第17話 世界が違ったら、うちはヒロイン(side:由美)
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(side:由美)
2030年4月——。
うち、ゆんこと、山下由美。
花の女子高生でぇすっ!
この4月で、2年生になりましたっ!
うち、言葉を考えて喋るとか苦手だから、話が飛んだりしても許してね!
日本語って難しいっ!
聞いて聞いて!
ゆん、もの凄くカッコ良い人、見つけちゃったっ!きゃっ!
その人の名前は、2年A組の桜庭晴人くん♡
晴人くん⋯ううん、愛を込めてハルくんって呼ぼう。
ハルくんのお友達も呼んでるから、大丈夫!
ハルくんは1年生の時から有名人だった。
「にこやかなのに人を寄せつけないオーラの王子様系イケメン」として。
ゆんが入ってる、あんまり行けてない演劇部でも、よく名前が上がってた。
なんでも、近くにいると微かに花の香りがするって事で、「花の王子」って、女の子達は陰で呼んでたの。
⋯⋯柔軟剤じゃない?それか、シャンプー?
花の香りの男の子なんて、居るわけないじゃん!!
男の子って、汗の匂いか、柔軟剤の匂いでしょ?
気にはなったけど、1年生の時はクラスどころか校舎も違ったから、ゆんは会ったこと無かったの。
けど、2年生になって、コース選択で文系コースを選んだら、彼も文系にしたみたいで、クラスが近くなって見掛けるようになったのっ!
穏やかな目元、白い肌、茶というより黄色に近い薄い髪。
お友達の風間くんといる時に見せる、明るい笑顔。
“華やいだ”とか、“花のような”って言葉がぴったりな凄く綺麗な笑顔。
ボーッと見惚れてる間に、彼が横を通りすれ違う。
⋯!!は、花の香り!!
確かに、彼から微かな花の香りがした。
薔薇のような強い匂いじゃない。
つい最近もどこかで⋯⋯⋯⋯⋯あ!桜だっ!
もう、ほとんど散ってしまったけど、学校前の桜並木を歩いた時に嗅いだ匂いだっ。
やだぁーもぉー凄くかっこいい!!
ドキドキ、バクバク、心臓が鳴りっぱなし。
これ⋯⋯“恋”だっ!
変じゃないよ、恋だよっ!!
ゆんは今日!恋に落ちましたっ!!
それからのゆんは、用もないのにA組の前を彷徨いてハルくんを探してみたり、A組の男の子に声を掛けて友達になったり(残念ながら、ハルくんのお友達の風間くんは、あんまり反応してくれなかったの)、通学時間を探ったり、A組の子に頼んで、ハルくんの教科書を借りてもらったり、A組の子と話すついでに声掛けましたぁー的に話し掛けたりと、1ヶ月の間、陰ながら努力したの。
けど、ハルくんは無関心で⋯⋯くすんっ。
どうやらハルくんは、恋愛に興味が無いんだってA組の子から聞いた。
え?!なにそれっ!
ちょっとびっくりしたけど、よく考えたら、そんな人いるわけ無いよっ!
ハルくんはモテるから⋯⋯きっと、断る口実だねっ!
だったら、ゆんが目を覚ましてあげちゃうっ!
ゆん⋯⋯自慢じゃないけど、結構可愛いと思うの。
髪もふわふわでぇー、目もぱっちりとした、クリクリお目目。
小柄なのに、出るとこは出てるしー、お胸とかねっ!
今までだって、男の子達はすぐに仲良くなれちゃうしぃー。
女子はイマイチだけどぉー、ハルくんは男の子だしぃ。
ゆんが本気を出せば、ハルくんも恋に目覚めるに違いないよっ!
きゃぁぁぁーーっ、どうしようっ!ハルくんの初恋、ゆんが貰っちゃうかもぉ~♡
そうしたら、責任取って⋯卒業したら結婚しちゃうかもぉ~!
というわけで、ゆんはその日から、ハルくんに猛烈アピールを始めたの♡
でも⋯⋯⋯結果は全敗。
何度告白しても、何度デートに誘っても、断られ続けた。
なんでぇ~?!
ゆんとハルくんは赤い糸で結ばれてるはずでしょ?!
こんなのおかしいっ!
