表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリーマー  作者: 滝本泉
PR
70/75

70

 校庭に置かれた行灯の周りに向かうと、陽介が山下さんを遠くから眺めてるのが見えた。ここまで来て、まだ見つめるだけなのか。さすがに意気地なしすぎる。そう思って呆れていると、矢崎が陽介に近づいて、話しかけているのか見えた。俺はさりげなく2人の近くに移動した。

「あのね、私にとって、林は、とても良い友達なの。そして、その林から、笹井がどれだけ長い間、あずにゃんに片想いしていたかを聞いているの。1番に願ってるのはあずにゃんの幸せなんだけど、林のことも思うと、笹井に肩入したくなる気持ちがあるの。だから、今こうやって色々教えてあげてるし、お膳立てしてあげてるの。それでも、恥ずかしいからとか、驚いたからとか言い訳して、いつまでもウジウジ行動を起こさないなら、悪いけど、笹井のこと応援できなくなるからね。

好きなんでしょ?誰にも取られなくないんじゃないの?このまま黙って見てるの?いい加減覚悟決めたら?私にできることはここまでだからね?好きなら、ちゃんと、言葉と態度で示してね。」

…矢崎はすごい。誰かのためにこんなに行動できるなんて。その姿はとても眩しく見えた。しかも、俺の友達のために、俺のために。

ここまで頑張ってくれて、感謝の気持ちしかなかった。

矢崎に活を入れられて、陽介の表情が真剣になったのが分かった。覚悟を決めたのだろう。さすがにここまで言われて頑張れない人間ではない。

「矢崎、ごめん。色々やってくれたのに。そこまで言わせて、ごめん。もう腹括る。」

そう宣言する陽介は、さっきまでの様子とは違い、とても頼もしく見えた。

矢崎が陽介の背中を軽く叩いて、

「まぁ、頑張ってね。」

と言うと、陽介は山下さんの方に向かって歩き始めた。俺は歩いて行く陽介の背中に向かって”頑張れ”と念を送った後、矢崎のところへ向かった。

「矢崎ありがとう。あそこまで言ってくれて。」

心から出た言葉だった。きっと、俺では、陽介をここまで奮い立たせることができなかっただろう。

「たぶん、私って、とっても優しいよね。ドラマとか漫画の主人公の味方の良い友人がやる行動だよ、これは。」

「間違いないね。優しい。とてもいい友達。陽介もあそこまで言われたら、動くよ。彼は反省して行動できる人間だから。」

俺と矢崎は、山下さんに話しかける陽介を並んで見守った。

 その後の陽介は、宣言通り行動していた。山下さんのそばを離れず、浪川に話しかけられる山下さんを彼から引き離し、2人一緒にキャンプファイヤーを眺めていた。俺と矢崎はそんな二人の様子を感慨深い気持ちで一緒に見守っていた。


 衣装と行灯は、前夜祭で全ての準備作業を終えたので、前夜祭の後、2人で打ち上げと称して、いつものファストフード店に入った。ウーロン茶とジンジャーエールで乾杯して、お互いを労い合っていた。

 自分の納得がいく仕事ができて満足そうな矢崎を見ているのは幸せだったけど、不意に暗い気持ちが襲ってきていた。

俺と矢崎は似ているけれど、明確に違うところがある。

彼女は、誰かのために、一生懸命努力できる人だ。だけど、俺は、矢崎のようにあそこまで誰かのために頑張ることはできない。

お母さん、菜穂さんのために、俺がどれだけ頑張っても、一緒に居てもらうことはできなかった。裏切られたとすら感じてしまっていた。

だから、また誰かを信じて、誰かのために行動しても、報われないんじゃないかと思って、他人のために行動することに臆病になってしまったのだと思う。

陽介のことは、とても大切な友達だと思っているけれど、たぶん、俺は、陽介のために何か行動しても、彼に裏切られるんじゃないかという気持ちをゼロにできていないのだと思った。友達のことを信用できないなんて、自分が軽薄な人間に思えた。

だから、あそこまで彼のために行動できる矢崎を、心底すごいと思ったし…羨ましかった。そんな暗い気持ちが大きくなるのが耐えられなくて、俺は矢崎に話し始めた。

「矢崎は優しいね。人のことを考えて、人のために行動できて、すごいと思う...俺は、それができなくて、ダメだね。色々考えてるうちに、結局、何もできていないことが多くて、あんまり人の役に立ててない気がする。」

