第11話 晴ペディアに追加しよう
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明さんの一言に、俺は思わず固まった。
何故、俺がWikiを愛読していることを?
⋯まさか、その情報を追加・編集してWikipediaならぬ“晴ペディア”を別保存していることまでは⋯⋯⋯って何考えてるんだ、俺は。
ちょっとびっくりして、現実逃避しちゃったよ。
⋯⋯高坂家が、古い歴史を持つ呪術師?
「⋯高坂家が?⋯呪術師?」
「えぇ。ちょっと伝手を使って調べてもらったんです。」
「伝手?」
「蘆屋家です。」
「蘆屋って⋯もしかして」
「「蘆屋道満」の子孫も、現代まで血脈を繋いでいます。まぁ⋯あそこは非公式の陰陽師家ですけども。⋯彼らは、我々と違って⋯現代にも陰陽術を遺しつつ、一族総出で科学と陰陽術の融合と発展の研究に邁進しています。」
「え!凄い。マッドサイエンティスト⋯」
「いえいえ、悪い方向では無いですよ。⋯人相は悪いですけど。」
⋯何故か、明さんの友人の史道さんの顔が浮かんだ。
あんな感じかな。
史道さん、堅気じゃないよね、きっと。
「それで、蘆屋家の古い資料の中に、「高坂」という陰陽師の名前があったそうです。この家は、陰陽師として名の知れている「安倍家」や「加茂家」よりも、さらに古い歴史を持つ家のようです。ただ⋯実力が足りず、官吏になることはなかった。まぁ⋯当時は二家の独占だったので、他の家も同様ですし、仕方が無いんですけどね。他家が、蘆屋道満のように非公式で活動する中で、高坂家は次第に落ちぶれていく。そして活路を見出したのが⋯」
「⋯呪術師。」
「そうです。呪術を呪いや呪具の作成に特化させ、暗殺業に身を置いた。」
「暗殺⋯⋯⋯。」
「時代の変遷と共に、不動産業を営む実業家へと転身するも、ライバル会社やクレーマーなど、会社運営に邪魔な存在の不審死、急な経営悪化、廃業なども頻発している。これは恐らく⋯⋯呪術ではないか、と思われます。」
「え⋯怖っ⋯。」
この力で人を殺す⋯そんなこと、考えたこともない。
物理じゃないだけで、やってることは人殺しだ。
「⋯⋯⋯ってことは、俺の身体には、その血も流れてるんですね。」
なんか、嫌だな。
御先祖様達陰陽師が、真っ白とは言わない。
伝記を読めば分かる。
呪いを返せば、相手の術者は跳ね返った術で死ぬこともある。
国や政府の依頼で使われた呪いもある。
呪いを知らなければ、祓うことも出来ない。
けれど、それを主とした「暗殺業」。
気持ちの良い話じゃない。
「確かに、高坂の血も流れているかもしれませんが、君は君ですよ。稀代の陰陽師・安倍晴明の末裔ですよ。彼の血が、他の血に負ける訳がありません。」
「⋯ですね。」
うん、俺も分かってる。
それに、大事なのは「血」じゃない。
それを扱う「人」だ。
「晴人くん、充分気を付けてください。」
「はい?」
真面目な顔をした明さん。
気を付けるとは、拉致のことだろうか。
確かに、奴らが一般人じゃないとしたら、やっぱりもう少し強化しないといけないかもしれない。
「彼らは、前回の拉致未遂以来、表立っては動いていない。しかし⋯強欲な彼らが、このまま諦めるとは思えません。」
「⋯確かに。」
やっぱり⋯
「セキュリティ強化しましょう!」
「⋯君が、あちこちに散りばめてる狐像達ですね。」
「いや、そんなにはまだ。」
「確かに村の安全には有能ですが⋯⋯問題は、村以外で、です。」
「村以外?⋯⋯学校ですか?」
「行き帰りも併せて。⋯何か、対策はしていますか?」
「いや、特には⋯⋯。父親の件が無ければ、この辺りは平和ですし。まぁ⋯面倒なことも無くはないけれど、明確な悪意を持った人に出会ったことないですし。村外からの人の出入りも、宅配便か浅間の人くらい⋯ですしね。」