断り文句はやっぱり「恋愛に興味無いから」だった。
何度めかの告白からは「恋愛にも君にも興味無いから」になって、「しつこくて迷惑」まで言われた。
⋯⋯⋯これは、試練よっ!ハルくんみたいな王子様を手に入れるには、それだけの苦労がいるのよっ!
絶対に、ゆんは、諦めないっ!!
その後も一日に何度も突撃した結果、約1週間前、ついに!ハルくんが!OKしてくれたっ!
やったぁぁぁぁーっ!!
ゆんの勝ちよぉーーっ!!
これで、晴れてゆんはハルくんの彼女!!
ハルくんはゆんの彼氏!!
何故かとても疲れた顔のハルくんが、なんだか「お試しなら」って言って、色々約束させられたけどもっ!
今は良いの!
付き合ったら、すぐにゆんのこと好きになるんだからっ!
せっかく恋人になれたのに、金曜日だったから、すぐに土日になっちゃって、会えなくてすっごく寂しかった。
ぴえん。
けど、会えない時が二人を強くするって言うしね!
そして、待ちに待った月曜日っ!
一緒に教室へ行こうと、正門を入った所で、ハルくんを待つ。
びっくりするかなっ?!
感激して、抱きしめられたらどうしようっ?!
ワクワク、ドキドキしていると、ハルくんがいつも登校する時間っ!
あ、来たっ!
何故か、こっちを見てピタリと足を止めるハルくん。
あれ?
照れてるのかな???
私は両手を振ってハルくんに話しかける。
「ハッルく~ん!おっはよぉ~♡⋯⋯きゃあ!」
突然の突風で、髪の毛が顔に張り付き、前が見えなくなる。
あ!やだ!スカートもめくれてるっ!
慌てて、手で押えてハルくんに笑いかけると、反応も無く、挨拶も無く、さっさと教室に行ってしまった。
⋯⋯なんでぇ?
お昼や長い休み時間に会いに行っても、全然会えなくて、結局、また週末を迎えた。
⋯⋯⋯え?なんで?前よりも会えないんだけど?
週末は、ハルくんのこの1週間の行動分析に当てた。
来週はっ!絶対っ!!
ラブラブするんだからぁ!!
そして迎えた、月曜日。
ようやく、お昼にハルくんを見つけたっ!
ご飯、一緒に食べたかったのに、ハルくん達はもう食べ終わるところだった。
えーん、せっかく見つけたのにぃ!
もっと一緒に居たいって甘えてみたら、1週間前の約束の話をされた。
え?あれ、⋯本気だったの?!
そんな、まさかっ!
全然一緒に居られないし、こんなんじゃ、好きになってもらえないじゃないっ!!
悲しくなって教室で泣いてたら、男の子達が寄ってきて、励ましてくれたっ。
そのうち、一人の男の子が言ったの。
「既成事実、作っちゃえば?」
って。
え?なにそれ?
私がよく分からない顔をしてると、
「だから、うーん、とりあえず、キスでもぶちかましてみたら?」
キス⋯⋯⋯キス?!
「え?!キス?!そんな⋯⋯ゆん、自分からしたことないよっ!そんなの、男の子がするもんでしょ?!」
顔を赤くして言ったら、男の子達が、次々に、その男の子に賛成してくる。
⋯⋯えっと、皆、名前なんだっけ?
「いやいやいや、俺、ゆんちゃんにそんな事されたら、イチコロだよ!」
「俺も俺もっ!嬉し過ぎて舞い上がっちゃう!」
「桜庭も男なんだしさ、口ではなんて言っても、忘れられなくて惚れちゃうよっ!」
皆の意見に、少しずつ心が傾く。
ハルくんが⋯⋯イチコロ?
やだ⋯⋯⋯そんなの、嬉しいっ!!
「そ、そうかな⋯⋯?⋯で、でも、ハルくん、そういうの嫌だからしないって約束が⋯⋯。」
さっき、ハルくんに言われたことを思い出してシュンとなる。
あの時のハルくん、冷たい目をしてた⋯⋯。
あんな目、もう見たくないよ⋯。
「大丈夫だって!!絶対に、ゆんちゃんの気持ち、届くよっ!」
「そうだよ!あ、でも、気になるならさぁ、場所とか考えてさぁ⋯」
「そうだな。あと、風間だな。いつも一緒に居るし。」
「あ、あいつ、部活入ってるだろ?確か⋯合気道!明日は活動日だ!」
「じゃあ、チャンスだ。ね?ゆんちゃん。どうする?やるよね?それとも⋯やめる?」
どんどんと話が進んでいく⋯。
どうしよう⋯⋯嫌われたくない。
けど⋯⋯⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯⋯ゆん、やってみるっ!」
「おおー!その意気だよっ!」
「よし、作戦立てよう!!」
その後は、皆で作戦会議。
遠くの席に居る女子達が「桜庭くん、かわいそう⋯」って言ったような気がしたけど、聞こえないっ!
