2026年9月19日
## 2026年9月19日
「ゆい、来た!」
「うん」
二人はテレビの前に並んで座っていた。
今日はBreakingDownのPPV。
テーブルにはお菓子とジュース。
でも、決勝が始まると、二人ともお菓子には手を伸ばさなくなった。
「井原さん、今日二試合目だよね」
「そうだね」
「しかも相手、リキさん……」
「この二人、ずっとやりたかったカードなんでしょ?」
「そうみたい」
リングに二人が入る。
ありさが少し前のめりになる。
「始まる……」
ゴング。
「来た!」
二人とも画面に釘付けになる。
井原が前に出る。
リキも応じる。
「うわ、近い!」
「パンチ来る!」
一度距離が開く。
「今の、当たってた?」
「ちょっと触ったくらいかな」
「ゆい、よく見てるね」
「ありさが騒ぎすぎなんだよ」
「だって怖いんだもん!」
また二人が前に出る。
「うわっ!」
ありさが思わずテレビから少し離れる。
「今の危なかった!」
「でも井原さんも返してる」
「ほんとだ……」
二人の声が小さくなる。
試合は続く。
パンチ。
蹴り。
またパンチ。
「どっちが取ってるんだろ」
「分からない……」
「私も」
時間が少なくなっていく。
「あとちょっと!」
「最後、来るかも」
「お願い、何も起きないで……!」
「それ格闘技見てる人の言葉じゃないよ」
「だって心臓に悪い!」
そして――
ゴング。
「終わった!」
ありさが息を吐く。
「……長かった」
「一分なのにね」
「一分ってこんなに長いんだ」
二人は画面を見る。
判定へ。
「……どうなる?」
「分からない」
「私も分からない」
結果が告げられる。
その瞬間。
「…………えっ」
ありさが固まった。
ゆいも黙っている。
しばらく二人とも画面を見つめた。
「……終わらないの?」
「延長だね」
「うそぉ!」
ありさが頭を抱える。
「もう一回あるの!?」
「ある」
「二人とも体力大丈夫なの……?」
画面では、再び二人が構える。
「ゆい」
「なに?」
「もうお菓子食べられない」
「なんで?」
「緊張して味しない」
「じゃあ私が食べる」
「それはずるい」
延長開始。
今度はリキが一気に前へ出る。
「うわ、来た!」
「リキさん前出てる!」
井原も下がりながらパンチを返す。
「入った!」
「右!」
「また!」
ありさの声がどんどん大きくなる。
「井原さんも返してる!」
「リキも止まらない!」
「すごい……」
二人とも立ち上がっていた。
そして最後のゴング。
「終わった……」
ありさがその場に座り込む。
「今度こそ終わったね」
「うん……」
二人とも、しばらく画面を見つめる。
判定が告げられる。
「……」
「……」
ありさがゆっくり息を吐く。
「すごかったね」
「うん」
「なんか……勝った負けたっていうより」
「?」
「二人とも、最後まで動いてたのがすごい」
ゆいが頷く。
「うん。見てるだけなのに疲れた」
「私も」
ありさはソファに倒れ込む。
「もう今日は何もできない」
「さっきまでお菓子食べてただけでしょ」
「精神的にいっぱい動いたの!」
「はいはい」
ゆいが笑う。
ありさも笑った。
テレビでは、まだ試合後の映像が流れている。
「……ねえ、ゆい」
「なに?」
「PPV買ってよかったね」
「うん」
二人はもう一度、画面を見る。
「今日の夜、すごかったね」
「うん」
そして、二人はしばらくそのままテレビを眺めていた。




