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異世界王子の居候生活  作者: 鼎


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4/20

4

急須にお湯を注ぐ。少し待って、湯呑みに入れた。一つをルイの前に置く。


「どうぞ」

「ああ」

ルイは画面から目を離さない。私は向かいに座って、自分のお茶を飲んだ。


夕飯を食べたばかりなのに、もうパソコンを開いている。よほど気に入ったらしい。


「ガリボリ君、食べたいんですか?」

「いや」

「そうですか」

カタカタ。

「青いのはソーダ味ですよ」

カタカタ。

「明日買いに行きます?」

「……いや」

絶対食べたいじゃん。


画面を見る。さっきまで青いアイスが表示されていたはずなのに、いつの間にか文字ばかりになっていた。


『日本における人口減少への対策として、現在行われているものを挙げよ』


回答が出る。ルイは上から下まで読む。


「まだそれ調べてるんですか」

「うむ。興味深い」

へえ。

カタカタ。


『これらの政策が十分な効果を上げていない理由は何だ』


回答が出る。次。


『今挙げた理由のうち、政策によって変更できるものと、政策では変更が難しいものを分けよ』


「宿題出してるみたいですね」

「誰に」

「AIに」


ルイは画面を見る。


「こいつは疲れないのか」

「たぶん」


「何度聞いても?」

「たぶん」


「同じことを聞いても?」

「怒らないと思いますよ」


また質問を入れる。


『人口減少を問題としているが、人口が減ることそのものを問題としない立場から反論せよ』


回答が出た。ルイが読む。途中で止まった。


「全部読まないんですか?」

「ここから先は分かる」

「分かるんだ」


すぐ次を打つ。


『人口減少を受け入れた上で、現在の生活水準を維持するには何が必要だ』


回答が出る。最初の数行を読んだところで止め、すぐ次を打つ。


『人口の少ない地域では』


回答。数行読む。すぐ次を打つ。


『行政、医療、教育、商業を一定の地域に集約した場合は』


回答。今度は少し長く読んだ。


「……あるではないか」

「何がです?」

「私が今考えたものだ」


画面を覗く。コンパクトシティ。スマートシティ。知らない言葉がいくつも並んでいる。


「もう誰か考えてたんですね」

ルイが黙った。ちょっと悔しそうだ。


「人が減るのであれば、すべての集落を今までと同じように維持する必要はない」

「はあ」

「住む場所を集める。病院、学校、商店、行政も近くに置く。移動には自動で走る車を使えばよい」

「なるほど」

「農地は機械化する」

「はい」

「必要な場所には人を残す」

「はい」

「なぜやらない」

「私に聞かれても」


ルイはAIに聞いた。

回答が出る。財政。土地。既存のインフラ。住民の合意。地域産業。文化。

いろいろ書いてある。ルイは途中で止めた。


『住民の合意が得られない理由は』


回答。


「住み慣れた土地を離れたくない」

「まあ、そうでしょうね」

「なぜだ」

「なぜって」

「より便利な場所へ移れるのだぞ」

「でも私、おばあちゃんがここから出て街に住むって言われたら嫌かも」

ルイがこちらを見た。

「なぜだ」

「この家、好きだから。帰る場所がなくなっちゃう」

「だが、お前はここに住んでいるわけではないだろう」

「そうですけど」

「ならば――」

「でも嫌なんですよ」

ルイが黙った。

私はお茶を飲んだ。


「お墓とか畑とか、近所の人とか。そういうのもあるんじゃないですか」

「移すことができるものもある」

「まあ、そうですけどね」


ルイは画面に戻った。

カタカタ。


『生活の利便性が向上するにもかかわらず、住民が移住を拒む理由を挙げよ』


回答が出る。読む。今度は最後まで読んだ。


カタカタ。


『今の回答は移住する側から見たものだ。行政側から反論せよ』


回答。読む。


『その反論に住民側から反論せよ』


回答。読む。


『双方の条件を満たす方法は』


回答。途中で止める。


『全員の条件を満たす必要はあるか』


あれ。さっきまでと少し違う。


「何してるんですか?」

「考えている」

「何を?」

「どこまでを残すべきか」

「AIに決めてもらうんですか?」

「なぜこいつに決めさせる。判断するのは私だ」

ルイが不思議そうに私を見た。


「いや、ずっと聞いてるから」

「私が考えたものに、抜けているものがないか見ている」


「ああ」

そういう使い方なのか。

回答が出る。ルイは少し読んで止めた。


『今の回答には経済性しかない。経済性を除いて考えよ』


回答。


『文化的価値も除く』


回答。


『逆だ。文化的価値のみで考えよ』


回答。


『では文化的価値を優先した場合に失うものを挙げよ』


どんどん聞く。回答を読む。止める。

条件を変えて、また聞く。さっき出てきた言葉を別のページで調べる。

戻る。また打つ。


「……喧嘩してるんですか?」

「何が」

「AIと」

「議論している」

「楽しいですか?」


ルイの手が止まった。

「楽しい?」

「ずっとやってるから」

少し考えている。

「分からん」

「分からないんだ」

「だが、興味深い」

そう言って、また画面に戻った。


カタカタカタカタ。

しばらく眺めていた。


最初は、分からないことを聞いていた。

今は違う。何か考えて、それを打つ。返ってきた答えを読んで、また打つ。たまに消す。書き直す。別の方向から聞く。


そのうち、私にはルイが何を話しているのかよく分からなくなった。


『地方の人口を集約することで生じる利益を十年後、三十年後、五十年後に分けよ』


回答。


『三十年後の前提がおかしい。人口構成を――』


止める。書き直す。


『出生率が現在より低下した場合で再計算せよ』


回答。


『逆に上昇した場合は』


回答。


『周辺国から人口が流入した場合』


回答。


『その人口が都市部に集中しなかった場合』


カタカタカタカタ。


「ルイ」

「ああ」

まだ返事はある。


私は二杯目のお茶を入れた。


「どうぞ」

「ああ」

飲まない。画面を見る。

さっきのスマートシティの話はもう終わっていた。人口から労働力へ。労働力から教育へ。教育から税へ。税から農業へ。農業から食料へ。

どこでつながったのか、私には分からない。


「ルイ」

「……」

「ルイ?」


カタカタカタカタ。


返事がなくなった。

私はお茶を飲んだ。もう一度呼ぼうかと思ったけれど、やめた。


時計を見る。結構いい時間だった。


ルイの湯呑みに手を当てる。

ぬるい。

「お茶、冷めますよ」

返事はない。


「私、先にお風呂入りますね」

私が風呂からあがってきても、ルイはさっきと同じ姿勢で食い入るように画面を見つめていた。


カタカタカタカタ。


「先に寝ますね」


カタカタカタカタ。


「……おやすみなさい」

毎日21:10更新予定です

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