第21話 どっちが大事?
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コンコンッ
「はぁーい。」
史道さんが帰った後、ぷすぷすしている脳を休ませる為に、自室で横になっていた。
ドアをノックする音に、返事をして起き上がると、ドアが開く。
ガチャッ
「坊ちゃーん。颯介くんがみえましたよー。」
いつも通り軽ーい口調で報告してくれたのは、人化した仙狐の千里。
環と同じく、桜庭家に昔から仕えてくれている。
御先祖様に恩義を感じて桜庭家に仕えてくれている環と違って、千里は環に憧れている。
俺の使い魔の元野狐で現気狐の玄と輝を始めとした、他の気狐達のまとめ役だ。
ちなみに、妖狐の階級的には、仙狐は、上から三番目、気狐は修行中の妖狐、だったかな。
妖狐の格付け⋯⋯ 天狐、空狐、仙狐、気狐、野狐がある。
〇天狐
千年以上の歳を重ね、莫大な霊力と共に、神力を宿した最高位の妖狐。千里眼で様々な事柄を見透かし、強力な神通力を持ち、九本の尾を持つ。中には、千年もの間美人に化け、人間の精気を吸い取り力を得た結果、平安時代末期には玉藻の前のような、天に通ずるほどの力を持ったモノもいたが、これは例外中の例外である。
〇空狐
千年以上の歳を重ねており、神通力が使える妖狐のことを言う。千里を一瞬で飛ぶとされている。
また、三千年が過ぎると『稲荷空狐』へと名前が変わる。
空狐になると肉体を失い、魂だけの、精霊に近い存在となる。天狐より一つ格式がさがった存在とも考えられている。
〇仙狐
千年の修行を積み神通力を使えるようになった気狐。仙狐になるためには試験がある。試験に落ちてしまえば野狐のような低級妖怪に成り下がってしまう。
〇気狐
天狐や仙狐に至る前の修行中の妖狐。妖狐が仙術を学んでいる状態であり、この辺りで尾の数にも変化が現れていく。ほとんどが白狐・黒狐であり、稲荷神の使いは気狐。稲荷神社に座っている双狐はこの気狐である。
〇野狐
妖狐の中では最も位が低く、まだ仙術の修行に入っていない妖狐。また、人間に取り憑いたり、時には惑わすなど、人間に悪意を持って近づく者も多い。
参考ソース:環、千里
ありがとう、晴ペディア。
ちょっとややこしいから、ゴチャってするからな、この辺り。
「了ー解。じゃあ、悪いけど、ここに案内してくれる?」
「かしこまりましたっ!」
さて、颯介が来たなら、話を聞く準備をしようかな。
きっとまた、長くなるだろうし。
俺の脳みそ、もつかな⋯。
最近、一日がとてつも長く感じるわ。
階段を上がってくる足音が聞こえてきたので、立ち上がってドアを開ける。
「⋯おかえりぃー。」
「おぅ、ただいま。」
颯介が、疲れ切った顔をしているのが、一目で分かる。
⋯⋯やっぱり、大変だったんだろう。
部屋に入り、ローテーブルを挟んで、向かい合って座る。
すぐに、千里が冷えた麦茶を持ってきてくれる。
お互い、少し口を付けたところで、颯介が話し始める。
「晴。案の定、学校は大変な事になってるけど、すぐにその話をするのと、どうでも良い雑談から入るのと、どっちが良い?」
「くぅ⋯!⋯⋯⋯⋯出来ることなら、一生聞きたくないけど、⋯⋯そういう訳にもいかないだろうから、めんどくさい方から。⋯いや、やっぱり雑談⋯」
「よし、じゃあまず、お前の元カノだけど、」
「⋯最後まで聞こうよ。」
「お前がな。⋯で、お前の元カノ、今日は休みだった。」
「休み?⋯⋯⋯⋯まぁ、確かに、よっぽど面の皮が厚くなければ、昨日の今日で来れないか⋯。」
「⋯⋯⋯まぁ、けっこう厚かったけどな?」
「まぁね。」
「⋯でぇ、にも関わらず、朝から、お前が「嫌がる彼女に無理矢理迫って、拒否られたらその場で捨てた」っていう噂が、男子を中心にばら撒かれてた。」
「⋯はあ?真逆じゃん。⋯⋯もう、俺今週はこのまま休もうかな。」
「早まるな。一応、今は下火になってる。この噂を聞いた、お前のファン達が」
その日の内に、下火になったんだ。
何があった⋯⋯⋯⋯ん?ファン?
