13話『うちの先生が鬼だった』
「お父様、お願いをしてもいいですか?」
「何だ?」
リオルトが9歳になった誕生日。
リオルトは父にお願いした。
「私、騎士になりたいです」
「…」
リオルトが言葉を発した瞬間父の顔が無表情になった。
リオルトが騎士になりたい理由。
それは主にリオルとの左斜め後ろ、ドアの裏に隠れている人間から自身で身を守るためである。
ドアの裏の隙間から目が光っている。
そんな事するのはまぁ1人しかいないが。
あの街歩きのあとから、レンは四六時中リオルトを追いかけ回し、寝るタイミングですらバルコニーに目を向けると、居ないはずのもの居ないはずのものがいる、など。
どこかに出かける度についてきて、理由を尋ねると「リオは可愛いから、またあのような不埒なものに襲われないよう、お兄様がまもってやるからな」と豪語され…
ここ1年で極度のシスコンに成長したのだ。
騎士になりたい理由は他にもある。
もし今後、街歩きであったような、物理で襲われることがあったとき、やはりどうしても魔法だけでは不足することもあるはずだ。
そのためにも騎士であることはただ普通の令嬢でいるよりも、好手であるだろう。
父の無表情に少し後ずさりかけたが、リオルトも負けじと見つめ返す。
「なぜだ?」
(兄から身を守るなんて口が滑っても言えない…)
「…剣術が好きだからです」
自分でも、突拍子もない事を言っているのはわかっている。
けれど、ここは譲れないのだ。
(…剣術が好きなのは事実だし!)
「…認めない」
「私は、剣術をしたいのですっ」
「…」
リオルトは必死に説得を試みる。
(認めないならば、せめて、そこそこにいる変質者にいる変質者をどうにかして欲しい!)
リオルトの執念にかけた叫びをきき、父が押し黙る。
数秒間の沈黙のあと、父が重い口を開いた。
「…ではお前に剣の師をつけよう」
「では…」
「しかし、だ。3ヶ月後に行われる剣術大会で一人、倒すことができれば、剣をしていいと認める。だが、もし倒すことができなければそんな夢を見ることも禁ずる」
「…父様、それは流石に無謀ではっ…」
その成り行きを見守見守っていたっていたレンが焦ったように声を上げる。
「リオはまだ子供です、夢を見るくらい…」
「黙りなさい。そもそもリオは結婚をし子を産まなければいけないという命があるのだ。ここまでが私にできる最大の譲歩だ」
「…っ」
あっけなく父に論破され、拳を握ったまま押し黙るレン。
「さあ、どうする?諦めて大人しくいるか、一時の希望を見るか。どちらもお前の自由だ」
父は試すようにリオルトに投げかけた。
リオルトは拳を握りしめ喉から決意の言葉を発した。
「…私、は、絶対に剣術大会で優勝してみせます!」
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その宣言をした次の日から、剣の師というリオルトより5は年上だと思われる青年が伯爵家にやってきた。
「ファスナーと申します」
「…リオルト・アシュリーです」
「では__」
「早く始めてください、時間がないんです。…あと敬語も不要です。名前も呼びやすいように呼んでくださ
い。他になにか聞きたいことはありますか?」
ぱぱっとリオルトが言うと、ファスナーは少し驚いたように微笑む。
「これじゃあ、どちらが教えられる側かわからないね、クク、噂には聞いていたけど面白い令嬢だ」
「どーもありがとうございます」
くすくすと笑うファスナーは、そっけない態度のリオルトが気に入ったのか、すぐもとの顔に戻すと、少し意地悪に微笑んだ。
「…じゃあリオルト。今から訓練を始めるよ」
「…剣は持たせてくれないのかよ」
「そうだね、まずは体作りからやってかないと駄目だから」
「…ふ〜ん」
そんな他愛もない話をしながらもリオルトは腕立てをしていた。
「ふぅ…けど、大会まであと2ヶ月しかないけど」
「リオは覚えるの早いから剣を持つのは1ヶ月前でいいと思うけど…はい、オッケー。次、腹筋ね」
「え、まだやんの」
ファスナーはある程度整ったきれいな顔でにっこにこしながら地獄の鍛錬メニューを作ってきてくれた。
リオルトは恨めがましい目でベンチに座り剣を磨いているファスナーを見る。
(こいつ、きれいな顔を被った悪魔だ)
「ん〜?なにか言ったかなぁ?」
「いや〜今日もファスナーは麗しくまじで腹筋減らしてくれないかな―の含みの目をしようとした打枝から別にしてないから!」
「軽口叩けるくらいならもうちょっと増やしてもいいかな?」
しかも鬼ときた。
「よくついてこれたね」
「ははっ、リオルトを舐めてもらっては困るよ!」
「確かにリオは貴族令嬢だけど、喋り方はどこぞの馬の骨化もわからない平民だよね」
ファスナーは、ククと苦笑いしながらため息を付く。
失礼なこと言われたリオルトはグルル…と獣顔負けの威嚇をする。
ファスナーには、砕けた喋り方で接する。
そのほうが楽だ。
「んーじゃー次は、リオお待ちかねの剣だね」
「まじでっ‼‼?」
そうして投げよこしてきた。
「っと…木剣?」
ファスナーが投げよこしてきたのは真剣ではなく、木剣だった。
ファスナーははてながいっぱいついているリオルトの頭に手を乗せる。
「まずは、木剣で基本的な技だ。最初から真剣なんて、死にに行っているようなもんなんだから」
「えー、真剣からじゃないのー」
ブーイングをするリオルトにファスナーが無言で拳骨を落とす。
「文句言えるぐらい元気なら素振り千本させるけど良いの?」
「いや、うわーちょっと木剣なんて良いんですかファスナー師匠!うわぁありがたいなぁ〜うわすごくありがたい〜!」
調子の良いリオルト返事に、ファスナーが「どうしてこんなふうに育ったのやら…」とつぶやいたが無視し、指された的を見た。
「あの的になんでも良い、一撃入れてみて」
「はーい」




