クリスマスは何かを届けにやってくる
クリスマス。
それは12月24、25日に恋人や家族がキャッキャウフフする日。
クリスマス。
そして今年は、それが平日にてやってくるイベント。
というわけで、我ら女子事務員はそんなウフフイベントなど関係なく、仕事をする日であったわけです。
おりしもこの時期、うちの会社は繁忙期真っ只中。
昼休みもゆっくり取れずに、仕事をする状態がここ数日は続いておりました。
さて、そんな12月24日の出来事を、今日はお伝えしていくとしましょう。
◇◇◇◇◇◇
全く片付かない仕事に焦っているさなか、電話の音に私は受話器へと手を伸ばします。
内容はイチカ宛てのもので、商品宅配についての連絡を伝えるものでした。
イチカが席を外していた為、私はメモを書いていきます。
書き終えたメモを読み返してみれば、メモの下部分のスペースが、かなり余った状態になっていることに気づきました。
この余白 つかうべきです クリスマス
~とは こころの俳句~
こんな句が浮かんじゃいましたからね。
しっかり韻も踏んでおきましたからね。
ニンマリとしながら、私はせっせと絵心と思いを白い紙へとぶつけていきます。
えぇ、今日はクリスマスイブ。
もちろん描くべきものは分かっておりますとも。
いつもは単色ですが、今日はせっかくですからね。
クリスマスカラーともいえる赤を追加で参加させてみましょう。
というわけで、出来上がったのがこちら!
この話を読み続けている皆さまには、もちろんお分かりのことでしょう。
そう! サンタクロースと、トナカイです。
この話を書き始めた頃のイラストに比べると、かなり成長を感じられるのではないでしょうか?
ですが大体、いつものパターンだとですね。
「何が描いてあるのか、さっぱりわからない」
なんていう、ブリザードのごとき心を凍らせるコメントが、イチカ達からは届くわけですよ。
ですので今回は、セリフの語尾にトナカイと分かりやすいように「トナー」というビックなヒントを入れておきました。
これで対策はばっちり。
あとは、イチカにこれを見せればミッション完了です。
ところが、完成したというのに、イチカがちっとも戻ってきません。
というわけで、入力業務が一段落していたフユミへと、メモを裏返した状態で渡してみました。
「これイチカの机に置いておくんだけど、ちゃんと伝わるかなぁ」
メモを裏返したフユミの口から「トナッ」という聞いたこともない単語が出てきました。
どうやら私の絵の素晴らしさに、日本語が消失したようです。
フユミはうつむき、握ったメモと体を、しばらくのあいだ揺らしておりました。
やがて理性が戻ったようで、にっこりと私に笑いかけながらこう言ってきたのです。
「やるわね、とは。タイムリーな話題を持って来るなんて、粋なことをするじゃん」
おぉ、なんということでしょう。
いままで私の絵に一切の理解を示さなかったフユミが。
『お前の絵は平たい。あといい加減、動物の足を波立たせるのは卒業しろ』
こんな辛口の批評しかしてこなかった彼女が、ようやく私の絵を受け入れてくれたのです!
やはり努力は続けていくもの。
そんな喜びに浸る私に、彼女はこう言ってきたのです。
「年末は家を空ける人も多い。『泥棒には気をつけなさい』とイチカに言いたかったのね」
「そんなわけあるかい! じゃあ「トナー」って言ってる意味はどう理解するんだよ!」
「あれでしょ? 『隣りの人にも声かけて、防犯意識を高めましょう』って言いたかったんじゃないの?」
「すごいな、よくとっさにそんなこと思いつくな」
相変わらずのフユミのアドリブ力に舌を巻いていると、イチカが席に戻っていくのが見えます。
「えぇい、もういい! 要はイチカが分かればいいんだもん! イーチーカちゃ~ん!」
伏せた状態にしたメモを、私はイチカの机に叩きつけるように置きます。
「お客さんからの伝言だよ! タイムリーなイラストを添えてるからぜひ楽しんで!」
イチカはメモを裏返し、私のサンタイラストをじっと見つめます。
上のイラストへとスクロールしていただくのも大変ですので、イラストをもう一度、載せておきましょう。
やがて彼女はにこりと笑みを向け、サンタの口元を指さすのです。
「①出っ歯である。
②何か食べている。
③さっきの②をリバースした。
さぁ、答えはどれ?」
「いいえ、どれも違います。タイムリーなイラストというヒントを、よくぞぶん投げてくれたな」
「しかもこの人、袋の重力をガン無視して持っているよね。イリュージョンの人?」
「うわ、本当だ(←描いている時に全く気付かない女、それがとは)」
まずい、サンタには欠点が多すぎる。
ならばと私は、トナカイを指さしてみせます。
「もうスペシャルヒント上げるからきちんと当てて! この時期に流れる歌があるでしょ?」
私は「赤鼻のトナカイ」を鼻歌で歌っていきます。
皆さまもご存じですよね?
真っ赤な鼻で笑いものであったトナカイ。
でも、その鼻こそがサンタの役に立つのだよ、というとっても有名な歌です。
なぜ鼻歌かですって?
だって歌ったら、答えの『トナカイ』という言葉が出てきてしまいますからね。
サビの手前あたりを歌っていると、イチカが手をパンと叩き、嬉しそうに私へと言ってくるのです。
「あぁ、分かった!」
「おっ、さすがにこの歌を聞けばわかるよね? では答えをどうぞ!」
「うん、答えはとはちゃんよね! 『いつもみんなの笑いもの』だもん!」
「違うよ! いつ私がこの会社内で、四つ足で歩いたことがあったんだよ!」
「え~、だってさ。いつも鼻を真っ赤にして倉庫作業から帰ってきてるじゃん」
「うぐっ、た、確かに」
私の仕事の一つに、倉庫での検品作業があります。
倉庫は空調設備がないため、この時期はかなりの寒さを耐えながら仕事をすることになるのです。
冷え切った体で事務所に戻れば、その寒暖差で鼻も顔も真っ赤になった『とは』ならぬ、『とはトナカイ』の出来上がり。
……いや、ちょっと待て。
イチカの口車に乗せられている場合じゃない。
「と・に・か・く! これは私ではありません!」
「そう? じゃあ右のデベソ出っ歯イリュージョンがとはちゃんってこと?」
「歯じゃないよ! あまつさえ腹の文字はデベソではなく、カタカナの「サ」って描いたんだよ」
「サ? えーと、じゃあ『散々な目に遭うとはちゃん』が正解?」
あぁ、そうですね。
今年一年、会社であったいろいろな出来事が、走馬灯のように浮かんでは消えていきます。
遠い目をして動かなくなった私に、今度は私の名を呼ぶミオナの声が聞こえてきました。
「とはちゃーん、○○会社さんから電話ですよ~」
「……あ、はい。席に戻ります」
とぼとぼと戻る私へ、イチカからはつらつとした声が掛けられます。
「元気出していこう! えい、えい、トナー!」
今までに彼女から、一度たりとて聞いたことのないエールを背に、私は仕事へと戻るのでした。
――というわけで皆さま。
来年もどうか弊社をよろしくお願いしますトナー。




