第3章 帰 郷 ―2―
島の南東には、島内一の規模を誇る集落があった。フィボロスと名付けられた火山の裾野を開拓して築き上げた集落で、竜王が住まう白亜の宮殿を最奥に抱いている。
宮殿から東に延びる曲がりくねった道を行けば、翼竜や飛竜の棲家となる巨大な竜舎を構えた砂浜に出る。道の両脇には白塗りの壁の建物が立ち並び、次に長閑な農園の風景が広がっていた。そこから、更に進んで、物見櫓の脇を抜ければ、砂浜だ。
その砂浜に、アレックス達は無事に降り立った。
彼らの姿を捉えた調教師や装具師が、竜舎からわらわらと出陣し、一行を出迎える。
数人の調教師達は積荷を降ろし、装具師は飛竜の装具を五人がかりで手際よく外して体調などを調べたりした。
残りの者達は、ハシュレイを取り囲み、やれ臭いだの汚いだのと囃し立て、賑やかに笑い声を上げた。
その時のディレイと云えば、黒い人だかりの中心となったハシュレイのとばっちりを喰い、もみくちゃにされていた。やっとのことで這い出ると、口の中まで砂まみれで、思わず渋面にならずにいられなかった。
「よう! チビ助」
見上げると、真っ白な歯を覗かせたアレックスが手を差し伸べていた。ディレイは彼の手を取り立ち上がると、その場から少しばかり距離を取った。あのまま居ては、踏み潰されかねない。振り向くと、どこから溢れるのか、まだまだ人が集まってくる。
「すごいなぁ」
誰に語る風でもなく呟くと、耳ざとく捉えたアレックスが同感だとでも言うように頷いた。
「オレ達にとって、ハシュレイは英雄だからな。剣の腕も立つ。魔術も使える。博識なのに気取ったところがなく、誰に対しても分け隔てがない。父さんは、人心を掴むのが上手いと言っていたぜ。おまけに、いい男とくれば自然と人も集まるってもんだ」
「いい男?」
アレックスの一言一言に、いちいち頷いていたディレイであったが、最後の科白には首を傾げた。どこが、と眉根を寄せてアレックスを見る。
ディレイの視線に気付いたアレックスが、目を瞬かせる。
「知らないのか? ああ見えて、ハシュレイは……」
そう言いかけて、アレックスは口をつぐんだ。考え込むように顎に手をやり、にやりと笑う。悪戯を画策するような笑みだ。
「何? 何なの?」
アレックスの不気味な笑みの意図を読み取れず、ディレイは更に眉根を寄せた。
「まぁ、気にするな。それより、チビ。覚悟しておけよ」
何を?と、問う前に、突然、腕を掴まれ、ディレイはきょとんとした。
不意に、何の話題で盛り上がったのか、歓声が上がった。その中に、馬蹄の音が微かに聞こえた気がして、ディレイは首を巡らせた。アレックスが集落に繋がる方向、正確には砂煙を上げて近付いてくる一団に向かって、大きく手を振っている。
「早速、お出迎えだ。相変わらず早いねぇ」
にやにやしながら、口に片手を添えて声を張り上げる。
「ロジカァ!」
そして、再び、大仰に手を振り始めた。
ディレイは、馬に乗った一団と、ちらちら背後を一瞥するアレックスを見比べて、ある事に気付いた。
人だかりができているのは、この一帯だけ。何も大声を上げてまで呼ぶ必要はない筈だ。ならば、アレックスは、ロジカという人を呼び寄せているのではない。おそらく、ハシュレイを取り囲む者達に知らせているのだ。その証拠に、彼の声を聞いた数人の者達は、砂塵を見るや蒼白になり、そそくさと立ち去っていった。
ディレイは、なんだか少し怖くなって、ハシュレイを見た。けれど、ハシュレイは未だ人の輪の中に居た。囲みは厚く、なかなか抜け出せないでいるようだ。堪らず、彼の元に行こうとして、アレックスの手を解きにかかってみたが、しっかと握られており、びくともしない。
そうこうしているうちに、一団は到着した。先頭をきっていた女性を残し、人だかりをぐるりと取り囲む。
「ご歓談中のところ失礼いたします」
