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異世界王子の居候生活  作者: 鼎


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何日かして、今度は電車に乗った。

きっかけはルイだった。


「この国の歴史をまとめて見られる場所はないのか」

「博物館?」

「本は読んだ。実物が見たい」


調べてみる。少し遠い。

車でも行けるけれど、電車の方が楽そうだった。


「電車で行こうか」

「いいのか」

「何が?」

「遠いだろう」

「別に。予定ないし」


朝早くから出た。最寄り駅までは車で行って、駅前の駐車場に停めた。


ルイは電車でも忙しかった。

路線図を見る。車内の表示を見る。窓の外を見る。駅に着くたび駅名を読む。


「ずいぶん人が乗るな」

「これでもだいぶ落ち着いてる方だと思うよ。通勤時間はもっとすごいよ」

「毎日か」

「毎日」


昔は私も、その中にいた。


電車が動き出す。

窓の外を建物が流れていった。


博物館は広かった。


想像していたより、ずっと広かった。

そして案の定、ルイは進まなかった。


最初の展示から読む。


「ルイさん」

「なんだ」

「そろそろお昼にしましょうか。戻ってきて、また見よう?」

「ああ」


博物館の中にある食堂で食べることにした。昔通っていた大学の学食みたいに、入り口でトレーを取って、好きな小鉢を取って、食べたいメインを言う。


ルイはメンチカツカレーとポテトサラダ。

私は鯖の味噌煮に、ご飯と味噌汁、切り干し大根とカニカマのサラダにした。


食べ終わって、また展示を見る。


最初は引率者の気分だったけど、だんだん私も面白くなってきた。


「あ、ルイ、これ」


少し先の展示を見つけて呼ぶ。

ルイが来る。


二人で覗き込む。


「これ、さっきのと似てない?」

「時代が違う。こっちの方が――」


説明が始まる。


長い。


でも聞いた。


知らないものがたくさんあった。

知っているつもりだったものも、知らなかった。


夕方、ようやく外へ出た。


「疲れた」

「全部見られなかった」

「また来ればいいじゃん」


言ってから、自分で少し驚いた。


また来ればいい。


そうか。


別に、一日で全部見なくてもいい。





電車で戻ってきたころには、日が傾いていた。駅を出る。


「今日はもう何もしたくない」

「飯はどうする」


どうしようかな、何か買って帰ろうか。


そういえば。駅前に、おじいちゃんが好きだった焼肉屋さんがあったな。


「あのさ、焼肉食べて帰らない?」


ルイが足を止めた。


「焼肉」


「お肉を自分で焼いて食べるの。おじいちゃんが好きだった店が、この辺にあるんだよね」

「自分で焼くのに、店で食うのか」

「そうです」

「それは楽しそうだな」

スマホで調べる。あった。



店は駅前にあった。赤い看板。引き戸を開ける。


「いらっしゃい!」

大きな声が飛んできた。煙と肉の匂い。

壁には手書きのメニューが貼ってある。


カルビ。ハラミ。タン塩。ホルモン。冷麺。石焼ビビンバ。


ああ。お腹が一気に空いてきた。

席に座る。


「何がいいかな〜」


ルイはいつもの通り、メニューを熟読し始めた。横目で見ながら、


「最初は、タンとカルビとハラミにしようか。あとキムチとサンチュ」

「サンチュ?葉っぱか。俺は虫じゃない」

「お肉包んで食べると美味しいよ」


店員さんを呼んだ。


「タン塩と、カルビ、ハラミ。キムチとサンチュ。あとウーロン茶と…ルイ?生ビール飲む?」

「ん?お前は?」

「私は運転するから飲めないけど、ルイは飲んだら?肉にビールは最高だよ」

「お前が飲まないなら……」

「私は気にしないから。生ビールは家で飲む缶ビールより美味しいよ、飲む?」

「う、うむ」

注文を終える。


生ビールとウーロン茶で乾杯する。ルイが目を大きくさせて生ビールを飲む。美味しいんだね、よかった。


肉が来た。まずタン。網に並べる。


じゅう、と音がした。ルイが見る。早く食べたい食べたいと顔に書いてある。気持ちはわかるがしばし待て。


「もういいか」

「まだ」

「もういいんじゃないか」

「んー、そろそろいけるかな」

「よし!!」


ルイが一枚取って、お皿にのせずにそのまま口に運ぶ。

私はお皿にうつして、レモンを少し。


「あつい!!」

ルイが口の中を火傷したらしい。そりゃそうだよ。生ビールを飲む。


「うまい」


もう一枚取る。今度はフーフーしてから食べる。そして生ビールを飲む。


「うまい」

「そんなに?」

「最高だな」


カルビを焼く。脂が落ちて、火が上がった。


「燃えているぞ」

「大丈夫大丈夫。お、そろそろいいかな」


ルイがいそいそと肉を取る。ビールを飲む。私はサンチュに肉を包んで食べる。美味しいなあ。


「肉の油で、ビールがすすむ」

「よかったね」

「肉がうまい」

「さっきからそればっかり」

「肉がうまいから仕方ない」


なんだか面白くなって笑った。


「何がおかしい」

「いや。さっきからうまいしか言ってないし」

「事実だからな」


ご機嫌なルイさんに、生ビールを追加で頼んだ。ご飯も頼んだ。


キムチ。また肉。サンチュにカルビとキムチをのせる。おいしい。


「カルビ追加しようか」

「俺もそう思っていた」


追加した。もう一度ビールも追加した。


「〆に冷麺も食べたいな」

「頼めばいい」

「一人前は食べられない」

「俺が食う」

「じゃあ半分しよう」

冷麺も頼んだ。私は三分の一くらい食べた。残りはルイが食べた。

ビールを飲み終えて、ルイは満足そうに息を吐いた。


「うまくて食べすぎた」

店を出てすぐにルイが言った。

夜の空気が気持ちよかった。

駅前の明かりが、少し滲んで見える。


ルイが隣を歩く。


「楽しいな」


ルイはポロリと出た自分の言葉に、驚いたように足を止める。


「楽しいね」

私は言葉を返す。


ルイは、夜の駅前を見ていた。


赤い看板。

行き交う人。

店から漏れる笑い声。

焼肉の匂い。


「楽しくていいんだよ」


ルイがこっちを見る。


「いいのか」

「いいの」

「そうか」


ルイは少し考えた。


「楽しくていいのか」

「いいんだよ」

「そうか」


もう一度、夜の駅前を見る。


「肉、うまかったな」

「うん」

「ビールもよかった」

「はいはい」


「また来たい」

「また来ればいいじゃん」


ルイが笑った。

「そうだな」


駐車場に着く。


私は鍵を取り出した。車に乗り込む。私は運転席。ルイは助手席。エンジンをかける。


帰りの車の中で、ルイが幸せそうな顔で寝ていた。

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