第19話 思考回路がショートしました
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「⋯よぉ、晴坊。⋯⋯なんだ、その顔は?」
吸っていた煙草をポケット灰皿に入れて顔を上げる、史道さん。
俺の顔を見た瞬間、眉間に皺を寄せ怪訝そうに尋ねる。
そうだよね。
唇は瘡蓋になり始めてはいるけど、まだまだ赤く腫れている。
昨日の事を思い出す度に、また少し、擦ってしまうからだ。
痛みで止めるけど、こればかりは無意識だから仕方ない。
「これはまぁ⋯⋯ちょっと⋯⋯へへっ。」
心配してくれるのは有難いけど、史道さんは明さんの友人として何度か顔を合わせたことがあるくらい。
まだ、この門の中にも、入ったことはない。
そんな人に、事情を説明する訳にもいかず、笑って誤魔化した。
史道さんは、ジッと顔を見ていたかと思うと、右の親指で自分の口元を数回擦り、何か考えているようだ。
⋯⋯なんだろう?
史道さんは、物腰柔らかく一見フレンドリーな明さんと比べて、口数が少ない。
黒髪の下から覗く目は、いつも鋭く⋯⋯見た目も怖い。
愛車のハーレーに乗ってる姿は、堅気には見えない。
二人を見ていると、凄く仲が良いってわけではない。
史道さんは明さんによく怒っているし、明さんはさりげなく史道さんを煽ったり、からかったり⋯謎である。
「それ、学校で何かあったか?」
「⋯⋯⋯え?」
追及が続いた事に、少し驚いた。
俺がどう答えようか戸惑っていると、史道さんが話を切り出す。
「せ⋯⋯⋯いや、あべ⋯⋯はぁ⋯⋯何だっけ⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」
いや、何が?
せいや???
「まぁいい。⋯⋯明⋯だったよな?⋯が、お前のことを心配していてな。様子を見てほしいとさ。」
「⋯⋯⋯明さんが?」
またまた、思いがけない名前が出てきて、少し驚いたんだけど⋯⋯⋯、史道さん、今小さい声で、「合ってた⋯」って言いませんでした?
なんで、目を見開いたんです?
普段、どう呼んでるんです?
「おい」とかで済ませちゃうのかな?
それにしても、なぜ明さんが⋯?
確かに数日留守にするとは聞いてるけど、前にもそういうのはあったのに⋯。
「明さん、いつからそんなに過保護に⋯?」
「いや、あいつは昔から、自分の血族には甘いだろ。」
「へ?」
史道さんは、話し方が堅いと言うか、少し古風だけど、「血族」⋯⋯縁者のことかな?
「⋯胸騒ぎでもしたんじゃないか?」
「あぁ、そういう⋯。」
御先祖様である、安倍晴明は、占星術の他に、夢で予知が出来たとされている。
「夢見」とか「未来視」と呼ばれている。
これは俺もそうなんだけど。
だからか、子孫の中でも霊力が強い者には似通った能力を持つものがいる。
俺のじいちゃんは、超直感だった。
だから、俺の母さんが父親を連れてきた時は、もう反対したらしい。
「こいつは良くない。娘をダメにする。」と。
けど、2人の意思が強過ぎて⋯結局、折れた。
俺を養子に、という条件を付けて。
まぁ、本当に良くない人だったよ、じいちゃん。
曾祖父は遠視が出来たって聞いた。
その力で、行き場を失った動物を見つけて保護していたみたいだ。
だから⋯⋯明さんにもなにかの力があるのかも?
「ちょうどお前にも話があったしな。悪いが⋯⋯中に入っても良いか?」
「あっ⋯えっと」
「⋯⋯示せるものはないが、悪い事はしねぇーよ。今後も、無断では立ち入らねぇ。」
⋯⋯⋯我が家のセキュリティーを知ってる?
もしかして⋯⋯⋯明さんが話した?
⋯⋯いや、俺に無断で話したりはしないだろう。
もしや、このセキュリティーを感知してる?とか?
⋯⋯⋯もしかして、史道さんも傍系だったりする?
「⋯⋯⋯もしかして、史道さんって⋯」
「とりあえず、中で話そうぜ。ここまでは、悪意が無ければ誰でも、入れるんだろ?」
「そ、そうです⋯」
「まぁ多少抜けはあっても、この家のセキュリティーはしっかりしてるな。俺でも破れねぇ。」
「⋯そ、そうなんです!俺、頑張りました!」
やったぁーーっ!
俺のセキュリティー、褒められたぁ!
これ、絶対、史道さんも陰陽術の継承者だ!
戦後、御先祖様の子孫はかなり減ってしまった。
しかも、陰陽術を含めた陰陽道を継承しているのは、うちと、あとは明さんのところだけ⋯⋯ん?
じゃあ、史道さんは⋯⋯明さんの身内?
兄弟ではなさそう。
全く似てないし。
従兄弟とかかな?
なら、まぁ、いっか。
もし何かあれば、また、不許可にすれば良いし。
「では、どうぞ。」
結界の中に、史道さんを案内する。
そのまま、母屋の玄関を上がってもらう。
話は玄関入ってすぐの、書斎兼応接室ですることにしよう。
外開きのドアを開けたちょうどその時、代々の桜庭家に古くから仕える家令、空狐(妖狐の格付けで、上から二番目)の環さんが通りかかった。
「これはこれは、蘆屋殿。お久しぶりですね。本日はどのようなご用件で?」
「⋯⋯⋯⋯環か。久しいな。お前、まだ安倍に居たのか。」
「勿論です。安倍家の血が絶えるその時まで、お仕えしますよ。」
「⋯⋯そうか。難儀な忠誠心だな。⋯今日は、晴坊に話があってな。悪いが邪魔するぜ。⋯あいつの許可も取ってある。」
「そうですか。分かりました。では後ほど、お茶をお持ちしますね。」
「おぉ、悪いな。」
そう言って、環はキッチンの方へ、史道さんは応接室の中に入って行く。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
え?
ちょっと待って、今の何??
今の会話、⋯何っ?!
⋯⋯⋯ツッコミたいところは、いっぱいあるけど、まず、今一番聞きたいのは⋯⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯⋯蘆屋⋯⋯?」
目を見開き、ポカーンと口を開けて、それだけを呟く。
頭の中がショートして、「晴ペディア」も読み込み中⋯。
「ん?⋯あぁ、言ってなかったか?」
「⋯⋯⋯⋯えっと?」
いつも仏頂面の史道さんが、肩越しに目線だけこちらに振り返り、突然、ニヤッと笑った。
「俺の名字だよ。俺は「蘆屋史道」。|一応、陰陽師・蘆屋道満の末裔だ。」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯そんな話、聞いてませんよ、明さぁぁぁぁーーんっ!
一体全体、どうやったら蘆屋道満と安倍晴明の末裔が、仲良くつるんでるっていうんですかぁーーっ?!
俺は思わず、ここにはいない明さんに向かって、心の中で思いっきり叫んだ。
⋯⋯⋯⋯俺、蘆屋道満の末裔、家にあげちゃったけど、大丈夫だよね?




