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勇者のくせに転生したら青スライムだったのですが、なにか?【全年齢版】  作者: ひぽぽたます


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第14話 救援

 ギルドマスターは勇者の居室に入った。主のいない部屋は妙に静かで、寝具も出発前のまま乱れている。


「勇者……」


 視線を巡らせるうち、胸の奥に重たい感情が湧いた。長い年月を共に戦ってきた相手への敬意だけではない。自分でも扱いに困るほど強い執着が、確かにそこにあった。


「まったく。いい歳をして、何を考えているんだ俺は」


 苦笑しながら踵を返しかけた、その時だった。窓の隙間から一枚の形代が飛び込んでくる。人の形を模した紙片は空中で止まり、陰陽師の声を発した。


「緊急連絡。採掘場奥にてキノコ型の敵と遭遇。勇者、陰陽師ともに戦闘不能……」


 報告が終わると、形代は燃え尽きて灰になった。


 ギルドマスターの表情から迷いが消える。


「くそっ……!」


 彼は部屋を飛び出し、採掘場へ向かうための装備を掴んだ。


◇ ◇ ◇


 気が付くと、俺と半獣人の少女は、既視感のある場所にいた。しかし、周囲の空気は重く湿り、どこからか漂ってくる白い霧のような物で視界が遮られている。暗い洞窟の壁には、キノコがびっしりと生えている。


「ここは……採掘場?」


 半獣人の少女が困惑した様子で言う。俺も同じ気持ちだった。確か俺たちは、魔族領内で転移装置を調べていたはずだ。おそらく半獣人の少女が誤った操作をしてしまったのだろう。


「私たちの採掘場だよね? 少し様子が違うけど……」


 半獣人の少女は恐る恐る周囲を見渡す。おそらく通い慣れた採掘場で合っているはずだが、周囲の様子はおかしい。魔力の流れが乱れているような感覚もある。この違和感の正体は何だろうか?


「青いの 何かわかる?」


 意識を洞窟の奥に集中する。弱々しいが、魔力の波動を感じる。この波動は……


◇ ◇ ◇


「勇者さん 陰陽師さん 大丈夫?」


 勇者と……見慣れない服装をした女性が倒れている。彼女がギルドの陰陽師だろう。体中にキノコが生えており、半獣人の少女が呼び掛けても反応はない。


「どうしよう?」


 俺は勇者と陰陽師を交互に観察する。彼女らは魔力が枯渇し、動くことができない状態だ。二人の体に生えたキノコは、魔力を吸い上げて成長している。このまま放置すれば命に関わる。だが、俺たちは魔力回復アイテムなんて持っていない。


「助ける方法はないの?」


 半獣人の少女が尋ねる。俺にもどうすればよいか分からないが、とりあえず、このキノコをなんとかしなければならないだろう。


 俺は倒れている勇者の体に乗り、体に生えているキノコを一つずつ引き千切っていく。


「キノコを抜いてるの? わかった 私も手伝うよ」


 半獣人の少女は、陰陽師の服をはだけさせ、体に生えたキノコを引き千切っていく。俺も勇者の体を這い、彼女の体に生えているキノコを千切った。すると、二人は少しずつ意識を取り戻していくように思えた。


「ん……」


 陰陽師が薄っすらと目を開け、困惑しながら辺りを見回す。意識は朦朧としているようで、視線が定まっていない。どうやらまだ回復したわけではないらしい。菌糸は彼女の体に深く根付いており、魔力と体力を吸い続けているようだ。


「私は……どうなって……」


「陰陽師さん……良かった 気が付いたんだ」


 半獣人の少女は陰陽師の手をそっと握った。陰陽師は状況を飲み込めない様子で辺りを見回すが、その姿は力ない。


「キノコは……?」


「できるだけ取ったけど まだ残ってると思う」


「いえ…… キノコの魔物です……」


「キノコの魔物?」


 そのとき、洞窟の奥から、ぬるりとした気配が近づいてきた。空気が変わった。白い胞子が、誰かに押し出されるようにゆっくり揺れる。岩壁に張りついていた菌糸が、細い指のようにうごめいた。


 俺は反射的に体を縮めた。来る。この感覚は、ただの魔物ではない。ゲジゲジとも、ニワトリとも、魔王とも違う。魔力の流れがあるのに、水の中に油が浮かんでいるような、触れ合っているのに混ざらない気持ち悪さがあった。


「……青いの?」


 半獣人の少女が、俺の震えに気づいた。俺は勇者の体から離れ、少女の足元まで跳ねた。逃げろと伝えたい。だが、ここには倒れた陰陽師と勇者もいる。半獣人の少女もそれを分かっているのか、動かなかった。やがて、胞子の向こうから二つの影が現れた。


