第1話 いつもの朝
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時は遡り、西暦2030年――。
地球崩壊まで、残り2年。
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「あっ、晴。」
家を出て鳥居を潜り、長い石段を下りていると、残り10段をきったところで、階段下の鳥居の向こうから声が掛かる。
そこに居たのは、俺、桜庭晴人の幼馴染でご近所さん且つ高校の同級生でもある、風間颯介。
「⋯ん⋯おはよー⋯。」
「おはよー。⋯⋯相変わらず眠そうだな、お前。」
「⋯お前も⋯変わんないじゃん⋯。」
「俺はそういう見た目なの。お前は、目が半分閉じてんじゃん。イケメンが勿体無⋯くはないか。どうでも良いわ。」
「⋯⋯酷くない?俺、なんもしてないのに⋯ふわぁ~⋯。」
堪えきれずに欠伸が出る。
あ~眠い⋯。
「⋯⋯その⋯やっぱり、大変か?」
「んん?」
話し掛けられて横を見ると、わずか1cm、颯介の方が高いだけなのに、少し腰を曲げて顔を覗き込んでくる。
青縁眼鏡の向こう側、黒い瞳が心配そうに見つめている。
「⋯じいちゃんばあちゃん亡くなって、お前⋯独りだろ?神社もあるし⋯それに⋯」
「⋯あぁ、まぁ⋯。」
(⋯あ、ヤバ⋯あくび⋯くっ⋯)
再び欠伸が出そうになり、下を向いて、慌てて噛み殺す。
何となく、欠伸をする雰囲気ではないことを察したからだ。
すると、俺の横で何故か颯介が慌てだす。
「お、おい?⋯そうだよな、学校の勉強以外にも、お前ん家神社だし⋯。神社の事もやらなきゃいけないこと、沢山あるよな?ここのところ眠そうなのも、炊事、洗濯、掃除に⋯社務所や境内の掃除に、神主としての修行みたいなのもあるんだろ?」
「いや、無い。」
「⋯⋯⋯無いのかよっ!」
颯介の話に即答すると、ポカーンとした後、何故か強めにツッコまれた。
いや、神主の修行ってなんだ?
「休みの日には、俺も神社の事手伝うけど、普段は家の事だけで、神社のことは神職さん達がやるから、そんなに負担はないよ⋯。」
「なんだ⋯俯くから、泣いてんのかと⋯」
「⋯⋯⋯⋯。」
ごめん、ただの欠伸だ。
噛み殺しただけ。
他意は無い。
マジでごめん。
言ったら「紛らわしいっ!」って、怒られそうだから言わないけど。
「⋯でも⋯大丈夫って言う割には、いっつも眠そうだよな?授業中もよく寝てるし⋯。それに、顔色も悪いぞ?母さんも心配してた。」
「⋯真衣さん?なんで?」
「ん?⋯あぁ、昨日見かけたんだって、お前のこと。ちゃんとご飯食べてるのかしら?って心配してた。今度連れてこいってさ。」
「そうか、ありがとうって言っといて。」
「おー。」
昨日は散歩に出たから、その時かな。
そんなに顔色悪いかな?
「⋯⋯眠いのは、いつも眠いんだけど、⋯⋯最近、変な夢見るんだよ⋯。それで眠りが浅いのかも⋯ふぁ~っ⋯。」
「⋯⋯夢?」
にゃあ~
いつの間に居たのか、猫が颯介の足元に擦り寄ってきていた。
「お、西田さんとこの猫だな?よーしよーし。」
颯介が、しゃがんで猫の頭や喉を撫でる。
飼い猫だからか、動物好きなこの幼馴染がよく遊んでやってるからか、とても懐いているようだ。
(⋯⋯猫、かぁ⋯。)
ジッと見つめると、猫が急にビクリと怯えだす。
あっという間に脱兎の如く逃げていった。
(⋯あ~⋯悪いことしたな⋯)
「⋯お前、本当に動物に嫌われるのな⋯。」
「⋯⋯小動物だけな⋯。」
颯介に、呆れたような、可哀想なものを見るような目で見られる。
「⋯そういえば、強そうな動物は何か平伏すみたいなポーズとるよな?あれ、めっちゃ笑える。」
他人事だな。
まぁ、他人事だよな。
俺の血筋が関係しているのか、昔から小動物に怯え逃げられる。
イヌ科の動物はまだ良い。
怯えても、何とか逃げない。
けど、猫科はダメ。
すぐに逃げちゃう。
俺自身は、動物好きなんだけど⋯。
「そーいや、夢って?悪い夢見るのか?」
「ん?んー⋯そんな感じ。」
「なんだよ、歯切れが悪いなぁ。どんなの見るんだ?」
「⋯んー⋯⋯地球滅亡?」
「え⋯⋯⋯スケールがでけぇーな⋯。」
「⋯な。」
「⋯⋯お前の夢、よく当たるから怖えーよ。」
「⋯⋯さすがに⋯ただの夢だろ。」
そう、俺の夢はよく当たる。
予知夢⋯みたいに。
だからといって、見る夢が全部予知夢ってわけじゃない。
今回は、さすがに違うと思う。
「⋯⋯⋯漫画の読み過ぎかな?」
「あぁ、お前好きだもんな、異世界物。今はどんなジャンル読んでるんだ?」
「今は⋯⋯現実世界に、モンスター現れるやつ。」
「⋯⋯原因、それだろ絶対。」
「あははっ。」
目の前には大きな水溜まり。
昨夜の雨の名残だ。
通り過ぎる時に目を遣ると、亜麻色のショートの髪に茶色の瞳の俺と横を歩く黒髪黒目に青縁眼鏡の颯介が、晴れ渡る青空を背景にして映り込む。
(⋯もちろん、夢だと思う。あんなめちゃくちゃな瓦礫の山となった世界は⋯。それとも、未来でいつか本当に起きるのか⋯?でも、あの夢の俺⋯ありえない姿だった⋯。)
脳裏に浮かぶのは、瓦礫の山を見下ろして宙に浮かぶ、淡く光る桜色の髪に、黄金の目をした和装の自分と見知らぬ人達。
ありえない、と思いつつも、妙な焦燥感が胸に残った。




