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矢崎とより仲良くなると、周囲から付き合っているのか聞かれることが多くなった。もちろん否定したけれど、矢崎は何かと注目を集める容姿をしているし、俺もどちらかというと、そういうタイプなので、付き合っているらしいという噂が流れていることには薄々勘付いていた。気にしなければ良いと思ったけど、この噂のせいで変なトラブルになるのは避けたかった。
そんなある日の美化委員会終わり、矢崎は同じ美化委員の他のクラスの女子に呼び出されていた。
「私、ちょっと話してくるから、先に帰っててね。じゃあまた。」
矢崎はそう言うと、彼女の後について行った。
偏見かもしれないけど、女子が女子を呼び出す時は、不穏なことが行われることが多い気がする。矢崎のことが心配だった俺は、教室で彼女を待つことにした。しばらくして戻って来た矢崎は、教室に俺が残っていることに驚いていた。話を聞くと、どうやら、俺に好意を持つ女子に、俺との仲を取り持つようにお願いされたらしい。矢崎は笑っていたけれど、俺もその場にいたのだから、俺に直接話せばいいのに、矢崎を介して近づこうとしている辺りに、矢崎への牽制を感じる。
そして同時に、外堀を埋められている感覚があった。
正直あまり気持ちの良いものではない。
「俺に直接声かけてくれれば良いのにね。矢崎を呼び出してた、あの場に俺もいたんだから。」
「まぁ、仕方ないよ。きっと彼女なりに慎重に動きたかったんじゃない?
それで、勝手に決めちゃって申し訳ないんだけど、林と話したいらしいから、明日委員会の当番が終わったら、彼女のクラスの前に、行ってきてあげられるかな?本当にごめん。そう言わないと、解放してもらえなさそうな雰囲気だったから。」
俺のことに、矢崎を巻き込んでしまって申し訳なかった。その彼女にちゃんと話しておかないといけないだろう。
「明日ね...分かった。大丈夫だよ、謝らなくても。空気読まなきゃいけなかった感じでしょ?まぁ、俺からも話しておかなきゃね。」
翌日、美化委員の当番が終わった後、例の彼女がいるという、2組に向かうと、女子が3人いた。俺の姿を見ると、3人できゃーきゃー盛り上がっていた。その中の1人が他の2人から、「頑張って!」と応援を受けて、背中を押されながら、俺のそばまでやって来た。
「林君、来てくれてありがとう。友井久美です。よろしくお願いします。」
確かに美化委員会で見たことがある人だと思った。
「林海斗です。よろしくお願いします。えーっと、帰り道、送る感じでいいかな?」
営業スマイルを見せながらそう言うと、女子2人から歓声が上がった。見せ物みたいでなんとなくやりづらい。下手したらこの子達、このあと、俺たちの後ろからついて来て、観察するんじゃないだろうか。
「ありがとう。嬉しい。よろしくお願いします。」
友井さんは笑顔で話してきた。
彼女の自宅までの道を歩き始めると、
「林君、今日はありがとう。ずっと林君と話したかったから、一緒にいられるのが夢みたいで嬉しい。同じクラスになったことなかったから、一方的に見てるだけだけど、ずっとカッコいいなって思ってたんだ。それに、林君と同じクラスの友達から、すごい優しい人だよって聞いてて。今日こうやって私を送ってくれるのも、聞いてた通り優しいなって思ってる。」
友井さんは笑顔で話し始めた。
まずは俺の見た目から気に入って、その後、俺が周囲と揉めないために、穏やかに対応している話を聞いて、好きになったタイプか。
話したことがないのに、好きになったというところは、陽介が山下さんを好きになった経緯と一緒だけど、陽介が自力で彼女との仲を深めたのと違って、直接ではなく、無理矢理、矢崎を介して、接触して来たところが、やっぱり俺の中で引っかかっていた。
「そうなんだ。ありがとう。」
ただ、穏便に済ませたかったので、営業スマイルを貼り付けたまま、そう応えた。
「あー、やっぱり林君カッコ良すぎる。本当に幸せ。美化委員で一緒になれたって分かった時、本当に嬉しかったの。さっき一緒にいた友達は、私の大親友たちなんだけど、興奮して2人にすぐ報告しちゃったくらい。
美化委員会のどこかのタイミングで話したかったんだけど...ほら、林君、いつも矢崎さんと一緒にいるから、話しかけづらくて。」
