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異世界王子の居候生活  作者: 鼎


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5/20

5

翌朝。静かだった。時計を見る。七時十二分。今日はまだミョー、ミョーもない。


起きて顔を洗い、台所へ行く。


誰もいない。昨日あれだけパソコンにかじりついていたから、さすがに寝坊したのかもしれない。


冷蔵庫から麦茶を出して、一杯飲む。

猫の餌をやる。水を換える。洗濯機をまわす。畑に水やりに行く。洗濯が終わったので干す。


それでも来ない。


八時半。


「……寝てるのかな」

離れへ行った。縁側にもいない。


「ルイ?」

返事がない。


「入りますよ」

襖を開けた。布団の中にいた。


「珍しいですね」

近づく。


「ルイ?」

「……う」

なんかおかしい。


布団から顔だけ出している。真っ赤だ。


「え」

しゃがんで顔を見る。


「大丈夫ですか?」

「……うるさい」


額に手を当てる。熱い。


「熱あるじゃん」

あわてて体温計を持ってきた。


「これ、脇に挟んでください」

「……なんだ」

「体温計です」

「たい……」

「いいから」

脇に入れる。しばらくして音が鳴った。


三十八度一分。

「おおー」

ちゃんと熱がある。

「人間なんですね」

「……何だと」

「いや、なんでもないです」

王子でも異世界人でも熱は出るらしい。


「昨日、何時までやってたんですか?」

「何を」

「パソコン」


ルイは目を閉じた。

「……知らん」

「知らん?」

「気づいたら……外が明るかった」

「朝じゃん」

徹夜じゃん。


「寝てください」

「寝ている」

「そうですね」


私は襖を閉めた。

台所へ戻る。


何か食べさせたほうがいいかな。

そういえばスイカがあった。

小さく切って、皿にのせる。

一緒に麦茶と冷却まくらを持っていく。


「何か食べられそうですか?」

「……いらん」

「スイカ置いておきますね。果物です」

「いらん」


重症だ。昨日まで、食えるのか食えるのかと何でも聞いていたのに。


「何か食べたいものあります?」

ルイが何か言った。


「え?」

「……」

「何です?」


もう一度何か言った。

知らない言葉だった。


「それ、どんな味なんですか?」

返事がない。


「……うーん、分かんないな」

スイカと麦茶を置いた。


冷却まくらをタオルで巻いて、ルイの頭の下に置こうとする。


「頭上げられます?」

「……何をする」

「冷たいの入れます」

「いらん」

「気持ちいいですよ」

「いら――」


頭を少し持ち上げて、枕を退け、冷却まくらを頭の下に置いた。


ルイが黙った。


「どうです?」

「……冷たい」

「ぬるくなったらまた冷たいのに変えますね」


返事はなかった。

猫が部屋に入ってきた。


「今日はそっとしといてあげてね」


猫は縁側のいつもの座布団の上に寝転がった。全然聞いてない。




軽く朝ごはんを食べ、掃除をする。掃除機をかけるのは、離れの近くはやめておいた。


それから薬棚を開けた。風邪薬。解熱剤。

胃薬。湿布。何かよく分からない薬。一通り入っている。

風邪薬を手に取る。裏をみて、戻す。そもそも風邪なのか分からない。


熱があるだけだ。

それに、あいつ、こっちの薬飲んだことあるのかな。本当に異世界人なら、効くのかどうかも分からない。

王子だと言うくらいだから、毒を盛られたりすることもあるのかもしれない。毒への耐性とかあったりして。いや、それと薬は関係あるのか。分からん。


やめよう。とりあえず、水分だ。


財布と車の鍵を持った。


「ちょっと買い物行ってきますね」

離れに声をかけて出かけた。





一人で車に乗る。

静かだ。


信号を曲がる。

静かだ。


コンビニの前を通る。

静かだ。


歩道橋の下を通る。

何も聞かれない。


「…………」


楽。すごく楽。なのに、なんか変な感じ。


スーパーに着いた。

水、スポーツドリンク、飲むゼリー、うどん、卵。ヨーグルトも入れる。プリンも。これは私も食べる。


アイス売り場の前で止まった。

あった。青い袋。ガリボリ君のソーダ味。

一本取った。少し考えて、もう一本取った。





買ったものを冷蔵庫や冷凍庫にしまってから、スポーツドリンクと水、冷たい冷却まくらを持って離れへ行く。


「ルイ?」


寝ている。


朝と同じ格好だった。

スイカを見る。二切れ減っている。食べたんだ。


「起きられます?」

「……う」

「飲み物買ってきました」


冷却まくらを触る。もうぬるい。新しいものと交換する。


ルイがうっすら目を開けた。

「冷たい……」

「はい」


枕元の近く、お盆の上のスポーツドリンクの蓋を開ける。水も開ける。その横にコップを二つ置く。


「こっちが水です。こっちがスポーツドリンクです、甘くて、ちょっとしょっぱいやつ」

「……いらん」

「置いときます」


薬は持ってこなかった。


「じゃあ寝ててください」

部屋を出る。


猫は縁側でまだ寝ていた。猫なりに心配して付き添っているのだろうか、多分違うと思うけど。


十二時半。

見に行く。


水が少し減っていた。スイカは全部なくなっていた。冷却まくらを変える。



二時半。また見に行く。


今度はスポーツドリンクが減っていた。体温を測る。

三十七度八分。


「ちょっと下がりましたね。水分を多めにとってくださいね。何か食べます?」

「いらん」

目を閉じた。



夕方。

米を炊くか迷った。一人なら適当でいい。冷蔵庫を開ける。


うどん。卵。

今日買ってきたものを見る。ルイは何なら食べられるんだろう。お粥かな。うどんでいいかな。でも私は普通のご飯が食べたい。冷蔵庫を開けたまま考えていると、廊下から音がした。


ぺた。

ぺた。


振り返る。

ルイがいた。


柱に手をついている。

髪はぼさぼさ。顔もまだ赤い。Tシャツはよれよれ。


「え。どうしたんですか?」

「……腹が減った」

「えーと、何なら食べられます?」


ルイは少し考えた。

「……肉」

「肉?」

「肉がいい」


食欲あるじゃん。

私は冷蔵庫を閉めた。

毎日21:10更新予定です

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