2026年9月14日
# ふたり日和
## 2026年9月14日
「月曜日って、なんであるんだろう」
朝。
教室に入ったありさは、席に着くなり机に突っ伏した。
「学校があるからじゃない?」
隣でゆいが答える。
「そういうことじゃなくて」
「じゃあ何?」
「昨日が日曜日だったから」
「それは月曜日じゃなくても同じじゃない?」
「……」
ありさは顔だけを上げた。
「ゆい、朝から正論やめて」
「正論しか言ってないよ」
窓の外では、雨が降っていた。
昨日の午後に突然降り出した雨よりも、今日はずっと落ち着いた雨だ。
「今日も雨だね」
ゆいが窓の外を見る。
「うん」
ありさは鞄から折りたたみ傘を取り出した。
「見て」
「持ってきたんだ」
「昨日の教訓!」
「えらい」
「でしょ?」
ありさは得意げに傘を机の上に置いた。
「昨日、雨宿りしたからね」
「うん」
「今日はもう完璧」
「何が?」
「雨対策」
「折りたたみ傘一本で?」
「完璧」
ゆいは少し笑った。
「じゃあ帰りに見せてもらおうかな」
「もちろん!」
その日の授業は、いつもより少し眠かった。
雨の日は教室の中まで薄暗く感じる。
ありさは黒板を見ながら、何度もあくびをこらえていた。
そして休み時間。
「ありさ」
「んー?」
「寝てた?」
「寝てない」
「目閉じてたけど」
「考えてた」
「何を?」
「……雨のこと」
「絶対うそ」
「ほんとだって」
ありさは窓の外を見る。
雨粒が窓ガラスを流れている。
「昨日さ」
「うん」
「急に雨降ったじゃん」
「うん」
「今日も雨でしょ」
「そうだね」
「なんか、二日連続だと雨が友達みたい」
「どういうこと?」
「昨日仲良くなったから、今日も来た」
「雨と?」
「うん」
「それは仲良くならなくていいかな……」
「ゆいは冷たいなあ」
「雨に対しては普通だよ」
昼休み。
二人はお弁当を食べながら、窓の外を見ていた。
「今日、帰りどうする?」
ありさが聞く。
「普通に帰るよ」
「雨だけど?」
「傘あるし」
「私も」
「昨日とは違うね」
「うん」
ありさは卵焼きを一口食べた。
「……ねえ」
「なに?」
「昨日のアイス、もう一回食べたくない?」
ゆいがありさを見る。
「雨なのに?」
「雨だから」
「どういう理屈?」
「昨日、雨宿りしながらアイスの話してたじゃん」
「してたね」
「だから今日も食べる」
「昨日と同じじゃん」
「いいじゃん」
ゆいは少し考える。
「……まあ、いいけど」
「やった!」
「ただし」
「なに?」
「今日はちゃんと傘を持って帰ること」
「持ってるってば!」
ありさは机の横を指差した。
そこには折りたたみ傘が入った袋がある。
「昨日の私とは違うんだよ」
「昨日のありさ、そんなにダメだった?」
「かなりダメだった」
「自分で言うんだ」
「だって、雨にびっくりしてたし」
「『雨だ!』って言ってたね」
「言ってた?」
「言ってた」
「……忘れて」
「覚えておく」
放課後。
ホームルームが終わる。
窓の外を見ると、雨はまだ降っていた。
ありさは鞄を持ち上げる。
「よし」
「傘は?」
「ある!」
「確認しなくても分かるよ」
「昨日の反省があるからね」
昇降口まで歩く。
外に出る前に、ありさが傘を開いた。
ぱっと広がった傘。
「完璧!」
「うん」
「これで濡れない!」
「よかったね」
二人は並んで歩き始めた。
雨音が傘を叩いている。
昨日とは違う。
今日は雨宿りする必要もない。
ありさは歩きながら、少しだけ傘を傾けた。
「ねえ、ゆい」
「なに?」
「そっち濡れてない?」
「大丈夫」
「ほんと?」
「うん」
ありさは傘を戻した。
しばらく歩く。
「……ありさ」
「ん?」
「そっち、肩濡れてるよ」
「え?」
「傘、私のほうに寄せすぎ」
「ほんとだ」
「だから言ったじゃん」
「でも、ゆいが濡れるよりいいじゃん」
「……」
ゆいは何も言わなかった。
ただ、少しだけありさのほうへ近づいた。
二人の肩が触れる。
「これなら両方濡れないね」
「うん」
雨はまだ降っている。
でも、昨日みたいに困ることはなかった。
ありさが前を向いたまま言う。
「明日は晴れるかな」
「どうだろう」
「晴れてほしいね」
「うん」
少し歩いてから、ありさが付け足した。
「でも」
「なに?」
「雨の日も、悪くないかも」
ゆいが笑う。
「昨日は雨嫌いって言ってなかった?」
「昨日の私と今日の私は違うの」
「一日で変わったんだ」
「成長したんだよ」
「そういうことにしておく」
二人は同じ傘の下を歩いていった。
月曜日は、まだ始まったばかりのような気がした。