俺がそう言うと、矢崎が心配そうに俺を観ていたのが分かった。その表情に気付いても、俺は話を止めることができなかった。

「ダメだね、俺は。結局、陽介のことも、矢崎に任せっりで。陽介のこと、結構、大事な友達だと思っているのに。なんか、情けないな。」

せっかく、明るく打ち上げをしたかったのに、湿っぽい雰囲気にしてしまった。この空気を変えるためにどうしようかと思っていると、矢崎が口を開いた。

「...でも、私もここまでお節介できるのは、笹井が私の大事な友達の林の友達だからだよ。笹井が悪い人じゃないのが分かったのもあるけど。林は自分のやり方は良くないって言うけど、私みたいなやり方で、干渉されるのが嫌な人もいるから、そういう人に対しては、林みたいに一歩引いた対応の方が良いと思うよ。結局、時と場合によると思うから。」

矢崎は俺の目を見つめながら話し続けた。

「自分のことを卑下しないでね。私は林を良い人だと思ってるし、大事な友達だから。例え、自分のことを言っているとしても、私の大事な友達のことを悪く言われたら、悲しいよ。林は良い人。」

どうしてここまで、言ってくれるんだろう。俺みたいな薄情な人間のために。

矢崎の方こそ、あまりにもいい人だ。矢崎の言葉が染みて、思わず泣きそうになってしまったけど、ぐっと堪えた。

「...そんな風に言ってもらえて嬉しい。ありがとう。」

そう言うと、矢崎は優しく微笑んでくれた。


 ファストフード店から出た後、2人で海に向かいながら、俺は、矢崎にお母さんにまつわる自分の話をした。彼女に聞いて欲しかった。

誰かを信じても、また、母さんにされたみたいに裏切れるんじゃないかと思って、傷つきたくなくて、その人のために頑張ることができないことも。

「結局、冷たいんだよ、俺は。その人のことを思うなら、行動すべき時だってあるのに。

矢崎が、陽介のために頑張ってるのを見て、なんていうか、羨ましかった。矢崎の行動力が。俺もそんな風に、友達のために動きたいのに、もし、俺が頑張っても、俺から離れていったら、悲しいなって思って、それが怖くて、結局ヘラヘラしてる。本当に情けないよね。」

俺も矢崎のように、誰かのために一生懸命に行動できる人間になりたかった。こんなんじゃ、矢崎と同じ”地球の人間”ではいられない。そう思って俯いていると、矢崎がゆっくりと話し始めた。

「…それって、林が悪いわけじゃないよ。林を裏切って、傷つけた人が悪いんだよ。」

俺は矢崎の顔を見た。彼女は少し泣きそうな顔をしていた。

「誰だって、何度も裏切られて、傷ついたら、もうこんな思いしたくないって思うよ。だから、誰かを信用するのが怖くなるのは当たり前だよ。林が臆病なわけじゃない。」

矢崎は優しく言ってくれた。でも俺は素直に受け取れなかった。

「…そうかな。何度も裏切られてるんだから、また裏切られることくらい分かるでしょって、周りからは思われるかなって。」

俺がそう言うと、間髪入れずに、矢崎は口を開いた。

「他人がどう思うかは関係ないよ。林がどう思うかが一番大事だよ。信じたいって思うんでしょ?毎回。信じるのも、信じないのも林の自由だよ。それに、もし、信じて裏切られて傷ついても、林が悪いことにはならない。いつだって、傷つける人が悪いんだよ。傷つけられた側に、自衛しろなんていうのは、私は間違ってると思う。傷ついたら、傷ついたって言って良いんだよ。だから、自分のこと責めないで。林は今まで傷ついてきた分、誰かを傷つけないように行動できる優しい人だよ。」

そう話す矢崎の目は切実だった。

「気づいてないかもしれないけど、林はね、人を1人救ってるんだよ。」

思ってもいなかったことを言われて、俺は驚いてしまった。

「この前、私の話を聞いてもらった時、私の言ったことを受け止めてくれて、泣いてたら背中をさすってくれて、優しい言葉をかけてくれて。私はすごい救われたんだよ。誰にも言えないと思ってたことを、否定せず聞いてもらえて、すごくありがたかった。私の中ではものすごい大きなことで、嬉しかった。救われたの、私は。」

矢崎はまっすぐに俺を見ていた。

「林は、相手のために一生懸命行動できないって、自分を責めるけど、その分すごく優しい。相手が嫌がることを言わない。相手のことを否定しない。それが冷たいって、林は言うけど、一歩引きながら、見守ってくれるって、こっちからすると、すごいありがたいことだったよ。少なくとも私には。林は今の自分を変えたいって思ってるかもしれないけど、これから、そうじゃない自分になろうとするかもしれないけど、今の優しい林に私は救われたから、今の自分も否定しないでほしい。本当に感謝してる。今の林も最高だよ。」

どうしよう。嬉しくて泣きそうだ。俺のために、こんな風に言ってくれる人が現れるなんて。

「そっか。俺、救えたんだね。矢崎のこと。良かった。」

神様、ありがとうございます。

矢崎のような人に出会わせてくれて。

思わず心の中で呟いていた。

矢崎のためなら、なんでもできる気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