第16話 本日は荒れ模様
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「どこまで行くの?山下さん。俺、あんまり時間無いんだけど。」
人気の無い校舎裏まで来た為、声を掛ける。
「ん~、この辺で良いかなぁ。」
おいおいおい、なんで校舎裏?
俺、絞められるの?
その辺の陰に誰か潜んでないよね?
思わず霊力を辺りに散らして、索敵する。
⋯⋯⋯⋯居たぁーー!!
居るよ、本当に!
壁の少し出っ張った所の裏とか、奥の植木の陰とか、この校舎の中の窓の下とか!
1、2、3、4⋯⋯⋯6人っ!!
え?マジでリンチにでもあうわけ?!
俺、古武術は一通り嗜んでるから、結構強いよ?
女顔だからって舐めてんの?!
腕に自信はあるけど、一応警戒レベルを上げる。
来るなら、来い!
俺が、周りに気を取られてる時に、それは起こった。
俺の人生でこれ以上の汚点は、後にも先にも無いだろう。
「ハルくんっ!」
「あ?なに⋯」
ちゅっ
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?
口に、温かいモノ。
目の前には、目を閉じている0距離の山下由美。
ぬるっ
汚いっ!!
ドンッ!!
「きゃあっ!」
全力で、山下由美を押し退ける。
あまりの勢いに、悲鳴を上げながら吹っ飛んで、2m程先に尻もちついて座り込む。
俺は、制服の袖でひたすら口を擦り続ける。
汚い汚い汚い汚い⋯気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い⋯
擦り過ぎて唇が切れ、袖が赤く染っていく。
「⋯もうっ!何するの?ハルくんっ!」
擦っていた手が止まる。
⋯⋯⋯ナニスルノ?
「⋯それはこっちのセリフ。なにしてんの?気持ち悪いんだけど?⋯なにこれ新手のいじめ?本当に有り得ないんだけど?」
嫌悪感が止まらない。
勝手に口を付けてきただけでも許せないのに、舌まで入れようとしてきやがった!!
気持ち悪くて、吐きそう。
怒りで、心も頭も破裂しそう。
こんなに誰かに怒りを覚えたのは生まれて初めてだ。
⋯このままじゃあ、霊力が暴走するっ!
「な、なんでそんな言い方するの?!ゆん、彼女なんだよ?!それに⋯可愛い子にキスされたら、男の子は皆、嬉しいんじゃないの??!」
本当に意味が分からないって顔して、喚き立てる、山下由美。
自分勝手な言い分に、呆れて仕方が無い。
「ふざけんな!俺、言ったよね?そういうの興味無いし、したいと思わないって!マジで、有り得ない。⋯皆、喜ぶ?少なくとも、俺は気持ち悪いっ!⋯⋯あーもうダメだ。穏便に済まそうと思ったのに⋯⋯これで、終了。二度と俺に近寄るな。」
憎々しげに睨み付けると、ポカーンとした顔。
次いで、慌てて「なんで?なんで?」と呟いている。
これ以上ここに居ると、呪いの言葉を唱えてしまいそうだ。
怒りは収まらないけど、ここに居ることに耐えられない。
踵を返して、来た方向へ歩き出す。
俺が帰るのを見て、山下由美が慌てて立ち上がり追いかけて来る。
「待って、ハルくんっ!⋯なんで?⋯どうしてダメなの?ゆん⋯⋯こんなに好きなのにっ!!なんで分かってくれないの?」
足を止めて、1度だけ振り返る。
何故か、安堵する嫌悪対象。
「あのさぁ、相手の同意なく無理矢理キスするのは、“不同意わいせつ罪”に当たる可能性があるって知ってる?⋯同意がない身体接触は、関係や場所に関わらず、正当化されないんだよ。つまりキミが今したのは、犯罪だよ?⋯好きだからとか関係無いんだよ。」
「わ、わいせつ⋯⋯?」
「なんでダメかって?何度も何度も断ってるのに、ずっと付きまとわれて、キミ、俺の気持ち考えた事ある?」
「そ、それは⋯⋯⋯でも、付き合ってくれたじゃん!」
「あんまりにも執拗いから、心が折れただけだよ。そんな事してまで付き合って、好感持たれると思ってるの?」
「⋯⋯⋯でも、だって、付き合っていけばきっとハルくんも、ゆんの事好きになる⋯」
「ならないよ。嫌な気持ちが募るだけ。しかも、こんなこと⋯俺はもう無理。何言われても、これで終了。じゃあね。」
体を戻そうとすると、今度は腕を掴まれる。
ぞわっ バシッ
掴まれた瞬間、悪寒が走り、鳥肌が立つ。
無意識に、山下由美の手を払い除けていた。
「いたっ⋯!⋯⋯は、ハルくん⋯⋯ねぇ、お願い、もう一回だけ⋯」
「断る。この先、どんな要求も受け入れない。」
「⋯なんで?どうしてダメなの?」
「好きなら何をしてもいいと言う自己中なところだよ。⋯⋯生理的に嫌悪する。」
「⋯⋯ひ、酷いっ⋯⋯!」
今度こそ、校舎裏を後にする。
「酷い」は、こっちのセリフだ。
あーもう!⋯⋯腹の虫が収まらない。
唇は切れて痛いし、いつの間にか握っていた手は、手のひらに爪がくい込んでこちらも痛い。
下校中の生徒達が、俺を見てギョッとする。
皆、後退って遠巻きにヒソヒソしている。
あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!
思いっきり、霊力をぶっ放したいっ!!
「お、おい、⋯晴⋯⋯?」
聞きなれた声に、膨れ上がった霊力と怒りが、急速に萎えていき、代わりに種類の分からない哀しみと、安堵する気持ちが湧いてくる。
「⋯⋯颯介⋯⋯⋯グスッ。」
「お、おい?!どうした、お前⋯、てか、口!口っ!血だらけじゃんっ!!」
言われて口を袖で拭おうとして、颯介に止められる。
「バカっ!擦るなっ!⋯って、手もじゃん!なにこれ?!何があった?!」
「⋯⋯⋯颯介、部活は?」
「今日は、先生が会議が長引きそうだからって自主練になったから帰ろうと思って⋯。それはいいとして、帰る前に、保健室行くぞっ!」
「あ、でも、バス⋯」
「そんなの、まだあるから良いよ。手当が先だろ?!こんなんで帰ったら、乗車拒否されるぞ!!」
客商売だから、それは無いと思う。
チラチラ見られはするだろうけど。
口元にハンカチを当てられ、急かすように、両手で背中を押されて校舎の中へと戻っていく。
保健室へと向かう廊下を、颯介と並んで歩く。
支えるように背中に当てられた手が、とても温かく感じた。




