6話 『私のヒーロー』Sideメーア
私はメーア。
最近、平民ながら伯爵家のメイドとして働き始めた。
意気揚々と働いていたのにもかかわらず、ある時、女性三人組に声をかけられた。
確か、リーシュさんとミルさんとリファさんといったかな。
「ねぇ、貴女、平民よね?」
「え?」
リーシュさんが聞いてきたので、私は答えた。
「はい。そうですが」
「へぇ、そうなのね」
まさか、その答えが私を長く苦しめることになるなんて、その時の私はわからなかった。
次の日、仕事場へ行くと何故かみんな、私を避けるようになった。
私は意味不明だった。
そこにリーシュさんたちが来て、私に話しかけてきたのだ。
「あら可哀想。ボッチになってるわね。やっぱり、平民って可哀想」
そう言いながら微笑んでいたのだ。
その時から、嫌味を言われるようになってきて、最初は全然平気だった。
だが、嫌がらせはどんどんエスカレートしていき、水をかけられたり、こかされたり。
周りに見せしめにされるようなことばかりされるようになった。
周りの人たちは気まずそうに見てるだけで全然助けてくれなかった。
『ばしゃんっっ』
派手な音を立てて、私の頭に水がかけられた。
「なんて見苦しいのかしら。けれど、平民である貴女には似合っているわね」
「…」
リーシュさんは私を見下ろしながらそう言ってきた。
私は何も言えない。
ただ唇を噛みしめることしかできなかった。
その後もなにか言われて多様だが、何にも聞こえなかった。
その時…私の前に誰か立った。
その人は男の子がするようなショートカットに緑色のきれいな目をしている、男の子に見えなくもない12歳くらいの女の子だった。
「大丈夫か?」
「あ、え?」
その見知らぬ女の子は私に手を差し出した。
私はその突然の出来事に目を丸くした。
「怪我はないのか?」
「…えあ、は、い…」
なぜ、この人は私に手を差し伸べて、大丈夫なのかと聞いてくるのだろう。
この私の状況が見えていないのだろうか。
ぽかんとする私を見て、少しその女の子は眉をひそめた。
けれど差し伸べている手で私の手を無理やり掴み、立たせた。
そして私の顔をまじまじと見てくる。
その無言の状態が続いたとき、リーシュさんがその女の子と私の間に割り込んできた。
「ねぇ、貴女。聞いているの、答えてくださってもいいのでは?」
「え…」
聞かれたが、その女の子は戸惑ったような声を出し、首を傾げた。
そしてあろうことか、私にこう聞いてきたのだ。
「何聞かれたっけ?」
私はあっけにとられた。
「ふふ、どうやら貴女は立場というものをわかってないようね」
リーシュさんは頬を引きつらせながら、女の子を脅すように行った。
脅されても表情が変わらない女の子は、少しだけ目を細めた。
「そうなんですか?へぇ、立場」
「わかってくださるなら退いたほうがよろしいかとよ?貴女もそのドブネズミみたいになりたいのかしら?」
リーシュさんは私をあざ笑うような目で見ながら暴言を吐いた。
「ドブ…」
女の子は少し眉を寄せた。
そしてすぐ表情を戻し、煽るような口調でリーシュさんを見た。
「ほうほう、立場ですか…。けれどですね、それ貴女も言えますか?だって今同じ仕事場にいる時点で私達
と同類じゃないですか?」
「…何が言いたいのかしら?」
「貴女、貴族でしたっけ?」
「ええ、そうよ」
聞かれたことを自慢するように返すリーシュさん。
けれど女の子はわざとらしく思いついたような顔をし、こういった。
「あぁ、違った。“元”・貴族」
「っ‼‼」
周りの人はその言葉により、固まった。
女の子はさらに追加攻撃をする。
「否定しない…ってことはもう認めてらっしゃるんですね」
「…」
リーシュさんは顔を赤くしながら何も言えずにいる。
「認めながらもその行動を取るとは…ふ、なんて見苦し___」
女の子がすべてを言い切る前に、リーシュさんは女の子の頬をひっぱ叩いた。
「これで満足ですか?満足できるまで殴ってくださいよ」
「…っ」
いきなり、Mなことを言い始めた女の子に、周り一同肝が冷えた。
「ねぇ?」
女の子のアツに、リーシュさんは3歩後ろに下がった。
「……___」
「っっ‼‼」
その後ろに下がったリーシュさんにと止めだと言わんばかりに、耳元でなにか囁いていた。
小さすぎて聞こえなかったが、リーシュさんが恐怖を目の前にしたような顔をした。
そして女の子は何事もなかったように「失礼しました」と笑顔で言い、私の手を引っ張り倉庫裏まで連れてこられ、木箱の上へ座らされた。
「手出せ」
「へっ⁉」
いきなり言われ、目をまんまるにしてしまった。
けれど、言われたものはできる限りやらないとだめだと思い、素直に手を出す。
そうすれば、女の子は私の手を包み光を放った。
その光を見て、私は驚き声に出してしまった。
「…っ、これって、治療魔術⁉」
その間にも、女の子は私にある全身の傷を直してしまった。
そして気遣うように聞いてくる。
「はい、終わり。他に痛むところはあるか?」
「…え⁉あ、ない、です」
「そう、良かった」
そう言いながら女の子は立ち上がった。
「じゃあ、ここで休んどけ」
「ど、どこ行くんですか?」
思わず、行き先を聞いてしまった。
(この人がいなくなってしまえば…誰も私を守ってくれない…)
女の子はさらりと答える。
「帰る」
不安そうな顔をしてしまってたらしい私を見て、女の子は口を開く。
「じゃ。また彼奴等になにかされたら言えよな。お前はひとりじゃないから」
そう、優しい言葉をかけてもらい、私はお礼も言えずにいることに気付く。
背を向け帰ろうとする女の子を呼び止める。
「あのっ‼‼」
「…何」
もう私に用がないと冷たい言いようで返され、少し怯えてしまう。
けれど、勇気を振り絞り手を握る。
「あ、あの、お名前はなんというのですかっ?」
「…リンネって呼ばれてる」
ぶっきらぼうに返されたが、彼女の名前を聞けたことに喜びを感じた。
「わ、私っ、メーアって言います‼‼た、助けていただき、ありがとうございました‼‼」
一瞬女の子…リンネさんは緑色の目を見開き驚いたような顔をした。
けれどフッと優しい表情になった。
「ああ。気をつけて帰ろよ」
そして背を向け、帰ってしまった。
一人残された私だが、リンネさんに会えた喜びを噛みしめるのだった。