だって、ゆんはハルくんの、彼女なんだからっ!
きっと、明日から素敵な恋人になれるよっ!
きっと⋯⋯!
結果は⋯⋯⋯⋯⋯⋯失敗に終わった。
キスは出来た。
けど、その余韻に浸るまでもなく⋯⋯⋯突き飛ばされた。
お付き合いも終了した。
ハルくんは⋯⋯⋯⋯物凄く、怒ってた。
あんな怖いハルくんは初めて見た。
ハルくんの近くに行くと、あまりの拒絶に、全身がビリビリしたように感じた。
まるで、ハリネズミが、全力で威嚇しているみたい。
ハルくんが去った後、口を血だらけにしたハルくんが心配になってこっそり後を追うと、⋯⋯そこには風間くんが居た。
そのまま、風間くんが、ハルくんを連れて校舎の中に戻って行く。
保健室に連れていくんだろう。
良かった、風間くんがいて。
さっき、ほんの少しだけ見えたハルくんの横顔は、泣いてるようで、とても傷付いた顔をしてた。
私は、一人になりたくて校舎裏に戻る。
様子を見に、ついてきてくれてた男の子達は居なくなってた。
⋯⋯⋯私がハルくんを傷付けた。
⋯⋯⋯私は、ハルくんとの約束を破った。
⋯⋯⋯私が悪い。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯でも。
『⋯⋯生理的に嫌悪する。』
なんで、そんな事言われなきゃいけないの?
どうして、そんなこと言われなきゃいけないの?
なんで、付き合ってくれるって言ったのに、会ってくれないの?
なんで、私を好きになってくれないの?
なんで? なんで?
なんで!!?
「っ⋯⋯うぅっ⋯⋯うわぁぁぁ~~~んっ⋯⋯!!」
なんで、なんで、なんで⋯⋯と頭の中はそればっかりが駆け回る。
なんで?どうして?と。
どれくらい、そうしてただろう⋯。
泣き疲れてくると、ハルくんを想う気持ちが、段々と憎らしく思えてくる⋯。
私が、こんなに好きになってあげたのに。
こんなに、可愛い私のどこが不満なの?
恋愛に興味が無いとか言って、本当は不能なんじゃない?!
どんどんと、気持ちがマイナスへと傾いていく。
⋯⋯⋯ゆんに、恥をかかせたこと、いつか絶対、後悔させてやるんだから⋯⋯。
ジャリッ
その時、後ろで土を踏む音がした。
振り返ると、見たことのない知らない男性が立っていた。
⋯⋯⋯大学生くらいかな?それとも、もう少し上?
「⋯⋯⋯君、山下由美さん?」
「⋯⋯そうですけど⋯⋯なにか?⋯⋯あなたは誰?」
この人、なんで私のこと知ってるの?
めちゃくちゃ怪しいじゃない⋯。
なんで、こんな時に皆居ないのよっ!
「怪しいものじゃないよ。」
怪しい人は、自分で怪しい人だなんて名乗らないでしょ!
「⋯⋯うち、もう帰るんで⋯⋯」
横を通り抜けようとしたら、手を伸ばして防がれる。
なんなのこの人⋯。
絶対、危ない⋯。
一歩後退った時、男はまた口を開いた。
「君、桜庭晴人と付き合ってるんだって?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」
ハルくん⋯?
この人、ハルくんの事まで知ってるの?
「あなたには関係無い⋯」
「さっき、こっぴどく振られてたみたいだけど⋯」
「見てたの?!⋯だいたい、あなた部外者でしょ?!何でこんなところにいるのよ!」
「まぁまぁ。君にとっても悪い話じゃないと思うんだけどな。」
「⋯悪いけど、胡散臭い人の話を聞いてる暇なんてないのよっ!どいてっ!」
うちが声を荒らげると、その男はニヤッと笑った。
「⋯⋯君さぁ。桜庭晴人に⋯⋯復讐、したいと思わない?」




