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ドリーマー  作者: 滝本泉
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87/89

87 2人の場合、続き

 「合格おめでとう。」

「ありがとう。受験勉強長かったー。これでやっと安心できた。」

海斗から、大学に無事合格したと連絡が来たので、久しぶりに俺の家で会っていた。

「第一志望受かったんでしょ?すごいじゃん。」

海斗は東京の私立大学の建築学科に合格していた。

「まぁ、頑張ったからねー。矢崎と一緒に、集中力が切れないように見張り合いながら、ひたすら勉強してたし。」

海斗と矢崎は、はたから見ると付き合っているのだろうと思うくらい、一緒に時間を過ごしていたけど、本人たちが恋人同士であることを否定しているので、それ以上は突っ込まないようにしていた。2人が付き合っていようといなかろうと、部外者には関係のない話だ。

本人たちが幸せそうならそれでいいのだから。

「矢崎は薬学部だよね?国立だから、前期試験は終わってるんだっけ?」

矢崎はY大学の薬学部志望で、確か昨日か一昨日前期試験のはずだった。

「うん。昨日、終わったって。俺の合格祝いと、矢崎の合格前祝いで、この後、会う予定。そして、今、矢崎は山下さんと会っている。」

思いがけず、梓の名前が出てドキッとした。

付き合い始めたのは、海斗と矢崎がまだ試験勉強に励んでいた頃だったので、邪魔をしたくなくて、付き合った報告はしていなかった。

2人には散々、背中を押してもらったので、きちんと伝えなければいけないとは思っていた。

「あのさ、報告が遅くなったけど...」

俺は背筋を伸ばして深呼吸をした。

「今、梓と付き合ってる。矢崎と海斗には、助けられたから。ちゃんと伝えたいと思って。色々ありがとうございました。」

俺がそう言って頭を下げると、海斗はとても嬉しそうだった。

「良かったー。おめでとう。まぁ、2人の様子を見てて、きっと大丈夫だろうと思っていたけど、1年生の時から陽介を見ていた身としては、感慨深いなー。矢崎もたぶん山下さんから報告受けてるんだろうなー。」

梓が恥ずかしそうに矢崎に報告する姿が目に浮かび、思わずにやけた。想像の中でも梓は可愛い。

「まぁ、今日会った瞬間から幸せオーラ全開だったから、すぐ分かったけどね。陽介ずっと浮かれすぎ。表情緩みっぱなしで。」

そんなにニヤけてたのか。

俺も大概、表情が顔に出るタイプだ。

「...3年近く、ずっと片思いしてた相手と付き合えたら、そうなるよ。浮かれてるのは自分でも自覚してる。」

海斗に言いながら顔が赤くなった気がする。

「へー、開き直るねぇ。ほら、惚気ても良いんだよ?今日は許す。」

海斗がニヤニヤしながら聞いてきた。

でも、前とは違って、俺は梓に関してはリミッターが外れている状態なので、堂々と言おうと思った。

「とにかく、梓は可愛い。本当に可愛い。まずそのままでも十分可愛いんだけど、最近メイクも頑張ってくれてて、それがすごい似合ってる。今、髪の毛伸ばして色々ヘアアレンジしてるんだけど、ショートとはまた違った可愛さがあって、とても良い。いつもワンピース着てるんだけど、それがまた似合いすぎてて、もうすごい。俺と会うたびに頑張ってオシャレしてくれる努力への愛おしさも含めて、とんでもない破壊力の可愛さです。」

