第20話 ツバメはダメだって
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史道さんと向き合う形でソファーに座ると、直ぐに環さんがお茶とお煎餅を持ってきてくれる。
環さんが部屋を出るとすぐに、史道さんが、話を始める。
「重要な話は2つだ。ちゃんと聞くように。」
「はい。」
俺の頭の中は、史道さんに聞きたいことでいっぱいだったけど、まずは話を聞こう。
「まず、あいつはしばらく帰って来れない。だから、代わりに俺が話に来た。これは良いな?」
「⋯⋯明後日帰ってくるのではなくて、ですか?」
「ああ。それも後で話す。」
「分かりました。お願いします。」
明さん、何かあったのだろうか?
気になりつつも、今は史道さんの話が先だ。
「⋯⋯高坂家に気を付けろ。」
「はい。⋯⋯⋯え?」
思わず頷いた。
けど、え?わざわざ言うって、何かあるの?
あ、そうか。
「⋯⋯⋯そういえば、高坂の事調べてくれたのは、蘆屋家でしたね。」
「ああ。⋯⋯⋯奴ら、動き出してるぞ。」
「⋯⋯はい?」
動き出してる??
「⋯⋯黒い車で監視してる事ですか?それとも何か他に?」
「⋯⋯そーいやぁ、お前、女と揉めたって?」
「ぶっ。⋯⋯⋯やめて下さいよ、なんで知ってるんですか?!まだ、昨日の事ですよ?!しかも⋯揉めたくて揉めたんじゃないですよ⋯。」
「“使い魔は見た”」
「⋯⋯⋯なに、“家政婦はみた”に言ってるんです⋯⋯え?使い魔?いたんです?あそこに?」
「⋯⋯一人、存在の薄い奴、近くにいなかったか?」
「え?⋯いた!いましたっ!え?あれ、史道さんの使い魔?!」
「ああ。⋯猫の研だ。」
けん⋯ → ケン → 犬
猫なのに、犬!!
「⋯⋯もっと猫らしい名前は⋯」
「研究の「研」だ!犬じゃねぇ!」
「あ、やっぱり気にして?」
「どっかの誰かに、散々言われたわ!」
明さんですね。
「まぁ、いい。話を戻すぞ。あいつに高坂家について報告した後も、俺は調べ続けていたんだ。晴坊、お前、陰陽師の平安以降の歴史については知ってるか?」
「はい、もちろん。」
晴ペディアは健在です。
「高坂家について調べた時、妙に気になってな。」
「気になる、とは?」
「規模がデカ過ぎる。」
「⋯うん?」
「高坂グループだよ。資産も事業規模も、現代の呪術師の家系としては異常だ。⋯⋯元手はなんだ?」
「⋯元手。⋯⋯⋯つまり、不動産を増やすにも、会社を大きくするにも、最初のお金が要る⋯ってことですね?」
「そうだ。⋯⋯陰陽師は、明治政府に禁止されて以降、表舞台から姿を消した。」
「はい。」
「それは、第二次世界大戦後に法令がなくなっても、だ。」
「はい。」
「その頃にはとっくに妖どもは妖魔界を造ってそっちに移動していたし、呪術の出番はほぼ無くなったのが大きい。学問に関しても、異国の知識と科学の発展により、陰陽道は、表向き、必要とされなくなったからだ。」
「⋯⋯はい。」
「しかし、「人」がいる限り、人々の負の念から生まれ出る怪異は、いつの世でも存在する。「蘆屋」「安倍」「賀茂」の三家は、裏で、寺や神社から正式に依頼を受けた場合にしか、呪術を使用せず、各家でそれぞれ途絶えぬよう研鑽を継いできた。まぁ、第二次世界大戦で、それぞれ子孫が、かなり減ったがな。」
「⋯はい。」
そして安倍晴明の血を濃く継ぐのも、直系の土御門家を除けば、「桜庭」と「和泉」の二家だ。
曽祖父の兄弟姉妹が生きていたら、うちももっと違っただろうか。
「桜庭」の名を継ぐ者も、今は俺しかいない。
「だが、それとは違う道を進んで行った者達がいる。」
「呪術師、ですね?高坂みたいな。」
「ああ。陰陽道の中でも術だけに特化した者たち。神社仏閣から正規ルートで依頼を受ける俺達とは違い、為政者達と繋がり、私腹を肥やして表向きは呪術師として霊媒師のような仕事をし、裏では高額な料金で依頼を受け、暗殺を生業とする⋯そういう人の負の念を利用して、人に害を与える呪術を「邪術」と呼び、それを扱う者を「邪術師」と呼んでいる。」
「邪術と⋯邪術師⋯⋯まさか、」
「⋯⋯残念ながら、お前の父親の高坂家は⋯⋯邪術師の一族だ。」
「⋯⋯⋯⋯確かなんですか?」
⋯⋯⋯父親に対しての情など無い。
けれど、高坂家が危険な一族だと聞いて、やはり気分の良いものではない。
陰陽道は、人々の生活の一助となる為にあると教えられた。
それを、真逆の用途に使うなんて。
