↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/44

第17話、奇妙なダブルデート?

「……一体、何があったというのだ?」


孫策の低く抑えられた声が、凍り付いた場の空気に響いた。

泣きじゃくる小喬、顔面蒼白の大喬、そして冷や汗を流す周瑜。状況は混沌としていた。


大喬と周瑜は、互いに目配せをした。ここで真実――刺客の襲撃を知らせた矢の件、そして大喬たちの秘密の活動――を話すわけにはいかない。二人は、しどろもどろになりながらも、必死で口裏を合わせた。


「そ、その…周瑜様が、以前いらっしゃった時に屋敷に大切な書類を忘れられたそうで…、わ、私が対応いたしまして、お届けしようと門まで出たところに…。」

「小喬が来て、その、あまりに急だったので驚かせてしまった、という次第で…。」


我ながら苦しい言い訳だ、と大喬は思った。

周瑜も、額の汗を拭うことすら忘れて固まっている。しかし、幸か不幸か、孫策も小喬も、素直な性格だった。


孫策はまだ眉間の皺を深くしたままだったが、「…まあ、そういうことなら良いが。小喬、もう泣き止まぬか。」と、妹をなだめる方を優先した。

小喬も、姉と夫が必死に言い訳をする様子を見て、「そ、そうだったのですか…? ごめんなさい、わたくし、早とちりを…。」と、涙を拭い始めた。


ひとまず、嵐は過ぎ去った。

四人は気まずい雰囲気の中、屋敷の中へと戻り、改めてお茶を囲むことになった。ほっと安堵の息をつく大喬と周瑜。

しかし、それで終わりではなかった。


「でも!」


先程までの涙はどこへやら、小喬がむすっとした顔で口を開いた。


「でも、先ほどはわたくしが誤解したとはいえ、やっぱり、姉様と周瑜様がお二人だけで内緒のお話をされていたのは、なんだか不満です!」


彼女はぷいっと顔をそむけ、そして思いもよらぬ提案をした。


「ですから、罰として! わたくしも、孫策義兄様と二人きりで、楽しいことをいたします!」


「「「えっ!?」」」


驚く三人を前に、小喬はきっぱりと言い放った。


「はい! わたくし、孫策義兄様と二人で、城下の街へお出かけしたいのです! 綺麗なものを見たり、美味しいものを食べたり…そういう楽しいところに、連れて行ってください!」


大喬と周瑜は顔を見合わせ、言葉を失った。先程の件で後ろめたさを感じている手前、そして妹(妻)の機嫌をこれ以上損ねたくないという思いもあり、強く反対することができない。

「そ、それは、しかし…」「小喬、孫策様は忙しい身で…」などと、歯切れの悪い言葉しか出てこない。


一方、孫策は完全に困惑していた。「俺と、小喬が、二人で街へ…?」脳裏に、先ほど自分の胸で泣きじゃくった妹の姿が蘇る。

潤んだ瞳、ほんのり赤くなった頬…それは、かつて自分が初めて心を奪われた、若き日の大喬の面影とどこか重なる可憐さがあった。ドキン、と不覚にも胸が高鳴る。

いかん、いかん! 彼女は周瑜の大切な妻であり、俺の可愛い義妹だ! 断じて、やましい心を抱いてはならん! 孫策は内心で激しく葛藤した。


しかし、なぜだろうか、小喬の期待に満ちたキラキラした瞳を見ていると、「駄目だ」とはっきり断る言葉が出てこない。


「むぅ。ま、まあ、たまには…領内の視察も兼ねて、案内するくらいなら、良いかもしれんな…。」


気づけば、そんな言葉を口走っていた。


そして数日後。孫策と小喬のお出かけの日がやってきた。小喬は朝からうきうきと準備をし、隣に立つ孫策は、どこかぎこちなく、しかし義妹の嬉しそうな様子に悪い気はしていないようだ。


二人は連れ立って、活気あふれる皖城の街へと繰り出した。賑やかな大通りを並んで歩き、小喬は目に入るもの全てに歓声を上げる。


「まあ、綺麗な反物!」

「あちらの簪も素敵です!」


孫策は、そんな妹の様子に苦笑しながらも、時折、的屋で珍しい飴細工を買ってやったり、軽食の屋台で熱々の饅頭を分け合ったりした。

その姿は、傍目には仲の良い兄妹に見えたことだろう。


だが、その二人から少し離れた物陰に、怪しい人影があった。

頭巾を深く被り、普段の優雅な姿からは想像もつかないような、地味な色合いの衣服に身を包んだ大喬である。

夫と妹のことが気になって仕方がない彼女は、諜報の訓練で習得したばかりの変装術(まだまだ拙い)を駆使し、二人に気づかれぬよう必死で後をつけていたのだ。


(もう、孫策様ったら、小喬に甘いんだから…。でも、楽しそう…あら?)


ふと、大喬は道の反対側で、同じようにこそこそと二人を見守る、もう一つの怪しい影に気づいた。

立派な体格には到底似合わない、よれよれの農民風の衣服。そして、顔を隠すための不自然なほど大きな笠…。


間違いない、あれは周瑜だ。

彼もまた、妻と親友のお出かけが心配で、居ても立ってもいられず、慣れない変装までして尾行してきたのだろう。

目が合った瞬間、周瑜はバツが悪そうに激しく咳払いをし、ぷいっとそっぽを向いた。


楽しそうに肩を並べて歩く孫策と小喬。

そして、そんな二人を、互いの存在に気づきながらも気づかないふりをし、必死の変装で隠れながら尾行する大喬と周瑜。


皖城の賑やかな街角で、奇妙なダブルデート(?)が繰り広げられることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。