転がる。
「ハッハッハッ!大丈夫ですって!坊ちゃん、それより、その魔鏡、封印した方が良いですぜ?」
金毛を揺らして笑う、千里。
「あ、そうだった!!」
千里に言われて、やるべき事を思い出した俺は、護符を1枚取り出し、銅鏡⋯千里曰く「魔鏡」に貼り付け、印を結んで護符に指先を当てる。
「とりあえずの応急処置な。ーー“封”っ!」
カッと光って、光が静まる。
「よし、完了っ!」
「いやー⋯、何か凄いことになってますね?ここ。」
千里が人化して、舌なめずりしながら歩いて来る。
腹は、大丈夫なのか?
そして、あっさり終わったな?
「⋯⋯いやぁー⋯那智のせいで⋯」
「は?あのお馬鹿天狗、また何か、やらかしたんすか?」
「ああ、まあ⋯⋯それより、あんなの食べて大丈夫なのか?」
「いやぁー⋯くそ不味いっすね。あれ、結構古いですよ。」
「いや⋯⋯うん。まぁ⋯問題ないなら良いよ。」
千里がピクッて反応して、枠しか残っていない窓に目を向ける。
「あー⋯、外が騒がしくなってきましたね。坊ちゃん、ちょっと急いだ方が良いかもです。」
「⋯⋯だろうね。⋯あー!どうしよう、これっ!」
この「元音楽室」を見て、流石に焦り始める。
横で千里が少し考えながら、ニヤリと笑う。
え?なに、その悪い顔。
「坊ちゃん、ここは俺に任せてください。あと、この魔鏡も俺が預かりますね!」
「え?!⋯⋯⋯そりゃまぁ、助かるけど⋯⋯どうにか出来るのか、これ⋯⋯。」
「ちょうど昼間、面白い情報を得たんで⋯⋯一泡吹かせてやりますよっ!」
⋯⋯誰に?
「千里?何を⋯」
「ほら、坊ちゃん!この音、パトカーじゃないっすか?」
「え?!」
耳を澄ませると、確かにサイレンが遠くに聞こえる。
「げっ、やばい⋯」
「さぁさぁ、行った、行った!」
「え?お前は?」
「仕込みを済ませたら、さっさと帰りますよ!⋯環さんがご機嫌ななめですし。ししし⋯」
「え?なんで?」
「まあ、帰ったら分かりますよ。」
「よく分かんないけど⋯分かった!じゃあ、頼む!」
「はーい!⋯あ、颯介くんには、突然爆発したとでも誤魔化すといいっすよ!」
「お、おう⋯」
少し不安は残るけど、千里が大丈夫と言うなら、大丈夫なんだろう。
千里に後を任せて、颯介達が待つ、1階の教室へと向かった。
⋯⋯ぃやっっっと、帰れるぅーーっ、ぜっ!!




