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異世界王子の居候生活  作者: 鼎


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「ミオ」


声がした。私は青い点を見ていた。


「ミオ」


また聞こえた。顔を上げる。いつの間にか、襖の向こうにルイが立っていた。


「……何?」

「昼だ」


時計を見る。十二時を過ぎていた。


「ほんとだ」


色鉛筆を置いた。ルイが机の上を見た。

缶。スケッチブック。色鉛筆。白い紙。


何も言わなかった。


「お昼、何にしようか」

立ち上がろうとすると、

「今日は俺が作る」


「え」

「昼飯だ」

「それは分かるけど」

「クックパッドで見た」


いつの間に。

「ピーマンを使う」

「ピーマン?」

「冷蔵庫に六個ある」

よく把握している。


「ピーマンと卵のおかかチャーハンだ」

なんだそれ。

「おいしいの?」

「知らん」

知らないのか。


「評価は高かった」

「そうですか」


私はもう一度、机を見た。白い紙に、青い点がひとつある。そのままにして、部屋を出た。


台所に行くと、ルイが冷蔵庫からピーマンを出した。


一個。二個。三個。四個。


「多くない?」

「たっぷり、と書いてあった」

ルイはピーマンと私を見比べた。まあいいか。私は椅子に座った。


ルイがピーマンを洗う。縦に切る。

種を取る。細かく刻む。

ずいぶん包丁がうまくなった。

私はそれを見ていた。




ルイは、ピーマンを刻みながら考えていた。


そういえば。

こいつは、よく寝ている。

最初はそういう人間なのだと思っていた。


朝は起きる。飯も食う。買い物にも行く。図書館にも行く。洗濯はやたらとする。


だが、昼間に寝ていることがある。気づけば部屋にいる。何をしているのかと思えば、何もしていないこともある。

この前も、声をかけたのに返事をしなかった。聞こえていないのかと思ってもう一度呼ぶと、


「え?」

と、ずいぶん遅れて顔を上げた。


それに。

なぜ、こいつは毎日ここにいる。


今日は平日だ。昨日も平日だった。


図書館にいた老人たちは、働く者はこの時間にはいないとミオが言っていた。


では。なぜミオはいた。



包丁を動かす。


どこかで見たことがある。


城の中だった。

どこだったか。書類を扱う部署だったと思う。いつ通っても人がいた。


朝も。夜も。

その中に、一人。

いつも机に向かっている男がいた。

書類が積み上がっていた。誰かが次の書類を置く。男はそれを受け取る。また誰かが来る。また受け取る。


一度、ルイが声をかけたことがあった。男は気づかなかった。もう一度呼ぶと、慌てて立ち上がった。そのときの顔を、ふと思い出した。


しばらくして、その男を見なくなった。異動したのかと思った。

それ以上、考えなかった。



包丁が止まった。


「どうしたの?」

ミオが言った。

「いや」

またピーマンを刻む。

まだ分からない。分からないが。


こいつは。


なんか変だ。


「ルイさん」

「なんだ」

「ピーマン、もう粉々です」


手元を見る。

ずいぶん細かくなっていた。


「……問題ない」

「ほんとに?」

「チャーハンだからな」

「そうですか」


フライパンを出す。

火をつける。


今は。飯を作る。

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