俺が一息で言うと、海斗は目を丸くした後に、大笑いしていた。

「いや!すごいな!何回可愛いって言うの?そして全く動じずに話してるのがすごい。そんな顔で言われたら、内容は惚気なのにプレゼン聞いてるみたい。すごいね。」

海斗は驚きながら笑っていた。

「山下さんの話振るだけで、赤くなってた頃の陽介が懐かしいくらいだよー。」

「...梓にも直接話したけど、なんか、梓に関しての俺の中のリミッターが外れてて、可愛いのはもう事実なんだから、いくらでも言って良いかなって思ってる。」

「なるほどねー。山下さんに、可愛いって言うと、どんな反応されるの?」

「ほぼ100%赤くなってる。それがまた可愛い。むしろそれが見たくて言ってるのもある。」

俺がそう言うと、海斗はまた1人で大笑いしていた。

「いやー、すごいなー。とにかく可愛くて仕方ないってことね。良いことだ。うんうん。」

「この前も一緒に動物園に行ったんだけど、梓が動物に対して、可愛いって言うたびに、”梓の方が可愛い”って言い続けてたら、ずっと顔が真っ赤で、最終的に、”お願いだからもうやめて”って言われた。それも可愛かった。」

デートの終盤、おそらく恥ずかしさで、顔を上げられなくなっていた梓の顔を覗き込んだら、”ここまで言うのはもう意地悪すぎる”と真っ赤な顔で言われて、それはもうたまらない可愛さだった。

「いやー、山下さん大変だ。陽介はだいぶ重いぞ。」

「俺も我ながら重いと思うから、それも本人に伝えた。」

そう言うと、海斗はまた笑っていた。

「...それに、すごい優しくて思いやりがある。」

以前、海斗には、俺に病気で亡くなった弟がいて、母さんが弟の闘病記の執筆や講演会活動をしている話はしたことがあった。

梓が母さんの書いた闘病記をわざわざ買って読んでくれて、俺の家に行った時に真っ先に弟に線香を上げてくれて、弟が大好きで名付けたペンギンのキーホルダーをお土産として買ってくれた話をした。

「...それに、大介のこと、絶対に過去形で話さなかったんだよ。過去形で言われるのが、今はもういないことを、思い知らせれて悲しいって母さんが本に書いてたから、気をつけてくれたらしい。...俺だけじゃなくて、俺の家族まで大事にしてくれて、感動したよ、もう。」

俺が話す姿を海斗は優しく見守ってくれた。

「山下さん、本当に優しいね。それはグッとくるのも分かる。自分の家族のこと大事にしてくれるのって、嬉しいよね。」

「...だから、もう、俺が梓のことを好き過ぎて、苦しいくらいで。気持ちが大きくなり過ぎて、それを梓にぶつけてしまいそうになるっていうか...。一回、理性が消えかけて、怖がらせちゃって。罪悪感で死にそうになった。」

梓が俺の部屋に来てくれた時、気持ちが爆発して、一瞬、タカが外れてしまった。梓は明らかに怯えていた。彼女の同意を得ないで、関係を進めようとしてしまったことへの自己嫌悪でしばらく眠れなかった。

「...いつか、襲っちゃいそうで怖い。自分が。」

俺が俯いて話す様子を海斗は見守っていた。

「...でも、踏みとどまったんでしょ?」

「うん、それに、梓に謝ったら、気にしないで、怒ってないって言われた。でも...ダメだな俺。反省してる。」

その日以降、梓と2人で会うときは、密室は避けている。自分の理性を信用できなくなってしまった。

「...難しいけどさ、陽介、もうアメリカに行くから、そばにいられなくなるって思っちゃうのもあるんじゃない?やっぱり...そういう結びつきみたいなものが欲しいって考えちゃうのも、仕方ない面はあると思うよ。気持ちだけで乗り越えるには、遠すぎる距離だし。」

俺はあと2週間もせずに、梓と離れることになる。

自分の夢を叶えるためとはいえ、彼女と離れるのは、今の俺にとってはとても辛かった。

こんなに、苦しくなるほど、好きになるなんて。

俺が考え込んでいる様子を見た海斗は、俺の背中を軽く叩いた。

「とにかく、思ってることは全部話したほうが良いと思うよ。相手を傷つけたくなくて、色々飲み込んでたら、そのうちギクシャクしちゃうから。...陽介と山下さんなら大丈夫だよ。2人とも素直でまっすぐだから。」