一斉に皆の視線が、馬上の女性に注がれた。冷やかな彼女の視線を見るや、途端に、辺り一帯はしんっと静まり返った。皆一様に、血の気がない。何故か、ハシュレイまでもが蒼褪めている。
「……ロジカ」
アレックスや彼のお蔭で難を逃れた者達は、遠巻きに見物を決め込んで、彼らの間に流れる温度差を楽しんでいた。ディレイはと云えば、訳も分からず、ただおろおろするばかりだ。
「皆さん、手際良くお勤めを果たされ、お手隙になられたようですね。優秀な方々ばかりで、さぞや、ご当主様もお喜びになられるでしょう」
ロジカが記憶に留めるかのように一人ずつ顔を見て、にこりと微笑む。その花が開くかのような笑みに、全員が竦みあがる。
「誰?」
ディレイは、声を押さえてアレックスに尋ねた。なんだか声を上げてはいけないような、妙な緊迫感がそこにはあった。
「侍従長のロジカ・サナート」
側仕えの総責任者だと告げたアレックスは、更に一言を付け加えた。
「影では、裏竜王とも言われてる」
「裏竜王?」
ロジカの背後に居た侍女が、じろりと睨む。
アレックスは慌ててディレイの口を塞ぎ、引き攣った笑みを張り付けた。
そんな二人に気付かず、ロジカはゆっくりと一同を見渡した。
「このロジカ、皆さんを過小評価していたようですね。申し訳ありませんでした。早速、考えを改めさせていただきますので、どうかご容赦を……」
言って、ロジカが二人の侍女に指示を出した。
「確か、竜舎の老朽化が進んでいると仰っておられましたね。あと、装具の数も不十分だとか。物見櫓の補強や増設も必要ですし……、ああ、濠の建造も人手が足りないと聞いております。手伝ってくださいませね。さ、二人共、このままでは優秀な皆さんが退屈すぎておかしくなってしまいます。率先して、指揮を執っておあげなさいな」
はいっ、と小気味良い返事をする侍女二人に対し、皆は一斉に不満の声を上げた。ただでさえ竜舎務めは仕事が多い。これ以上は身体が持たない。
それを、ロジカは一喝した。
「無駄口を叩く余裕があるのでしょう? 問答無用です。それとも、まだ、物足りないと、頼もしいことを言って下さるのかしら」
口角を上げるが、目が笑っていない。
皆はゾッとして、身を寄せ合った。目配せをし合って、溜息を吐く。
こうなると、ロジカの怒りが解けるまで、指示をこなすしかない。こなさなければ、常にロジカが傍に付き添うようになる。それだけは嫌だと、一度経験をした者は、口を揃えて言った。
皆は、一人残らずがっくりと肩を落とし、二人の侍女に従った。
ぽつぽつと去って行く皆の背を見送っていたハシュレイは、助かったと思いつつ、彼らに同情した。
「ハシュレイ、おかえりなさい。長旅、ごくろうさま」
馬上から舞い降りたロジカが、静かに歩み寄る。アレックスも、ディレイを連れて彼女に並んだ。
「や……やぁ、ロジカ」
ハシュレイが、やにわにたじろぐ。まるで、仔猫相手におじける獅子のようだ。
アレックスはくつくつと笑い、ディレイは信じ難いものを目の当たりにしたようになった。
ロジカが荒れた手を口許にやって、あからさまにハシュレイを舐めるように眺めた。
「相も変わらず、みっともない恰好ですこと。ご当主様がご覧になられたら、絶句するわね」
露骨に不快を表しながら、彼を囲う侍女らに目配せをする。十数名の侍女達が、次々に馬から降りて、ハシュレイの囲みを狭くした。
「まぁ、いつものことだからなぁ」
さして悪びれた様子もなく、ハシュレイは脂まみれの頭を掻いた。
饐えた臭いが、侍女達の鼻を衝く。彼女らは顔を背けたり、手で鼻を覆ったりしたが、ハシュレイから離れることはなかった。
「ただでさえ臭いのだから、不用意に動かないでちょうだい。臭いが散るじゃないの。さぁ、みなさん、このぼろ雑巾を早々にお連れして」
