第5話「あなただから、隣にいてほしい」
屋敷に花束が届いたのは、あの夜から五日後のことだった。
差出人の名を見た瞬間、胸が静かに跳ねた。
封を開けると、几帳面な筆跡で一枚の手紙が入っていた。季節が変わるたびに届いた、あの手紙と同じ筆跡だった。
――フィオナ様。改めて、正式にお伝えしたいことがあります。
――俺があなたを想ってきたのは、加護のためではありません。あなたが感情を押し殺しながらも、誰かのために動き続けていたから。誰にも気づかれなくても、正しいと思うことを選び続けていたから。そういうあなたに、ずっと前から惹かれていました。
――辺境は、瘴気と魔獣に囲まれた厳しい土地です。それでも、あなたさえ隣にいてくれるなら、俺はどんな夜も越えていける気がします。
――あなただから、隣にいてほしい。
私はしばらく、その紙を眺めていた。
加護のためではない、と書いてあった。あなただから、と書いてあった。その言葉が、胸の奥に静かに沁みていく。
信じていいのかと問う自分が、まだそこにいた。二十年間、誰かに期待するたびに裏切られてきた。家族にも、婚約者にも。だから今も、どこかで構えていた。これもいつか、条件付きの優しさだったと分かる日が来るのではないかと。
でも、この人の手紙はいつも同じだった。加護の話を、一度もしなかった。私の体調を、私の言葉を、私のことだけを気にかけていた。季節が変わるたびに、それは変わらなかった。
もう信じていい、と知っている自分も、同時にそこにいた。
私は返事を書いた。短く、一行だけ。
――喜んで。




