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ドリーマー  作者: 滝本泉
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88/89

88 2人の場合、続き

 留学の準備などで忙しい日々を送っていると、あっという間に卒業式の日になった。久しぶりに教室にクラスメートが集まる様子を見ていると、想像していたよりも感慨深かった。梓は矢崎と楽しそうに話していて、俺はその様子を自分の席から見つめていた。

「...また、見つめてるの?飽きない?」

海斗が笑いながら声をかけてきた。

「制服姿を見られるのはこれで最後だから、目に焼き付けておこうかと思って。久々に見るとよく似合ってて可愛いなって。」

俺が真顔で言うと、海斗は呆れたように笑ってた。

「なんで彼氏なのにそんなストーカーみたいな感じなの?あとで一緒に写真でも撮ったら?」

「そうするよ。」


卒業式が始まる前に、トイレに向かい、用を足してから手を洗っていると、隣に誰かが来て、声をかけられた。

「こんにちは。」

声の主を見ると、なんと、浪川だった。

「...どうも。」

驚いて、一瞬詰まってしまったが、なんとか言葉を絞り出した。そんな俺の様子を見た浪川が、笑い出した。

「ちょっと、驚き過ぎでしょ。お化け見たみたいな反応しないでよ。」

「いや、まさか、話しかけられると思ってなかったから...。」

俺は話しながらしどろもどろになってしまった。梓のことを好きなライバルと認識してたので、敵対心しかなくて、今まで浪川としっかりと話したことはなかった。

「アメリカ留学するんでしょ?すごいね。思い切りが。」

「...まぁ、目標を叶えるためから。」

「笹井のそういうところが好きなんだろうねー、あずちゃんは。」

梓の名前が出たので、俺は浪川の顔を見てしまった。俺の視線に気づいた浪川は、

「あぁ、大丈夫。俺、告白して、しっかり振られてるから。それに、今、付き合ってるんでしょ?あずちゃんと。」

梓と浪川の間に何があったかは、考えないようにしていた、結果的に俺を選んでくれたんだから、浪川に嫉妬したくなかった。

そうか、梓に告白してたのか。正直すごくモヤモヤする。でも、断って俺と付き合っているんだから、気にしすぎるのも良くないと思うし。

そんなことを考えていて、しばらく黙っていたら、

「あれ?付き合ってないの?俺、まだチャンスある?」

と聞かれ、

「いや!付き合ってるから!俺の彼女だから、絶対ダメだよ。」

大声で返してしまった。俺の慌てた様子を見た浪川は笑っていた。

「いや、焦りすぎでしょ。彼氏なのに余裕ないんじゃない?」

コイツ、反応がいちいち腹立つな。

「...余裕なんてないよ、お前みたいに、梓のこと好きになるやつが、いつ出てくるか分からないんだから。」

そう答えると、浪川はなんだか余裕そうな笑顔を見せていた。もしかして、コイツ、まだ梓のことを好きなんじゃないか?

