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翌日、クラスで行われた、行灯と仮装のテーマ決めの会議で、矢崎は不思議の国のアリスを提案した。女子の中で発言力のある小野さんがこの案に賛成するように根回ししていたようで、矢崎の狙い通り、不思議の国のアリスに決定した。
矢崎の行動力には驚かされたし、陽介と山下さんの仲を取り持つために、ここまで積極的に動くことに驚いた。
放課後、いつものファストフード店で、仮装関連の本を見ながら、矢崎はご機嫌そうに話していた。
「ずっと、あずにゃんに仮装させるなら、絶対アリスが似合うはずって思ってたんだ。華奢さが引き立つし、あずにゃん、普段、メイクしないから、しっかりメイクしたら絶対、今以上に可愛くなっちゃう。まあ、元々が可愛いからこそだけどね。」
「いやー、小野さんに根回しまでするとは、さすがだわ。アリス姿の山下さんを見て、他の男子がざわついてたら、陽介も焦るだろうし、一緒に文化祭回れたら、より距離も近づきそうだしね。」
「やっぱり、距離縮める定番は文化祭でしょ。私はよく分からない感覚だから、本とか漫画とかドラマとか映画の知識だけど、大体共通して、イベントごとで男女の距離が縮まるのをたくさん見ました。さぁ、あとは、頑張って衣装を作るのみ。頑張るぞー。」
そう宣言して、本を読み始めた後、何かを思い出したようだった。
「あ、そうそう、林はマッドハッターやってもらうね。オレンジのジャケット持ってるから、それを使って。帽子は私が作るから。私はハートの女王やります。」
「へー、俺もトランプ兵じゃなくて良いの?」
男子はトランプ兵をやると聞いていたので、気になって質問すると、
「林、カッコいいから、目立つ仮装した方が良いよ。その方が仮装の順位も上がりそう。」
ニコッと笑って答えた。
そうか、矢崎、俺の見た目、カッコいいって思ってるんだ。
面と向かって言われたことはなかったので、少しだけドキッとした。
「私もどうやら、人目を引くらしいから、思い切ってハートの女王をやって目立とうかなって。こういうときくらい、自分の見た目を利用しなきゃ割に合わないでしょ。」
そう話す矢崎のたくましさに、俺は思わず笑ってしまった。
こうして始まった文化祭で、俺と陽介は行灯作製の作業をしていた。
黙々と作業する陽介の耳元に口を近づけて、俺は小声で話しかけた。
「陽介、本当はクラス展示の担当になりたかったんじゃない?山下さんと一緒に。」
陽介は顔をしかめながら、俺を見た。
「まぁ、そりゃあ…。でも美術部のヤツらでほぼ、人数埋まってたし、仕方ないって言うか…。」
「まぁ、そうだけどさ、彼女とクラスで話してないのは前からだったとしても、前と違って、今は受験対策に行ってないから、放課後話す機会もないんでしょ?いいの?こんなに話してなくて。」
俺が重ねて言うと、陽介は苦い表情をしていたけど、
「...良いんだよ。俺は、約束したダンス大会を頑張るから。そこで、優勝できたら、その時は…。」
山下さんに告白する自分の姿を想像したのか、陽介は顔が赤くなっていた。
「ふーん。なるほどねー。」
正直、あまりにも悠長な計画だと思う。
それに矢崎が頑張って、二人の仲を深めようとしているのだから、陽介にも、もう少し努力して欲しかった。
「まぁ、彼女の仮装姿見られるの楽しみだよねー。一緒に文化祭回れたら、より仲良くなれそうだし。」
「もう、俺の話ばっかりじゃん。…海斗はどうなんだよ。」
俺に言われすぎて、恥ずかしくなったのか、陽介が言い返してきた。
「どうって、何が?」
多分、矢崎とのことを聞いているんだろうなと思ったけど、あえてすっとぼけたフリをして、にっこり笑って見せた。
「…なんでもない。」
陽介は不満そうだった。俺が話す気がないのが分かると、それ以上深く追求しないのが陽介の良いところだ。
行灯作製のリーダーの高野は3年連続で行灯の設計図作りをしており、テキパキと指示を出してくれたので、俺たちはその指示に従って動くだけで良かった。
「慣れてる人がいると、指示される側としてはありがたいよねー。」
「確かに。結構早めに終わるかもね。」
その日の夕方、矢崎と一緒に夕食を食べに行くことになったので、教室まで迎えに行くと、彼女はちょうど大型のボストンバッグに荷物をしまっているところだった。その中にはミシンが入っていて、驚いた。あれは絶対重そうだ。
「矢崎、お疲れ様。それ持って帰る荷物?」