「⋯気になったんですが、糸川さんのお宅は、安倍の血筋では無いですよね?」
「あ、そうです。共働きで殆ど見掛けませんが。何代か前から血筋が変わっています。その時のご夫婦には子供が出来なくて、お嫁さん以外、流行病で亡くなったんだそうです。それで、そのお嫁さんが再婚して家を継いで⋯⋯今の血筋はそのお嫁さんと再婚相手の血筋ですね。⋯⋯その頃からあそこは女系で、何故か女性、しかも一人しか生まれなくて、代々婿をとってます、確か。今の若夫婦のところも幼稚園に通う女の子です。⋯まぁ、悪い人達では無いんですけど⋯意見が合わずに、揉めることもありますね。糸川さんの奥さんは、ここの生まれだけど、田舎の暮らしや習慣が嫌いで⋯何かと文句を言ってくるんですよね。颯介のところも、母親の真衣さんは、田舎が好きでこの村にも馴染んでいて、村の人とも仲が良いんです。なので、糸川さんとも、価値観が合わないみたいで、あまり付き合いをしてないと思います。」
颯介の家は、代々この村に住んでいて、村でも中心的存在だ。
だから、昔からの風習を大事にする家だし、この村に住む人は大抵そういう人達だ。
でも、街の会社で仕事をし、街暮らしに憧れのある糸川さんは、街ではこうだから、こーした方が良い、こーするべきだとか、色々「アドバイス」されて、真衣さんも困ってた。
でも、悪意じゃない。
本人の生き方や好みだから、中に入れちゃうんだよね。
元より村人を問答無用で追い出すなんて出来ない。
セキュリティも難しい。
明さんの顔が渋る。
「⋯⋯⋯血に、何かしらの呪いを受けているのかもしれないね。」
「え?⋯呪い?⋯⋯でも、何も感じませんよ?」
「呪い自体はその時に発動して、呪いを受けた人が亡くなった時点で終了。ただ、呪いの対象が血脈であるならば、効果だけが血に残っていて子孫繁栄を妨げているのかもしれません。⋯⋯であれば、その血筋が変わった時のお嫁さん辺りが⋯怪しいですね。」
「⋯⋯家の乗っ取りですか?」
「そうです。」
「⋯⋯その噂はずっとありますよ。まぁ⋯過去の出来事なので、証拠も何もないですけどね。」
「⋯⋯⋯例えばもし、糸川さん達が呪いを自覚していたら?」
「え?」
「⋯もしそうだとしても、この村の人に相談も、ましてや神社に解呪の依頼なんて出来ない。」
「そうですね。俺なら、依頼を受けませんね。」
子孫繁栄を阻むような呪いは、相手が今際の際に呪詛として残すことが多い。
糸川さんの先祖の話と合わせると、看病を放置したか、あるいは⋯病じゃなかった、か。
今の世代の糸川さん達には悪いが、先祖の自業自得だし、跳ね返す先の無い解呪は、準備が色々と面倒だし、年月が経つほど、呪いも濃く刻まれていく。
下手をすれば、こちらも無事では済まない。
「ただ、そういう人達がどうするかと言うと、外部の力を借ります。」
「外部?」
「ええ。この村とは関わりの無い祓い屋です。」
「祓い屋⋯。霊媒師とか?」
「まぁ、そういった所を含めてですね。その一つに⋯高坂の系列の祓い屋があります。まぁ、大きな不動産会社では、珍しくはないですが。」
「高坂の?」
「まぁ⋯⋯飛躍し過ぎているかもしれませんが、ただ⋯いつ、どこで巻き込まれるか、或いは狙われるか⋯その危険性は案外近くに潜んでいる。晴人くんには、その自覚を持ってほしいです。」
明さんの目を見て息を呑む。
“油断大敵”
目が雄弁に語っていた。
「⋯分かりました。俺も、気を付けます。」
俺の言葉に頷いて、いつもの穏やかな顔に戻る。
「さて、今日は長々と話してしまいましたね。ご飯が冷めてしまいました⋯。さっさと食べちゃいましょう!」
「え、ええ。」
茶碗には、1/3程残っている冷めたご飯と、少しだけ残った生姜焼き。
大好きなはずの組み合わせはどこか味気なく感じた。