俺は牽制も込めて宣言することにした。

「...でも、梓を好きな気持ちは誰にも負けないから。絶対に。誰にも渡さない。」

そう言って俺が睨むと、浪川は一瞬真剣な表情をした後に、また笑顔に戻った。

「アメリカにいるのに?離れてるのに、できるの?」

「...変なやつが近づいてきたら、速攻帰国する。」

梓には言っていないけど、ダンススタジオのトレーナーとしてもらっていたバイト代はしっかり貯めていた。緊急事態があれば、飛行機代くらいにはなるはずだ。

「俺は、梓のこと絶対に離さないし、諦めないから。」

俺がそう凄むと、浪川は少しだけ感心したように俺のことを見ていた。

「笹井があずちゃんをとーーっても好きなのはよく分かった。」

「...そうだよ。大好きだよ。」

「えー、誰が好きかを言わずに大好きだけ言うと、まるで俺が告白されてるみたいじゃん。」

「んなわけないだろ。からかうな。気持ち悪い。」

そんなやりとりをして、また浪川は笑っていた。

しばらくして黙ると、

「あずちゃんとお幸せに。」

そう言って少し悲しそうな笑顔を見せた。

「...絶対に幸せにするから。」

俺が真顔で言うと、彼はニコッと笑った。

「あー、でも久しぶりに見たあずちゃん、髪の毛伸びてて、大人っぽくて、さらに可愛くなってたなー。写真一緒に撮ってもらおうかなー。」

浪川がふざけたことを言ったので、

「良いわけないだろ。絶対ダメ。梓に近づくな。」

そう釘を刺した。

「えーケチだな...まぁ良いよ。文化祭のアリス姿で我慢する。」

そう返され、

「今すぐその写真を消せ!」

俺はまた大声を出す羽目になった。


 「ことちゃん、本当に合格おめでとう!」

「ありがとう!卒業式前に結果が出て良かったよー。モヤモヤしたまま卒業式やるのは嫌だったから、本当に安心した。」

昨日、前期試験の結果が発表され、ことちゃんは無事Y大学の薬学部に合格していた。

「同じ市内だし、これからもちょくちょく遊ぼうね。あずにゃん。」

「うん。これからもよろしくお願いします。」

今後も、ことちゃんと仲良くできそうで、私は嬉しかった。


 卒業式が始まると、この学校に入学してからのことが、蘇ってきた。最初の頃はまだ、宝塚音楽学校の受験に失敗したことを引きずって、落ち込んでいて、そこからの高校生活に希望を見出せなかった。

でも、医師になると言う新しい目標ができて、毎日死に物狂いで勉強して、成績を維持するのは大変だったけど、そのおかげで、医学部に入ることもできた。

何より、そんな私の頑張っている姿を見て好きになってくれた人がいた。

私は自分よりも前に並ぶ、陽介君の後ろ姿を見つめた。

後ろ姿を見るだけで、胸が苦しくなるくらい、好きな人に出会えて、その人に好きになってもらえて、今、一緒にいられることは、とても幸運だ。

この気持ちを私はずっと忘れずにいたいと思った。


 卒業式が終わり、私はことちゃんに連れられて、陽介君と林君の元に向かった。ことちゃんは陽介君に近づくと、彼の右腕を軽く殴っていた。

「何?いきなり、」

陽介君が驚いていると、

「あずにゃんを返せ。」

ことちゃんはふざけて陽介君に凄んでいた。

「なんだよそれ。」

陽介君が呆れたように言うと、

「付き合えたからって調子に乗らないでね?

あずにゃんを不幸にしたら本当に許さないから。呪うから。」

ことちゃんはジト目で陽介君を見ながら低い声で話していた。そう言われた陽介君は、私のことをじっと見た。

「絶対幸せにする。それは約束する。」

真顔でそう言われ、私はまた顔が真っ赤になった。

「ちょっと、さすがに見せつけすぎだよ。」

林君がそうツッコミを入れて、笑っていた。

「はいはい、そんなことより4人で写真撮ろう。ほら寄って。」

「そもそも、矢崎が変なこと言うからだろ。」

そんなやりとりをしながら、4人で写真を撮った。

撮り終わった後、陽介君に、

「梓、2人で撮ろう。」

と声をかけられたので、陽介君と並んで写真を撮った。よく考えてみると、ツーショットを撮ったのは初めてだった。

画面に映る私たちの姿を愛おしそうに見つめる陽介君を見て、私はまた胸が苦しくなった。

「梓、一緒に帰ろう。送るよ。」

「うん。」


 高校からの帰り道を陽介君と手を繋いで歩きながら、初めて一緒に帰った日のことを思い出していた。

「初めて、陽介君に家まで送ってもらった時のこと思い出した。懐かしい。なんか、陽介君から、私が話す前のイメージと違うって言われた覚えがある。」

朧げな記憶で、陽介君は目つきが悪く見えたけど、見上げると大きな瞳で、そこまで怖くないと思った気がする。

「あの日のことは多分、俺、一生忘れない。一目惚れして、ずっと憧れてた人と、初めて話せた日だから。顔は認識されてなくて、悲しかったけど。」

「ごめん。陽介君に言われて、いかに自分が周りのこと全然見えてなかったかが分かった。これからは気をつけます。」

「...変なやつに好かれないように気をつけてね。それが1番心配。」

そう言うと、陽介君は苦笑いしながら、私を見ていた。

「...大丈夫。私が好きなのは陽介君だけだから。」

そう返すと、溶けるような優しい笑顔を見せてくれた。

私は、彼をまた愛おしく思った。

「...明日の誕生日、何したい?前に聞いた時、もう少し考えるって言ってたままだったから。陽介君の希望を聞きたい。」

陽介君に聞くと、彼はしばらく黙っていた。そして、意を決したように口を開いた。

「この前のバレンタインデーのクッキーがすごく美味しかったから、また食べたい。あと、梓が嫌じゃなければ...明日、俺の家来ない?...両親いないんだけど。」

陽介君にまっすぐに見つめられながら、そう言われて、心臓が跳ねる音がした。

彼は少し不安そうな表情をしていた。

きっと、あの時のことを気にしてるんだろう。

私の中で、彼と、先に進みたいかは決めかねていたけど、少しでも長く彼のそばにいたかった。

「うん。お邪魔させてもらうね。クッキー気に入ってもらえて良かった。頑張って作る。」

そう答えると、彼はほっとしたような表情を浮かべていた。


 


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