「そうだよ。やっぱり家でも作業しないと間に合わなそうだから、持って帰る。」
矢崎1人で持つのは大変だろうと思った。
「重いでしょ。持つよ。」
そう言って持つと、想像していたよりも重かった。これを学校まで持ってきたのか。あまりにも、頑張りすぎだろう。
「ありがとう、朝持ってきた時、肩痛くなっちゃったから、正直助かる。でも、重いだろうから、途中で交代するからね。」
「大丈夫だよ。俺、筋トレしてるから意外と筋肉あるよ。」
俺は、少しでも、矢崎の役に立ちたいと思った。
2人でいつものファストフード店に入り、衣装と行灯の進捗具合について、話していた。
矢崎は衣装制作に燃えていた。でもあまりにも一生懸命頑張りすぎて、倒れてしまわないか心配だったので、翌朝、矢崎の家から学校まで荷物を運ぶことを申し出た。彼女は遠慮してたけど、本当に無理してほしくなかったので、そこは粘った。
「じゃあ、よろしくお願いします。助かるー。林、本当にいい人だね。」
矢崎が了承してくれたので、
「良いんだよ。同じ”地球の人”なんだから。」
そう答えた。
翌朝、矢崎の家の前に到着し、メッセージを送ると、彼女が出てきた。
「おはようー。」
両目を擦っていて、目の下には隈ができていた。寝不足なのは間違いなさそうだ。
「おはよう。眠そうだね。昨日何時くらいまで作業してたの?」
俺が質問すると、
「うーん。一旦寝て、早起きしてから作業再開しようかなとも思ったんだけど、一旦寝たらすぐに起きれなさそうだったから、2:30までは頑張ってた。」
矢崎がそう答えた。今は6:30だから、4時間も寝られていない計算だ。これは、無理はさせられない。俺は進んで彼女のボストンバッグを持った。
教室に到着すると、矢崎は昨夜作ったというマッドハッターの帽子を取り出して、俺に被せた。帽子はとても立派な作りだったけど、少しサイズが緩かった。俺的には十分な出来栄えだと思ったけど、矢崎的には納得いかないようだった。
「やっぱりこだわりたい。行灯行列中は、両手が塞がることもあるだろうし、しっかりしたやつ作って、衣装部門でも優勝したいし。」
一生懸命なのは立派なことだけど、頑張りすぎて倒れてしまわないか、本当に心配だった。
「矢崎が燃えているのが分かった。頑張ってね。でも無理せず。」
「うん、頑張る。でも無茶はしない。たぶん今日どっかのタイミングで昼寝するかも。結構眠くなってきた。」
本当は行灯作業中に、汗をかくので、拭うために持ってきたタオルを取り出した。矢崎はタオルを見て、少し不思議そうな表情をしていたけど、
「タオルあれば枕になるし、頭に掛ければ、暗くなって寝やすいし、寝顔も人に見られないから良いんじゃない?貸しておくよ。」
俺がそう説明すると、笑顔で受け取ってくれた。
「ありがとうー。助かる。明日からは枕とアイマスク持ってくる。」
「いや、家で寝なよ。これ以上荷物増えたら、さすがに運ぶのしんどいでしょ。」
そうツッコミを入れて、思わず笑ってしまった。
体育館に向かい、行灯製作の作業をしてるとら担任の村本先生がやってきて、お菓子を差し入れてくれた。先生は全員分をまとめて持ってきていたので、俺は手を挙げて、教室にいる生徒の分のお菓子を持っていくことにした。頑張っている矢崎に、差し入れをしたかったのだ。
教室に入り、矢崎を探すと、彼女が自分の机に突っ伏して眠っていた。俺が渡したタオルを枕にして、頭の上からもタオルを被っていた。その姿は少しおかしかったけど、こんなに騒がしい教室内で、寝息も立てずに寝ている様子を見ると、本当に疲れているんだろうなと思った。差し入れを持ってきたことを作業中のクラスメート達に伝えると、全員が喜んで集まってきた。その勢いはすごく、お菓子はあっという間に無くなりそうだった。俺はクッキーの入った小袋をさりげなく1個確保した。
持っていた付箋に”ゆっくり休んでね。ファイト。”と書いて、小袋に貼り付け、矢崎の机の上に置くために、彼女のそばまで近づいた。そのタイミングで、彼女が頭を動かした。彼女が頭に被っていたタオルの位置がずれて、彼女の顔が見えた。目覚めたのかと思ったけれど、起きることはなく、そのまま眠っていた。タオルから出てきた矢崎の寝顔はとても無防備で、幸せそうで...正直、可愛くて、キュンとしてしまった。
これはダメだ。俺は気を引き締めて、彼女の頭に再びタオルを被せてあげた。机の上に差し入れのクッキーを置いてから、そのまま体育館に戻った。