「⋯⋯ファン?って何?」
「⋯⋯⋯いや、お前と友達になりたいと、親しみを持っている女子(男子も含む)達が、「桜庭くんに限ってありえないっ!男子達、目、腐ってんじゃないの?!どう見ても、桜庭くんの方が嫌がってたし、ずっと前から付きまとわれてたじゃない!!嫉妬で適当な事言わないでよね!このモブ共っ!!」って、怒り狂ってな。」
途中から、声色を変えて、高めの声で熱の入った演技を披露される。
笑わせたいのか?ツッコんで欲しいのか?
「⋯⋯⋯どうでも良いけど、そこはわざわざ声色真似ないといけないのか?」
「それで、」
「無視かよ!」
「噂してた奴らが反論しようとしたけど、実際に彼女がお前に声掛けてるのを見たやつや、お前がボロボロになって泣いてるとこ見たやつが、ファ⋯⋯女子側についてな。」
「⋯⋯⋯泣いてない。」
「あと、C組の子達が、昨日元カノが、取り巻き達と既成事実がどうのって話してたって証言したから、男子も何も言えなくなってな。それに⋯⋯問い詰めていったら、噂をばらまいてたのはC組の、山下由美の取り巻き達だったんだよ。」
「誰が問い詰めたの?」
「フ、⋯女子。」
「⋯⋯お前ならともかく、」
「あ、俺は何にもしてないぞ。怖くて無理。」
そうだろうと思ってたから、特に心配はしてなかったけど、秒で断言された。
まぁ、不思議に思ったのは違うことなんだけど。
「あ、そう。まぁ、危ないから何もしなくて良いけど、女子はなんでそんなに味方してくれたんだ?」
「⋯⋯くっそ腹立つ⋯。」
「は?」
「⋯⋯⋯うちの学校はな、非道を許せない、正義感の強い女子が多いんだよ。」
「⋯⋯そう、か。知らなかった⋯。」
ちょっと遠い目をする颯介には、いったい何が見えたんだ?
「だから、まぁ⋯学校に来ても、めちゃくちゃ奇異な目で見られるってことはないと思う。むしろ、今、冷たい目で見られてるの、C組の男子だし、多分、山下さんが登校してきても、同じじゃないかな。女子達、かなりキレてたから。」
「ん?なんで?」
「お前の昨日の様子の証言と、男子が流した噂、C組の女子の証言、前からの山下さんの行動を見れば、噂の内容はあながち間違いじゃなく、ただ、加害者と被害者が逆だってことくらい、すぐに分かるさ。」
え?なにそれ、恥ずかしい。
「⋯⋯⋯⋯それはそれで、恥ずかしくないか?」
「泣いてるとこまで見られちゃったからなぁー。」
「⋯⋯だから、泣いてないって。」
「はいはい。」
適当な返事をして、麦茶を飲む颯介。
⋯⋯⋯目が潤んだだけで、泣いてはいない⋯はず。
なのに、なんで泣いたことになってるんだ???
解せぬ。
「まぁ、まだ、腫れも傷も残ってるから、明日の登校はお前に任せるけど、学校の状況としてはそんな感じだ。」
「⋯⋯分かった。」
「⋯⋯明日、どうする?」
「⋯⋯ちょっと、考える。後で連絡する、でも良いか?」
「分かった。じゃあ、後で連絡くれ。⋯⋯無理はするなよ?」
「おう。」
お茶を飲み干した颯介が立ち上がる。
「今日は、これで帰るな。夕飯の時間だし。」
「おう、ありがとな。」
そのまま玄関まで見送ると、靴を履いている颯介に、そう言えば、と、話し掛ける。
「なあ。さっき、雑談を選んでたら、なんの話だったんだ?」
「ん?⋯ああ⋯あれは⋯」
靴を履き終えた颯介がこちらを向く。
「お前、知ってるか?」
「何が?」
「音楽の三井先生と体育の原田先生、付き合ってるらしいぜ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
どうでもいいわ!
今日一どうでもいい話だわ!
お前、俺にどんな反応求めてたんだよ!
興味無いわ!
「あと、学校の裏山の中にある旧校舎が、来月取り壊されるだろ?だからその前に、こっそり肝試ししよーって、クラスで話が出てたな。」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
⋯⋯⋯俺に肝試し?
祓え、と?
「あ、そうそう。今日、来月の球技大会の競技決めがあってな?お前⋯⋯⋯サッカーだから。ちなみに俺はソフトボール。」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」
今、なんと?
「お前、居なかったからしょうがないよ。苦手なのになぁ。なんでいつも、必死にボールを追いかけ回すんだ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯か、加減が分からなくて。」
「⋯⋯⋯お前は猫や犬か!まぁ、頑張れよ!」
⋯⋯⋯⋯狐だよ。
じゃない。
俺にとっては、最後のそれが一番大事なやつー!
ああ⋯⋯⋯球技大会なんて、なんであるんだ。
どうせ滅びるなら、その日に滅びてよ!!
くそ⋯、こんな事なら、這ってでも学校に行くんだった!!