それが、自分の父親の一族で、それはつまり、自分の身体にも、その血が流れているわけで。
「昨日、学校でお前が去った後、あの場に現れた奴がいると、研から報告を受けている。」
「⋯え?」
「⋯邪術というのはな、己の霊力を主体に扱う呪術と違い、人間の負の感情や念、また、その場に漂う負の残留思念を主体にする。だから邪術師は、霊力が常に生臭く淀んでいるんだ。⋯そして、あの後で現れた男は、まさに血の匂いのする、黒く淀んだ気を放った⋯⋯⋯高坂秀治、お前の異母兄だったそうだ。」
「⋯⋯⋯⋯兄?!」
「あの場には、周りから気配を消す結界が既に張られていてな、研も少し離れた所で見るしかできなかったそうだ。」
「その⋯⋯⋯兄?は、なんで高校に?⋯⋯たしか、俺とは4つ離れてたから⋯大学生ですよね?」
「⋯⋯お前の元彼女となにやら話していたみたいだが⋯⋯目的は分からん。お前の事を探っていたのかもしれん。」
兄の事は、母さんから話に聞いただけで、会ったことは無い。
どんな人かも知らないけど、あの子に近付いた⋯⋯良い話では無さそうだ。
「昨日の今日だから、まだ、高坂秀治については調べが進んでないが、20歳という若さで、研が顔をしかめて話すほど血の匂いをさせるとは、ろくな者じゃない。」
「⋯⋯ですね。」
「ああ。⋯⋯連中が何を企んでいるかはまだ分からないが、充分に身の回りに気を付けろ。こちらが気付いていない何かを、既に仕掛けているかもしれん。」
「わ、分かりました⋯。」
いったん区切りがついたようで、二人で冷めてしまったお茶を飲む。
高坂家⋯⋯マジでやばいな⋯。
邪術⋯⋯。
ん?
術師って事は⋯
「向こうもこちらの事を分かっているって事ですかね⋯?神社の結界も。」
「まぁ、分かってるだろう。向こうもこっちのことを調べるだろうし、最近使い魔がウロチョロしてるからな。全部叩き落としてやってるが。」
「使い魔が?」
「当然、俺が「蘆屋」で、「和泉」や「桜庭」が「安倍晴明」の末裔だってことくらい、掴んでいるだろう。⋯⋯奴ら、邪術師が最も嫌いなものが何か知っているか?」
「いえ⋯。邪術師と呼ばれる存在も、今知りましたし⋯。」
「あいつらが嫌いなもの、それは「陰陽師」だよ。奴らの先祖が憧れ、なりたかったもの。そして、なれなかったもの。奴らは陰陽師に焦がれ、憎む者達だ。」
「お、おう⋯。」
1000年越しの憎しみかよ⋯。
でも、そうか。
こちらの事がバレているなら、やっぱり村ごと結界を張っても良いんじゃないか?
「さて、あまり時間もないから、残りは端的に話すぞ。」
「あ、はい。」
時計をちらりと見ると、16時を回っている。
部活は16時半までだから、17時過ぎれば颯介が来そうだ。
「昨日、あいつが浅間大社に向かったのは知ってるな?」
「あ、はい。俺のボランティアについての話し合いですよね?」
「ふっ⋯⋯そうそう。あいつ、かなり怒ってたからな。」
「え?」
「⋯で、だ。神託が降りた。」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい?」
神託?
「神託の主は天御中主神様。内容は⋯⋯⋯⋯『二年後に、世界は終焉を迎える。この未来は不可避。新たな時代を迎えるだろう。陰陽師と、神職にある者よ。各々研鑽に励め。』だそうだ。」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい??」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?
⋯⋯待って、ちょっと何言ってるかワカラナイ。
⋯⋯世界が、滅ぶってこと???
しかも、二年後?!
「各陰陽師の家には、昨日の時点で知らせが入った。今はあいつが中心になって連絡役になっている。近く、当主会が開かれるだろう。⋯俺もそちらに向かうから、こちらが手薄になるが⋯⋯お前、鳥系の使い魔は?」
「いえ、天狐だけです。」
「連絡とるのに、鳥系も契約するといいぞ。」
「鳥⋯⋯⋯ですかぁ。⋯⋯今、ツバメが沢山いますね。毎年来ますし。」
「⋯⋯⋯⋯毎年、短期間で去って行くけどな?」
「あ。」
「⋯まぁ、とりあえず、何かあったらあいつか俺に連絡しろ。」
「分かりました。」
誤魔化すように敬礼ポーズをとる。
その後、史道さんと連絡先を交換して、門まで見送った。
けど⋯⋯⋯⋯⋯俺はもう⋯キャパオーバーです⋯⋯。




