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異世界王子の居候生活  作者: 鼎


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8/20

8

「ミオ」

しばらくして、ルイに呼ばれた。


「これを使いたい」

画面を見る。


「ああ、Gemini」

「知っているのか」

「名前くらいは」

「有料版がある」

「あるでしょうね」

嫌な予感がする。


「それから、Claude」

「増えた」

「これも使いたい」

「無料で使えば?」

「有料版を」


「いらないよ」

「なぜだ」


「チャッピーあるじゃん」

ChatGPTは、ずっと使っていなかった私のアカウントを解約して、ルイのアカウントで有料版の登録をした。だからルイが一日中質問を浴びせ続けたときも止められなかった。止めてくれればよかったのに。おかげで本人が先に止まった。知恵熱を出して。


「同じものではない」

「同じAIでしょ」

「違う」

「私、そんなに使いこなせないし」

「ミオが使うのではない。俺が使う」

「もっといらない」

「なぜだ」

「三つもいらないでしょ」

「いる」

「いらない」


「では説明する」

「いいです」

「まず、ChatGPTとGemini」

プレゼンが始まってしまった。


「いいって言ってるのに」

「同じ問いを与えても、答えが違う」

「そりゃ違うでしょうね」

「一方に欠けているものを、もう一方が補うことがある。逆もある」

「へえ」

「二つを使えば、一つだけを使うより見落としを減らせる」

「なるほど」

ちょっと納得してしまった。


「じゃあ、チャッピーとGeminiでいいじゃん」

「Claudeがある」

「だから増やさないで」

「Claudeは長い文章を扱うのが得意らしい」

「らしい」

「試した。答え方も違う」

「もう使ったの?」

「ああ。無料版を」

抜け目がない。


「ChatGPTとClaudeでは、同じ文章でも違う見方をする。一方に批判させ、もう一方に直させることもできる」

「そんな使い方してるの?」

「ああ」

いつの間に。

「では三つあればどうなると思う」

「知らない」

「俺もまだ分からない」

そこで、ルイの目が少し変わった。

「だからやりたい」

あ。これ、駄目なやつだ。本人が一番楽しくなっている。


「一つに考えさせる。別の一つに疑わせる。もう一つに組み直させる。順番を変えたらどうなる。役割を変えたらどうなる。同じ問いを三つに与えて、違う答えが出たとき、なぜ違うのか調べる。それぞれが得意なものを組み合わせれば、一つだけでは出せないものが作れるかもしれない」


止まらない。


「それに、俺にはこの国の知識がない」

「まあね」

「だから普通の人間なら知っていることまで聞く必要がある。言葉、歴史、制度、科学、文化。だが、それだけではない」

「まだあるの?」

「ある」

あるらしい。


「俺の世界と、こちらの世界は違う」

ルイは言った。


「違うものと、同じものがある。なぜ同じなのか。なぜ違うのか。こちらにあって、向こうになかったもの。向こうにあって、こちらにないもの。それを調べたい」


「全部?」

「ああ」

「無理でしょ」

「なぜだ」

「全部だから」

「では、できるところまでやる」

あっさり言った。


「俺一人では一生かかっても無理だ。だが、こいつらを使えば、できることが増える」

ChatGPT。

Gemini。

Claude。

三つの名前を並べる。

ルイは完全にその気だった。


言っていることは分かった。

ものすごく分かった。ルイが何をしたいのかも分かった。たぶん、三つ使ったら、この人はとんでもない勢いで、この世界を吸収していく。そこまで全部分かったところで、私は聞いた。


「それ、私に何のメリットがあるの?」

ルイが止まった。


「…………」

初めて止まった。


「私がお金払うんだよね?」

「ああ」

「ルイが使いたいのは、すごく分かった」


黙った。考えている。


「ないんだ」

「待て」

「ないじゃん」

「ある」

「何」


「お前は、すぐ知らないと言う」

「は?」

「俺が何か聞くと、知らない、と言う」

「知らないものは知らないでしょ」

「昨日も言った」

「何を」

「なぜ大さじは小さじの三倍なのか」

「知らないよ」

「ほら」

「それ、知ってどうするの?」

「一昨日は、なぜ朝のドラマは十五分なのか」

「知らない」

「髭はなぜ生える」

「知らない」

「なぜ女の下着を畳むと怒られる」

「それはどうでもいい!」


ルイは少し考えた。


「俺には、この世界のことが分からない。だから何でも疑問に思う。だが、お前は慣れすぎている」

「慣れすぎてる?」

「ああ。すぐ、そういうものだ、と言う」

「だって、そういうものだから」

「なぜそうなのか。いつからそうなのか。他のやり方はないのか」

「そんなの全部調べてたら、一日終わるよ」

「だから俺がやる」

「何を」

「お前が、そういうものだと思っていることを」

「……別に知りたくないけど」

「構わない。俺が知りたい」


なんだそれ。


「調べて、俺が知る」

ルイは言った。

「お前に伝える。そこから判断するのはお前だ」

私は黙った。


「知った上で、いらないと思えば捨てればいい。今までと同じでいいと思えば、そうすればいい」

「…………」

「だが、知らなければ選べない」

ずるい。なんか、ずるい。そして、猛烈に悔しい。


「バカにしてんの?」

「事実を言っただけだ」

「そういうとこ」

「何がだ」

「なんでもない」


私はタブレットを見る。

ChatGPT。

Gemini。

Claude。

三つもいる?

いらない。絶対いらない。


でも。


「……ひとまず一つね」


「何?」

「どっちか一つ。課金していいよ」

ルイの顔が変わった。

「本当か」

「ひとまず、だからね」

「ああ」

「両方じゃないからね」

「ああ」


絶対、両方欲しい顔をしている。


「どちらにする」

「私に聞かないでください。ルイが使うんでしょ」

「ああ」

もう比較を始めている。さっきまで私を説得していた男が、今度はどちらに金を払うべきか真剣に調べ始めた。私はその横顔を見ながら、少しだけ笑った。


たぶん。面倒なものを与えてしまった。

毎日21:10更新予定です

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