親指と人差し指とで小鼻をつまみ、眉間に深い皺を刻んでロジカが言った。
ハシュレイは、容赦ないロジカに内心で苦笑しながら言いよどみ、意を決して口を開いた。
「あ~……あのな、ロジカ。今回、俺は逃げも隠れもしない。だから、俺に構わず、あいつを世話してやってくれないか」
侍女に両腕を取られたばかりか四方を固められ、完全に逃げ場を失ったハシュレイはディレイを指差した。固唾を呑んで見守っていたディレイの肩が跳ねる。
ハシュレイの内心を察したロジカは、スッと目を細め、冷気を宿した。
「そんなことを言って、ろくに身支度をせずに、ご当主様の書斎に行かれたのは、どこの誰でしたっけ? それに、貴方に言われずとも、彼のことは心得ております」
「そうそう、観念しろよ、ハシュレイ。恒例なんだから。儀式みたいなものじゃないか」
からからと笑うアレックスに、二人の突き刺すような視線が向けられた。アレックスは、ちらりと舌先を見せたが、茶々を入れたことへの反省はない。終始、傍観を決め込んだ笑みを浮かべている。
対してディレイは、突然、矛先を向けられ、おどおどしながらアレックスの背に隠れようとした。
縮こまる薄汚れた少年を見て、ロジカが微笑を浮かべる。
「私はロジカ・サナートと申します。ご当主様より、貴方様のお世話をするよう仰せつかっております。お名前をお教えいただけますか?」
ディレイの前に進み出たロジカが、膝を付いて尋ねた。
恭しい態度に戸惑いながら、ディレイは応えた。
「……ディレイ・ハーディン」
「ディレイ……とお呼びしてもよろしいかしら?」
こくりと小さく頷く。
ロジカが胸に手を当て、深く頭を垂れる。
「では、私のことはロジカとお呼びくださいませね」
ふわりと笑んだ彼女につられ、ディレイは 少々 はにかんだ笑みをこぼした。
あんなにハシュレイがたじろぎ、皆が怯えるものだから、どんなに怖い人物なのだろうかと不安になっていたが、想像したよりは優しい人のようだ。頭を撫ぜられ、頬をほんのり赤めながら、ディレイは肩の力を抜いた。
「誰かさんも、ディレイのように素直なら、少しは可愛げがあるというものなのに。そう思わない? ハシュレイ」
立ち上がり、くるりと向きを変えたロジカが言う。挑むような、高飛車にも映る表情に、ハシュレイは乾いた笑い声を上げながら半眼になり、アレックスはうんうんと頷いた。
ハシュレイはアレックスを一瞥した。歯ぎしりをしている。
アレックスはというと、たまにしか見られないハシュレイの狼狽ぶりを楽しむばかりだ。
「さ、アレックス。貴方も一緒に」
不意にかかったロジカの声に、アレックスがぎょっと目を開いた。
「え? なんでオレまで? オレはいいよ」
どぎまぎしながら後ずさるアレックスに、ロジカが迫る。
「何言ってるの。ご当主様から呪符を手渡されていたでしょう? それなのに何日も連絡を寄越さずふらふらして。ご当主様が胸を痛めておられたわよ。それに、その恰好……」
眉を顰めるロジカに、アレックスは両手を掲げて距離を取りながら抗議した。
「それ、オレの責任? ロナが連絡したと思ってたし、何日も帰って来れなかったのはオレの所為じゃない。ハシュレイ! 何とか言えよ」
にやつきながら、ハシュレイはそっぽを向く。横顔が、ざまみろと言っている。
アレックスは歯噛みしながら、ロジカに愛想笑いを見せた。
「オレ、そんなに汚れてないし。竜王にも報告しなけりゃいけないでしょ」
「ご心配は無用です」
いつの間に張り巡らされたのか、アレックスはどんっと侍女の壁に突き当たった。
数人の侍女に肩を掴まれ、何故か手首を縛り上げられた。
ハシュレイの手首も、すでに綺麗な布で羽交い絞めにされている。
「待て待て待て待て、待てって。オレはいいって。なぁ、離せよ。おいっ!」
「アレックス、恒例なんだから」
