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異世界王子の居候生活  作者: 鼎


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私は洗濯が好きだ。

正確に言うと、洗濯機を回して、干すのが好きだ。シーツ、上掛け、枕カバー、ソファーカバー。洗えるものは、何でも洗う。

天気のいい日に大きなものを洗って、庭いっぱいに干す。ぱりっと乾いたシーツに顔を埋めて、お日様の匂いを感じながら寝る。最高だ。


その日も朝からシーツを洗った。天気予報も晴れだった。


なのに。昼間急に空が暗くなった。

ぽつ、と大きな雨粒が窓を叩いた。


「あ」

次の瞬間には、ざあっと来た。

「うそ!」

庭へ飛び出す。


服や靴下を取り込んでから、シーツを取り込む。大粒の雨が、すでにシーツを盛大に濡らしていた。


慌てて取り込む。びしょびしょだ。

朝、洗ったのになあ、また洗いなおしだな。


ルイが来た。私の頭にタオルを乗せてさっていった。AIとのお付き合いを中断して様子を見にきてくれたらしい。


替えのシーツを探すことにした。

今、私が寝起きしている部屋は、昔からおばあちゃんちの寝起きしている部屋だ。押し入れを開ける。

布団。毛布。座布団。ないなあ。

上の段を探す。


ない。

奥まで手を伸ばす。

何か硬いものに触れた。引っ張り出す。

缶があった。古い、お菓子の缶。花だか果物だかの絵が描いてある。見覚えがある。


なんだっけ。

畳の上に置いて、蓋を開けた。


「…………あ」


紙の人形が出てきた。女の子。

鉛筆で描いて、色鉛筆で塗って、輪郭に沿ってハサミで切ってある。


覚えてる。

私が描いた。

その下から、服が出てきた。

ワンピース。スカート。ブラウス。コート。靴。バッグ。いっぱいある。全部、紙。


「ああ……」

これ。やってた。

人形を描いて、それに着せる服を描いた。

テレビを見ていて、かわいい服が出てくると描いた。雑誌を見ても描いた。気に入った服を見つけると、覚えておいて描いた。

色を塗る。ハサミで切る。人形に重ねる。

似合わなければ、また描く。


次は何を着せよう。どんな色にしよう。

赤いスカート。黄色いワンピース。青いコート。花柄。水玉。リボン。一枚着せるたびに、同じ紙の人形が違って見えた。


世界が鮮やかになる。


そうだ。

これが、ものすごく楽しかった。


一枚取る。次も見る。その次も。

よくこんなに作ったな。


缶の中には、まだいろいろ入っていた。

小さなスケッチブック。短くなった色鉛筆。折り紙。厚紙。シール。何だか分からない工作。おばあちゃんへの手紙もあった。『おばあちゃんへ』読んでみたら、たいしたことは書いていない。遊んでくれてありがとうとか。また来るねとか。


「……こんなのまで」

笑った。捨てといてくれてよかったのに。

何年前だろう。ずっと、ここにあったんだ。


おばあちゃん。


持っていてくれたんだ。

スケッチブックを開いた。花、猫、庭、コップ、おばあちゃん。


次のページには、自分の左手。次も角度の異なる手。


鉛筆。消しゴム。みかん。庭に咲いていた花。台所にあった野菜。なんでも描いている。


そうだった。私、ずっと描いてた。紙があると描いた。


チラシの裏。ノートの隅。電話の横に置いてあったメモ帳。宿題の余白。


鉛筆があれば描いた。消しゴムがあれば、消して、また描いた。


描いて。塗って。切って。また描いた。


一つ思い出すと、次が出てくる。


この部屋でも描いた。縁側でも描いた。おばあちゃんの隣でも描いた。


夏休み。冬休み。雨の日。夜。


いくらでも描いていた。よく飽きなかったな。


ページをめくる。まためくる。こんなにあったんだ。こんなに描いてたんだ。


なのに。


次のページに指をかけて、止まった。


「…………」


急に、胸が苦しくなった。なんで。


この缶に入っているのは、楽しかったものばかりだ。なのに、苦しい。スケッチブックを閉じた。


机の上に置く。缶の中には、色鉛筆がある。赤。青。黄色。緑。短くなったものばかり。


手を伸ばして、指が途中で止まった。


「……シーツ」


そうだ。


シーツを探していたんだった。


押し入れに戻る。反対側を探す。

探していたよりずっと手前に、替えのシーツがあった。探し物は意外と手前の方が見つからない。引っ張り出す。これでいい。


立ち上がった。机を見る。古いお菓子の缶。


片づけようと思った。元の場所に戻せばいい。でも、戻せなかった。缶は開けたまま、机の上に置いた。


シーツを布団の上に置いて部屋を出た。

毎日21:10更新予定です

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