 一つは、淡い色の傘を持つ長身のキノコ。もう一つは、赤い傘に白い斑点を散らした毒々しいキノコ。柄の中心には、一つ目の瞳が開いていた。


「エリンギくん あの人たち まだ動いてるよ」


 赤いキノコが言った。声は妙に明るい。だが、その明るさがかえって不気味だった。


「本当だね まだマナが残ってるのかな?」


 淡い色のキノコ――エリンギが、勇者と陰陽師の方を見て言った。マナ? 魔力のことだろうか。


「二人とも すごかったよね たくさんマナ取れたもん」


 やはり、このキノコたちが勇者と陰陽師から魔力を吸い取ったのだろう。半獣人の少女の表情が強張った。


「お前たちが 二人をこんな風にしたのか?」


「こんな風?」


 エリンギは首を傾げた。


「寝てもらっただけだよ 暴れると危ないから」


「そうそう この星の生き物は起きていると やたら動くし よく鳴くし すぐに怒る 寝ていれば静かだし みんな優しくなる」


 エリンギとベニテングダケは、無邪気に笑った。その口調に悪意はない。まるで今日の天気や料理の感想でも語るかのように自然だった。


「お前たちは 何者だ?」


 半獣人の少女が尋ねる。その声はかすかに震えているが、強い意思を感じさせるものだった。


「僕たちはキノコ星人だよ 君は?」


 エリンギが答えた。その口調には、敵意や警戒心は感じられない。ただ純粋な好奇心だけがあった。


「私は……半獣人だ」


 半獣人の少女は戸惑いながら答えた。エリンギとベニテングダケは、彼女の言葉に興味を持ったようだった。


「半獣人? 変な名前だね」


「でも 可愛いね 耳がぴょこぴょこ動いてるもん」


 エリンギは興味深そうに彼女を見つめた。ベニテングダケも興味津々といった様子だ。半獣人の少女は警戒して、少し後ずさった。


「お前たちの目的は何だ?」


「目的?うーん……そうだなぁ たぶん 君たちや他の生物たちと同じだと思うよ」


 エリンギは、少し考えてから答えた。ベニテングダケも頷いている。


「でも さっきも話したんだけど 君たちには 話が通じないし 聞きたくないみたいだから もう寝てもらうことにしたよ」


「そうだね」


 エリンギとベニテングダケは、顔を見合わせ、同時に頷いた。そして、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。その目に苛立ちや怒りはない。ただ純粋な疑問があるだけだ。まるで悪意がなく、無邪気な子供が虫を踏み潰そうとするかのようだ。俺たちは思わず後ずさった。


「うわっ! く 来るな!」


 半獣人の少女が叫ぶ。だが、エリンギとベニテングダケは意に介さない。そのままゆっくりと近づいてくる。エリンギの腕が、ぬるりと伸びてくる。それは人の腕のようでいて、関節の動きが少し違っていた。肘が曲がるのではなく、茎そのものがしなる。指先のようなものが、半獣人の少女の肩へ向かってくる。


 逃げようとするが動けない。いつの間にか、足首に白い菌糸が絡みついていた。


「……っ!」


 彼女の喉から、声にならない息が漏れた。俺は考えるより先に跳ねていた。何ができる。何ができるんだ、今の俺に。分からない。だが、目の前で彼女が襲われるのを、ただ見ていることだけはできなかった。俺は全身を限界まで縮め、一気に跳ねる。


 青い体が、エリンギの腕にぶつかった。べちゃり、と情けない音がした。それだけだった。まるで気にした様子もなく、エリンギの腕はそのまま半獣人の少女へ伸びていく。


 俺は地面に落ちると、すぐにもう一度跳ねようとした。だが、足元から伸びてきた白い菌糸が俺の体に絡みつく。気持ち悪い感触だった。体の表面を探られているような、内側にある何かを吸い出されそうな感覚。


 エリンギの指先が、半獣人の少女の肩に触れる。


「やっ……!」


 少女が小さく声を漏らす。エリンギの指先から細い菌糸が伸び、服の上を這うように広がっていく。少女はそれを払いのけようとしたが、エリンギの腕は容易に彼女の腕を掴む。そのまま、ゆっくりと服を剥いでいく。少女はその手から逃れようとするが、エリンギの力には敵わないようだ。


「離せっ……!」


 半獣人の少女は苦痛の表情を浮かべる。彼女の顔をエリンギの腕が押さえ込み、口を開かせる。


「あがっ……!」


 その時だった。


 岩壁が轟音とともに砕け散った。白い胞子と土煙が一気に広がり、辺りの視界を奪う。エリンギとベニテングダケは、何が起きたのか分からずに動きを止めた。何かが、土煙の中からこちらへ向かってきている。


「なんだ?」


 エリンギが驚きの声を上げる。ベニテングダケも目を丸くしていた。土煙が徐々に薄れていくにつれて、その姿が浮かび上がってきた。上半身は重厚な金属鎧。下半身は、相変わらずどうかしている。


「ギルドマスター!」


 半獣人の少女が安堵と喜びが入り混じった声を上げる。エリンギとベニテングダケは、ギルドマスターを凝視していた。


「どうしてここに?」


「君の方こそ 何故ここにいる 立ち入り禁止のはずだぞ」


「色々あって……」


 半獣人の少女は慌てて状況を説明しようとするが、うまく言葉が出てこない。ギルドマスターは彼女の代わりにキノコ星人へ視線を向ける。


「まあ 今はそれどころじゃないな」


「うん 後で詳しく話すよ」

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