馬上へと押し上げられたハシュレイが憐みを浮かべながら言う。けれど、口許は綻んだままだ。
「オレは違う! 対象外だろ! ちょっと待てってば」
アレックスを道連れにできたことで、少しだけ晴れやかな気分になったハシュレイと、思わぬところでロジカの洗礼を受ける羽目になり、わめき散らすアレックス。侍女達は、彼らの両脇をがっちりと固めて、馬上に上がる。
「さぁ、ディレイ。私たちも」
言って、ロジカがディレイに手を差し伸べた。
ディレイは、その手とハシュレイの丸まった背を見比べた。
「どうしてハシュレイの手を縛るの?」
「ちょっと、やんちゃが過ぎるので、ああするしかないです。目を放した隙に何を仕出かすかわかりませんから。ひどいことをするわけではないの。だから、心配しないでくださいな」
背を屈めて、更に手を突き出したロジカの瞳を、ディレイは上目使いで見詰めた。彼女の掌に、そっと自らの手を置く。やんわりと包み込んでくる彼女の手は、ハシュレイよりも柔らかくしなやかだった。
そうして、連行された二人と、ロジカと共に馬に跨ったディレイが連れて行かれた先は、宮殿の本殿の傍らにある浴場だった。
そこで、ハシュレイと別れたディレイは、アレックスと一緒に脱衣室に連れていかれた。
ディレイは、あれよあれよという間に素っ裸にされたが、この期に及んでもアレックスは抵抗をし続けていた。浴室で手ぐすねを引いて待っていた侍女や侍従達から走って逃げる。窓から退散しようとすると、衛兵に押し戻される。ついには、部屋の隅に追いやられ、三人の侍従に羽交い絞めにされた。侍女らがアレックスの服をむしり取ると、彼の悲鳴が浴場中に響いた。
ディレイは、裸になった身体を丸めて震えるアレックスを不思議そうに眺めた。
全てを脱がし終えたロジカが、ディレイの前にゆったりとした物腰でかしずく。
「ディレイ、その胸の物も外してもらえるかしら」
脱いだ服を、折った膝の上で綺麗に折り畳みながらロジカが言う。
ディレイはロジカに視線を移し、首から下げた小袋を両手で握り締めた。一、二歩後ずさり、俯いて、首を横に振る。
「この浴場は鉱泉なの。大切な物なら、尚更、身に付けていてはいけないわ」
「……どうして?」
「錆びたり、変色してしまったりするかもしれないの。必ず、お返ししますから」
ディレイは口を真一文字に引き結び、固く眼を閉じて首を振った。
「これ、母さんの形見なんだ。肌身離さず持っているようにって。本当は、人にも見せちゃいけない物で……その、だから……」
ロジカの溜息が耳朶に響いた。ディレイは、叱責を受けた心地がして、いたたまれなくなった。
役目を果たすまでは、この島で過ごすことになるのだろうと分かっていた。きっと、ハシュレイだけでなく、このロジカにも世話になるに違いない。だから、手のかかる子だという印象を与えたくはないと、ディレイは考えていた。けれど、これだけはどうあっても譲れない。母そのものを手放してしまう気がしてならないのだ。
嫌われたくはない、母の存在を無下にもできない。もどかしさと切なさがせめぎ合い、閉じた瞼の淵に涙が滲む。
「あとで、おかしなことになったとお怒りにならないでくださいませね」
ふと聞こえた溜息混じりの声に、ディレイはパッと顔を上げた。
「付けていていいの?」
「仕方ありませんでしょう? 外してくださらないのですもの。その代り、小言は無しにしてくださいね」
ディレイの曇った表情に笑みが戻った。双眸は輝き、両頬が嬉しそうに綻ぶ。そして、大きく、強く頷く。
やはり、優しい人だと、ディレイは胸を撫で下ろした。柱にしがみ付き、未だに抵抗を諦めないアレックスの方が異常なのだ。今となっては、ハシュレイの動揺ぶりすら滑稽に思える。
