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校庭に全クラスの行灯が並べられた。生徒たちは行灯を囲んで並び、写真部の学生がカメラマンとなって、各クラスの集合写真が撮られた。
そのあと各衣装ごとの生徒写真の撮影が行われた。これらの写真は本祭と後夜祭の2日間、投票会場となる教室の壁に貼られ、文化祭の来場者と、他学年の学生からの投票により、順位が決められる。
私、ことちゃん、林君は、それぞれ1人しかしていない仮装だったので、1人ずつ写真を撮られ、チェシャ猫、時計うさぎ、トランプ兵の格好をしていたクラスメートは衣装ごとのグループで写真撮影をされた。
私達を撮影してくれた写真部員は、去年同じクラスだった咲子ちゃんだった。
「いやー、公平な立場じゃないとダメだから、あんまりこんなこと言うの良くないけど、6組は特に衣装いいね。梓ちゃんめちゃくちゃ可愛い。」
褒められて、私は顔が赤くなった。
「ありがとう。普段とキャラクター違いすぎて、びっくりだよね。」
私が言うと、
「これは、皆、薄々感じていた梓ちゃんの可愛さに本格的に気づいちゃうなー。」
咲子ちゃんはニヤニヤ笑っていた。
「何言ってるの、そんなことないから。」
私は首を振って否定した。
写真撮影後は、開会宣言が行われ、行灯に光が灯され行列がスタートする。行灯行列は、校庭からスタートして市内の中心部を1時間かけて練り歩き、また校庭に戻ってくる。戻ってきた後はキャンプファイヤーがつけられ、小さな打ち上げ花火が上がる。3日間ある文化祭だが、前夜祭がいちばんの盛り上がりを見せ、 後夜祭の閉会式での順位発表で大円団となるのだ。
開会宣言後、カウントダウンが始まり、行灯に光が灯される。
「では、みなさん、カウントダウンを始めます。5、4、3、2、1、0、点灯ー!」
カウントダウンに合わせて、全てのクラスの行灯が光り始めた。
私たちのクラスのチェシャ猫もキラキラと光り輝き、歓声が上がった。
「うわー。きれい。」
私が思わず呟くと、
「間に合ってよかった。紙貼り付け始めたの今朝だったから、焦ったよ。」
ふと隣を見ると、笹井君が行灯を見つめながら、まじまじと話していた。
「本当にお疲れ様。行灯担当の人たちみんな早起きして、寝不足だよね。」
私は彼を労った。
「まぁね。でもそれも含めて思い出なんじゃない?青春的な。」
笹井君は笑いながら言った。
「...山下、明日と明後日はほぼクラス展示にいる感じなの?」
彼に聞かれた。
「そうだね、後夜祭の午後が自由時間だから、そこで、ことちゃんと周りのクラス展示、見に行く予定だよ。」
本祭、後夜祭はクラス展示担当が中心となって運営するので、私はほとんどを調理場となる家庭科室と教室で過ごす予定だった。笹井君は少し難しそうな顔をしていた。
「そっか、忙しいね。...俺は逆に後夜祭の午後に、クラス展示の担当だったはず。」
彼は思い出すように言っていた。
「そうなんだ。でも、後夜祭の午後って食材を使い切ったら、クラス展示も終了するはずだから、早めに売り切れちゃえば、自由時間になるんじゃない?たくさん楽しめるかもよ。」
クラス展示は、営利目的で行うものではないので、経費分の売り上げが出たら、その時点で終了となる。人気のクラス展示ほど、本祭のうちに行っておかないと、後夜祭では既に終了してることがよくある。
「確かに。...でも、それじゃあ、山下が後夜祭の午後に自由時間なら、その時、もうやってないところも多いんじゃない?」
笹井君は心配そうに聞いてきた。
「うーん。でも食事系の展示以外はやってる可能性高いし、雰囲気が味わえれば、私は楽しいから。」
私がそう言うと、彼は少し考えていた。
何か言いたそうだったが、
「それでは皆さん、行灯行列がスタートしますので、スタート地点まで移動をお願いします。」
アナウンスが流れ、私はそのまま、隣にいた、ことちゃんと一緒に歩いて行った。
行灯行列をしている間は、校歌を歌いながら歩く。歌いながら歩くと皆自然とテンションが上がり、大きく盛り上がる。
「さすがに、喉痛くなってきた。はしゃぎすぎた。」
人一倍大声で歌っていたことちゃんは、喉を押さえながら言っていた。
「今日、声出しすぎると、明日から声出なくなっちゃうもんね。」
そんなことを話しながら歩いてると、折り返し地点の運動公園に到着した。
ここで30分ほど休憩となる。休憩時間に、事前に用意されていたペットボトル飲料が配布される。色々な種類の飲み物があるが、基本的には早い者勝ちで、私は毎回余ったものをもらっていた。今回もそのつもりで、みんながペットボトルを選ぶのを遠目に見ていると、
「山下、アイスティーでよかった?」
気づいたら笹井君が隣にいて、ペットボトルのアイスティーを私の前に出してくれていた。
「わぁ、ありがとう。いいの?もらっちゃって。」
私が尋ねると、
「うん。どうぞ。前に選んでたから、これ好きなのかなって思って。」
前に公園で一緒にラスクを食べた時に、私が買っていたメーカーのものだった。
「覚えててくれたんだ。ありがとう。これ好きなんだ。...笹井君、自分の分のペットボトルもらった?」
私の分を確保するために、自分の分を犠牲にしてないから、気になって聞くと、
