番外編:卒業式に何思う
さて、気がつけば三月も後半ですね。
三月と言えばそう、卒業式です。
私もですね、家族が今年その節目を迎えたということで先日、参列してまいりました。
自分が『卒業生』という送られる側となっていたのは、かなり昔のこと。
コロナの影響もあり、その頃とは様子も変わってきておりますね。
会場の体育館は、換気ばっちり。(つまり寒い)
両親そろっての参列者が多いのだな。(自分の頃は母親のみが多かったですね)
式典の画像や動画をSNSに投稿するのは自粛してほしい。(そりゃそうだ)
また式の途中で流されるスライドショーは、個人で楽しみたいという理由でも撮影は一切禁止。(個人情報、肖像権とかもありますのでこれも当然でしょうね)
などなど、時代の変化を感じながらの式となりました。
そんな式典で、私に起こったある出来事を語ってまいりましょう。
私よりも数日前に、フユミがお子さんの卒業式に参加しておりました。
彼女のお子さんの学校は、保護者の席が子供の出席番号順で座るように決まっていたとのこと。
自分がいく学校はどうだろうといざ体育館に入場してみれば、席は早い者順のよう。
比較的早めに会場に入ったものの、私が到着した時点で前の席はほどほどに埋まった状態。
そんな中でも空いている席を何とか確保し、式が始まるのを待ちます。
ちなみに出席番号でいえば、我が家の苗字はそこそこ前の方。
出席番号順の席指定だったら、結構いい場所で見ることが出来たのに。
そんなことを思いながら、私はスマホを取り出します。
式の始まる時間にはまだ余裕があることもあり、私はフユミ達に今の状況をグループチャットに投稿しておきました。
『会場入りました。フユミちゃんの学校と違って、席は出席番号順ではなかったよ。残念~』
連絡に気づいたイチカ達から、返信が次々と届きます。
イチカ『席は残念だったね。でも、しっかり動画が撮れてればいいんじゃないかな? 明日、会社に来たら見せてね~』
フユミ『そうそう、入場の時にしっかり見つけてあげなきゃだめだよ。出席番号のカウントしながら、動画撮るとわかりやすいかもよ』
ミオナ『人の子の成長って本当に早いね! ともかくも卒業おめでとう!』
彼女達からの温かい言葉に一人でにっこりしながら、式が始まるのを私は待ちます。
そうこうしているうちに、両隣にも保護者の方が座り、いよいよ式が始まりました。
成長ぶりにじんわりと涙が出そうになりながらも、子供たちの入場、着席を見守りつつ、式は順調に進んでいいきます。
そのなかで必ずと言っていいほどあるものは、『国歌斉唱』ですね。
全員起立の号令と共に、私は立ち上がり、前奏を聞きながらリズムを取り始めました。
唐突な自分語りになるのですが、私、上手い下手は別として、歌うことが好きなんです。
前奏の時から、小さく鼻歌で音をとりながら、私は歌おうと口を開きました。
というか歌い始めました。
すぐさま覚えたのは違和感。
そう、私の他に誰も歌わなかったのです。
え? 斉唱ってみんなで歌うもんじゃないの?
『いっせーのーで』で歌うから斉唱じゃないの?
そんな混乱を抱えつつ、私は何とか途中で歌うのを止めます。
しかしながら最初の歌詞の部分は、どうしても口から出ていくことになるわけでして。
ましてや鼻歌から始まったそれは「ん」からはじまり、本来の歌詞につながっていったのです。
結果、私の口からはこんな単語が生まれていきました。
「んっ、きぃ~」
――東海の地の厳かな体育館に、中途半端なサルが爆誕いたしました。
やばいやばいやばい!
恥ずかしさに、とっさに顔を伏せるも、それが消え入りそうなサルの鳴き声へとさらにジョブチェンジする結果を呼ぶだけ。
知ってます?
下を向いていてもね、私の両隣の人達がこちらに視線を向けているのが分かるんですよ。
衣擦れとかでね、気づいちゃうものなんです。
だから皆さん、隣の人がなんかやらかしてうつむいていても、あんまり見ちゃだめですよ。
とはさんとの、お約束だよ!
というか、どうか見ないようにしてあげて!
それで救われるプライドと命が、きっとそこにはあるから……!
顔だけがカイロになったかのような、信じられない放熱をしながら、私は着席の号令を待ちます。
着席して間もなく、隣の方がスマホを取り出し何やら打ってきます。
あぁ、これ私のこと書いてるわ。
多分、『【悲報】私の隣、サル』とかSNSに絶対投稿しているよ。
というか、式典中にスマホを触るのは、はたしていかがなものだろうか。
原因を作っておきながら、そんなことを考えつつ、式は無事(?)終えることが出来ました。
会場から退出し、式が終わった報告をせねばとスマホを取り出します。
途端にフラッシュバックするは、あのサル事件。
入場直後は「あ~。出席番号順がよかったなぁ」なんてのんきに思っていたものの、指定席でなかったことで「○○さん家の保護者はサル」と言われることを回避することが出来たのだ。
そんな感慨を抱きながら、同僚達とのグループチャットに、私はこう投稿をしたのでした。
『式終わりました。フユミちゃんの学校と違って、席は出席番号順ではなかったことを、これほど喜ばしいと思ったことはありません』