脅したり、泣き落としたりと、試行錯誤を繰り返すアレックスの傍を、悠々と歩く。見上げれば、手を繋いだロジカが、にこりと笑む。ディレイは、まるで母と居るような、こそばゆい気持ちで浴場へと足を踏み入れた。
「もういい! もういいよ、ロジカ」
そう悲鳴をあげたのは、ディレイだった。
浴場へ赴くと、ロジカは豹変した。
最初は、優しく身体を洗ってくれていたのだ。けれど、洗っても洗っても落ちない垢に、彼女の目つきは次第に険しくなった。
たくしあげた裾が濡れるのも構わず、ディレイは磨き抜かれた。擦りすぎて肌が赤らんでも、ロジカや侍官らは解放してくれはしなかった。当然ながら、洗髪も一度では済まされない。爪の隙間や、足の指の間も丁寧に洗い抜かれた。のぼせたので出ようとすると、まだだと言って、連れ戻された。腹が減ったからと言うと、浴場にまで食べ物が運ばれてくる。白くなった肌に香油を塗られ、髪ばかりか産毛まで切り整えられた頃には、へとへとになっていた。見れば、アレックスもぐったりとして、されるがままになっている。
すっかり綺麗になって浴場を出ると、ディレイは唖然となった。今度は脱衣室いっぱいに衣装が並べられていたのだ。それは、足の踏み場もないほどで、おまけに侍女の人数も増えていた。
やれ肌に色が合わぬ、丈が違うと何度も着せ替えられ、やっとのことで衣装が決まる。すると、次に待っていたのは、数々の装飾品だった。勘弁してと言おうものなら、無数の小言と鋭い視線に射抜かれる。
「覚悟をしておけ」と言った、アレックスの科白が何度も脳裏をよぎった。ハシュレイの狼狽ぶりも現在では頷ける。逃げたくなるのも、無理はない。
髪型を整え、香を焚きしめた服を纏い、ごてごてと飾り付けられた頃には、すっかり陽も落ちていた。
ディレイはふらふらになりながら、ロジカや侍官らに見送られ、浴場を出た。彼女達の満面に湛えた笑みが恨めしい。
「な? 裏竜王の怖さが分かっただろ」
アレックスが、隣に並んだ。ディレイに比べて、実に簡素な出で立ちだ。どうやら、辛うじて装飾品の洗礼だけは逃れられたらしい。肩を落とし、重い溜息を吐きながら、ぼそりと言う。
ディレイは返事をする気力すら起こらず、ふうっと長い息を吐いた。とっぷりと暮れた夜空を見上げると、白い月が煌々と輝いていた。虫の音が清かに響く。
「……ハシュレイは?」
問うと、アレックスは親指を立てて左側を示した。覗き込むと、丁度 彼が姿を見せた。
「お前達、二度と俺に触れてくれるな! 頼むから」
笑い声に押されるように出てきたハシュレイも、同じく憔悴しきった風情のアレックスと目が合うと、何とも言えぬ顔をして溜息を吐いた。暫く、目と目で会話をし、申し合わせたかのように、もう一度溜息を吐く。
「飯も食ったし……、行くぞ、チビ助ぇ」
ハシュレイとアレックスの二人が、どちらともなく歩き出した。しかし、すぐに、はたと足を止め振り向いた。
透き通った月光の下、ディレイは佇み、あんぐりと口を開けていた。身綺麗になったハシュレイに見とれていたのだ。
あれ程長かった髪を切り、髭を剃り落したハシュレイを、ディレイは初めて見た。
彫が深く、意外にも目鼻立ちははっきりとしていた。蜘蛛の糸よりも細く、宵闇よりも深い黒髪が風にそよぐ。月の光を受けた双眸は限りなく澄んでいて、吸い込まれそうな翡翠の色をしていた。輪郭は逞しいのに不思議と性別を感じさせない。完璧すぎる容姿、全ての衆目を集めるだろう魅力が、彼にはあった。
ディレイは言葉を失い、ハシュレイに魅入った。それほど、彼は素晴らしかった。ここまで美しく整った人を、ディレイは未だかつて見たことがない。なのに、何故か、どこかですれ違った気がしてならなかった。
こんばんは。
第3章 2節をお届けさせていただきます。
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陸王一式