矢崎には、あんなに堂々と話しかけて、呼び出して、圧をかけていたのに。俺に話しかけることはできないのか。内心苦笑いしてしまった。
「矢崎さんって、男子に対してノリが良いから、モテるよね。私はあそこまで、男子に合わせるのは、ちょっとできないっていうか。」
その発言で、彼女が矢崎のことをよく思っていないのは分かった。矢崎は男女問わず誰にでも愛想がいいのだから。俺のように。
俺と矢崎が仲良いことを知ってるのに、わざわざ矢崎のことを悪く言うところに、彼女の悪意をうっすらと感じてしまった。
「林君も、矢崎さんと仲良さそうに話してるし、もしかして、林君もああいうタイプが好きなのかなって思って、へこんじゃって。そのタイミングで、2人が付き合ってるらしいっていう噂も聞いたから、私、不安になっちゃって。友達に相談したら、まずは矢崎さんから話を聞いた方がいいよって言われて。」
なぜ、俺ではなく、矢崎なのだろう。
やっぱり牽制なんだろうな。
「直接、矢崎さんに話しかけたら、ちょっと警戒されちゃって、悲しかったけど、林君と付き合ってないって聞いて安心した。」
3対1で圧をかけながら話をつけておいて、警戒されて悲しかったはないだろう。矢崎の方が怖かったはずだ。俺の中の友井さんに対する印象はどんどん悪くなっている。揉めないために、彼女に連絡先を渡すくらいは良いかなと思っていたけれど、それも嫌になってきた。
「何度も確認して申し訳ないけど、矢崎さんと林君は付き合ってないんだよね?」
「うん。付き合ってないよ。友達だから。」
俺がそう答えると、友井さんはほっとした様子だった。
「良かったー。付き合ってるって噂を聞いた時は、もうダメだと思ったの。矢崎さんって、いつもニコニコしてて、ノリも良くて...あと、セクハラっぽいこと言われても、怒らないで、上手くかわしてて、良い意味であざといっていうか。私だったら、怒っちゃうよなーって思うっていうか。良い意味で私にはできないなって思ってて。そういう対応するから、矢崎さんのこと好きだっていう男子も多いし、林君もそうなのかなーって。」
俺のことが気になると言いながら、俺がどういう人間か知るために、何か質問してくるわけでもなく、いかに自分が不安だったかばかり話すのはなぜだろう。なんだか自分本位な人だな。
結局、俺の見た目だけが好きだからだろう。俺の中身は関係ないんだろう。
何より、良い意味で、と言いながら、さっきから矢崎の悪口ばかり言っている気がする。
それに、彼女を好きになる男子に対しても、批判的なんだろう。
「私、矢崎さんと違って、男子ウケするような可愛い見た目じゃないから、落ち込んじゃって。」
絵に描いたような”そんなことないよ”待ちの発言に加えて、男子ウケという単語をわざわざつける辺りに、自分は矢崎のことをを可愛いと思っていないという本音が透けて見えていた。
穏便に済ませたい気持ちが大きかったけど、矢崎のことを悪く言う彼女と、もう一緒にいたくなかった。
「...友井さんって矢崎のこと、嫌いでしょ?」
俺がそう言うと、友井さんは驚いていた。
「えっ?どうしたのいきなり?なんで、そんな風に言うの?」
彼女は目を泳がせながら、慌てていた。
すぐに否定しない辺りが、図星なんだろうな。
「さっきから、矢崎の悪口聞かされてる気がしたから、そうなのかなって。
俺、矢崎とは付き合ってないけど、矢崎のことは、大事な友達だと思ってるから、正直、良い気持ちはしないかな。それに、矢崎のことが嫌なら、そんな矢崎と仲良い俺とも合わないんじゃないかな?
...お家、ここら辺だよね?俺、そろそろ帰るね。じゃあ、また美化委員で。」
そう言って、その場を立ち去った。
俺が話している間、友井さんは呆然としていた。もっと、角が立たない言い方をすべきだと、普段なら思うけど、矢崎のことを悪く言われている気がして、我慢できなかった。
俺にとって、矢崎が大事な存在なんだと、自覚させられた。
矢崎に会いたい。
俺は、彼女にメッセージを送った。
“今帰り道?もし今日予定ないなら、どこか行かない?”
矢崎からすぐに返事が来て、近くのコンビニで落ち合うことになった。
彼女に会うことで、今のこのモヤモヤした気持ちをスッキリさせたかった。