「大丈夫。もう、もらってるから。」
そう言って、スポーツドリンクを見せてくれた。
「よかった。じゃあ、いただきます。」
私はありがたくアイスティーを飲み始めた。冷たいアイスティーが乾いていた身体に染み渡る。
「美味しい。染みるね。」
私がそう言って笹井君を見ると、持っていたペットボトルを既に飲み干していた。
「美味しいけど、足りない。汗だくだから。」
彼が着ているトランプ兵の衣装は、2枚のダンボール同士を肩紐で結び、身体の前後がダンボールで覆われている作りだったので、通気性が悪く、段ボールに汗染みがついてしまっていた。
「この格好なら、暑いよね。風通し悪そうだし。私、もう喉乾いてないから、よかったら飲む?飲み残しで申し訳ないけど。」
私がそう言って、自分のアイスティーのペットボトルを差し出すと、笹井君は目を見開いた。
「いや!大丈夫だから!これは山下の分だし、余りのペットボトルあると思うから、気にしないで...」
彼はまた頭を抱えていた。断られてしまったけど、笹井君が汗だくなのが気がかりだった私は、ことちゃんが用意してくれた、白いフリルがついたポシェットから、トランプの模様の扇子を取り出して、彼に風を送ってあげた。風に気付いた笹井君は少し驚いた様子で私のことを見た。
「これ、ことちゃんが用意したくれたの。すごいよね、トランプ柄の扇子って。少しは涼しい?」
私が聞くと、
「...涼しい。ありがとう。」
笹井君はそう答えてくれていたが、その顔はまだ赤かった。
休憩時間が終わり、行灯行列を再開した。一度休んでエネルギーを蓄えたので、皆、また元気になって歌いながら歩いていた。楽しい時間はあっという間で、行灯行列は校庭へと到着した。
各クラスごとに集まって、キャンプファイヤーが始まるまで待機していると、
「あずちゃん。お疲れ様。」
隣のクラスの端にいた浪川君に声をかけられた。アシタカの衣装は長袖なので、彼は汗だくだった。
「浪川君、お疲れ様。汗すごいね。水分取れてる?」
私が聞くと、
「もらった瞬間に飲み干した。500mlじゃ全然足りなかった。」
浪川君はそう言って苦笑いしていた。
「じゃあ、もう半分もないけど、アイスティー飲む?私の残りで申し訳ないけど。」
私がそう言って自分のペットボトルを差し出すと、浪川君は少し驚いたあとに、軽く笑って、
「じゃあ、ありがたくもらいます。ありがとう。」
そう言って、ペットボトルの中身を飲み干した。私はポシェットに入ってた扇子を取り出して、仰いで、彼に風を送った。
「どう?少しは暑いのマシかな?」
私が聞くと、
「うん。涼しくなった気がする。ありがとう。」
浪川君はお礼を言ってくれた。
彼が続けて何かを言おうとしたタイミングで、
「山下!そろそろキャンプファイヤーだから、集まれって言われてる!」
笹井君がそう言って、私の手首を掴んだ。
「あ、ごめん。聞こえてなかった。」
私が応えると、彼は私の腕を引いて、クラスメートの集まりの後ろ側に向かった。
「じゃあね、浪川君。」
私は浪川君にそう言って、笹井君のあとに、着いて行った。
立ち止まってからも、彼は私の手首を掴んだままだった。
「笹井君、どうかした?」
私が声をかけると、笹井君はハッとした表情をしたあとに、手首を離した。
「ごめん。勝手に掴んで。」
彼は申し訳なさそうに謝ってきた。
「いいよ、私が集合のアナウンス聞こえてなかったから、教えてくれたんでしょ?私、集中すると、周りの音聞こえなくなっちゃうから、言ってくれて、ありがとう。」
私がお礼を言うと、笹井君はしばらく黙って考えている様子を見せたあと、何かを決心したように口を開いた。
「ちゃんと言えてなかったけど、アリスの仮装すごく似合ってる。びっくりした。...可愛すぎて。」
彼はまっすぐ私を見つめて言った。今日は色々な人に褒めてもらったけど、私は笹井君に言われるのが一番嬉しいことに気づいて、驚いた。
「...ありがとう。笹井君にそう言ってもらえて嬉しい。...笹井君もトランプ兵かっこいいと思う。暑くて大変そうだけど。」
私は自分の顔の赤さを誤魔化すように、少し俯きながら伝えた。
「...本当は、矢崎が山下を連れてきたときに、言いたかったけど...可愛すぎて、びっくりしたから、声が出なくて...。本当にすごく可愛くて似合ってる。」
顔を上げると、笹井君はまっすぐ私のことを見つめていた。彼の顔だけじゃなく、耳まで赤くなっているのが見えた。
「...ありがとう。」
私も自分の顔が熱くなっているのが分かった。
そのとき、キャンプファイヤーに火が灯され、大きな歓声が上がった。
私はみんなの後ろからその様子を見ていたが、背が低いので見えづらく、背伸びをしていると、
「山下、見えないでしょ。前、行こう。」
笹井君はそう言って私の手首を掴んで、最前列まで連れて行ってくれた。
最前列に着くと、彼は私の手首を離した。私は笹井君に握られていた手首を見たあとに、キャンプファイヤーの火に照らされる、彼の横顔を見た。
私は今日の景色を忘れないのかもしれない。そう思いながらキャンプファイヤーに目線を移した。その火はとても高く燃えていた。
その後の打ち上げ花火が終わるまで、私は笹井君の隣に立っていた。