ずっと俺たちを見守ってくれた海斗に言われて、少しだけホッとした。


 「ことちゃん、勉強、お疲れ様。」

「ありがとー、割と手応えあったし、さすがにもう疲れちゃったから、結果出るまでは勉強しない。落ちたら、そのとき気合い入れ直して、後期試験頑張る。」

昨日、ことちゃんが試験が終わったと連絡をくれたので、私の合格祝いと彼女の合格前祝いとして、私の家に遊びに来てもらっていた。

「あずにゃん、合格おめでとう。直接言うのが遅くなっちゃってごめんね。本当にすごいと思う。お疲れ様。」

「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。」

ずっと私が勉強している姿を見守ってくれたことちゃんには、合格したことは報告していたけど、直接会えたのは今日が初めてだったので、お祝いをされて嬉しかった。

そして、今日、私はことちゃんに、陽介君とのことも報告しなければいけないと思っていた。

私は背筋を伸ばして、ことちゃんの方を見た。

「ことちゃん、報告ができてなくて申し訳ないんだけど...今、陽介君と付き合っています。陽介君がアメリカ留学を決めたとき、色々相談に乗ってもらったから、直接、ことちゃんには伝えたくて。」

話しながら顔が赤くなっていたと思う。そんな私の姿を、ことちゃんは温かく見守ってくれていた。

「おめでとう、あずにゃん。教えてくれてありがとう。」

優しく言われて、嬉しくて笑みが溢れた。

「まぁ、今日会った瞬間から、あずにゃんの幸せオーラを感じてたから、そうなんだろうなーって思ってたけどね。あずにゃん、元々可愛かったけど、さらに、もう確実に倍以上、ものすごく可愛くなってるし。恋してるんだなーって思ったよ。」

そう言われて一気に顔が熱くなった。

バレバレなんだ私。浮かれてるな。

「こんなに可愛いあずにゃんを、独占してるなんて、本当、笹井は幸せ者すぎるね。次会ったとき、一回殴っておこう。うんうん。」

殴る仕草をしながら話すことちゃんを見て、思わず笑ってしまった。

「笹井とは会えてるの?」

「うん、時間が少しでもできたら、会ってくれてる。」

「そっかー。いつアメリカに行くんだっけ?」

質問されて、ズキっと胸が痛んだ。ここ数日、彼とあと少しで離れ離れになることを実感していて、それがとても辛かった。

「3/9に行くって。あっという間だよね。」

そう言いながら、思わず声が沈んでしまった。ことちゃんは心配そうに私を見ていた。

「...寂しい?」

ことちゃんに優しく聞かれ、私は喉の奥が熱くなった。

「...うん。寂しい。...分かったうえで、付き合うのを決めたのに、いざ、陽介君が遠くに行っちゃう日が近づいてくると...自分でも、びっくりするくらい寂しい。」

話しながら少し、涙目になってしまった。そんな私を見たことちゃんは、両手を広げ、

「あずにゃん、おいで。」

そう言ってくれたので、お言葉に甘えて、抱きしめてもらった。私は静かに涙を流した。

「...寂しいってちゃんと笹井に伝えてる?」

「...ううん。困らせちゃいそうだなって思って。私が自分の中で解決したほうが良いかなって。」

「絶対言うべきだよ。こんな風にあずにゃんに寂しい思いをさせるのを分かったうえで、あずにゃんに告白してきたんだから、笹井にはあずにゃんの寂しさを受け止める義務がある。あずにゃんだけが抱え込んじゃダメだよ。2人とも、素直でまっすぐなのが良いところなんだから。隠さず、ちゃんと話し合わなきゃ。」

ことちゃんにそう言われ、陽介君に本音を言う勇気が出てきた。そうだ。好きな人に自分の素直な気持ちを言わないなんて良くない。

「...ありがとう、ことちゃん。」

私は彼女にお礼を言って、しばらく静かに泣かせてもらった。



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