14
「ミオ」
声がした。私は青い点を見ていた。
「ミオ」
また聞こえた。顔を上げる。いつの間にか、襖の向こうにルイが立っていた。
「……何?」
「昼だ」
時計を見る。十二時を過ぎていた。
「ほんとだ」
色鉛筆を置いた。ルイが机の上を見た。
缶。スケッチブック。色鉛筆。白い紙。
何も言わなかった。
「お昼、何にしようか」
立ち上がろうとすると、
「今日は俺が作る」
「え」
「昼飯だ」
「それは分かるけど」
「クックパッドで見た」
いつの間に。
「ピーマンを使う」
「ピーマン?」
「冷蔵庫に六個ある」
よく把握している。
「ピーマンと卵のおかかチャーハンだ」
なんだそれ。
「おいしいの?」
「知らん」
知らないのか。
「評価は高かった」
「そうですか」
私はもう一度、机を見た。白い紙に、青い点がひとつある。そのままにして、部屋を出た。
台所に行くと、ルイが冷蔵庫からピーマンを出した。
一個。二個。三個。四個。
「多くない?」
「たっぷり、と書いてあった」
ルイはピーマンと私を見比べた。まあいいか。私は椅子に座った。
ルイがピーマンを洗う。縦に切る。
種を取る。細かく刻む。
ずいぶん包丁がうまくなった。
私はそれを見ていた。
ルイは、ピーマンを刻みながら考えていた。
そういえば。
こいつは、よく寝ている。
最初はそういう人間なのだと思っていた。
朝は起きる。飯も食う。買い物にも行く。図書館にも行く。洗濯はやたらとする。
だが、昼間に寝ていることがある。気づけば部屋にいる。何をしているのかと思えば、何もしていないこともある。
この前も、声をかけたのに返事をしなかった。聞こえていないのかと思ってもう一度呼ぶと、
「え?」
と、ずいぶん遅れて顔を上げた。
それに。
なぜ、こいつは毎日ここにいる。
今日は平日だ。昨日も平日だった。
図書館にいた老人たちは、働く者はこの時間にはいないとミオが言っていた。
では。なぜミオはいた。
包丁を動かす。
どこかで見たことがある。
城の中だった。
どこだったか。書類を扱う部署だったと思う。いつ通っても人がいた。
朝も。夜も。
その中に、一人。
いつも机に向かっている男がいた。
書類が積み上がっていた。誰かが次の書類を置く。男はそれを受け取る。また誰かが来る。また受け取る。
一度、ルイが声をかけたことがあった。男は気づかなかった。もう一度呼ぶと、慌てて立ち上がった。そのときの顔を、ふと思い出した。
しばらくして、その男を見なくなった。異動したのかと思った。
それ以上、考えなかった。
包丁が止まった。
「どうしたの?」
ミオが言った。
「いや」
またピーマンを刻む。
まだ分からない。分からないが。
こいつは。
なんか変だ。
「ルイさん」
「なんだ」
「ピーマン、もう粉々です」
手元を見る。
ずいぶん細かくなっていた。
「……問題ない」
「ほんとに?」
「チャーハンだからな」
「そうですか」
フライパンを出す。
火をつける。
今は。飯を作る。




