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数日後の放課後、俺と陽介が教室に残っていると、矢崎が近づいてきて、陽介に話しかけてきた。
「笹井ってさ、いつもあずにゃんのこと見てるよね。」
そう言われ、陽介は驚き、慌てていた。まさか、俺以外の人間に、山下さんへの好意を気付かれるとは夢にも思っていなかったようで、その焦りっぷりは、見ていて面白かった。
何度も思っているけど、陽介は、自分の感情が顔に出やすいことを自覚すべきだ。
矢崎は陽介が山下さんに好意を持っていることを確認すると、彼女に思いを告げないのか質問した。まだ彼が決心できないことを知ると、山下さんの素晴らしさを懇切丁寧に伝えた後、他の誰かが山下さんを好きになる可能性を話していた。
急な展開に陽介は終始驚き、狼狽えていた。
「まぁ、これは私のお節介だし、私はあずにゃんが幸せでいてくれればいいから、無理してすぐに告白しなよとかは言わないけどさ。油断してたら、誰かに取られる可能性は考えておいた方がいいんじゃない?」
そこまで話すと、矢崎は言いたいことを言えてスッキリしたのか、
「じゃあ、私は帰るね。まぁ色々頑張って。」
そう言って、颯爽と教室から去っていった。
「うーん。嵐みたいだったねー。」
俺がそう言うと、
「ったく、他人事だと思いやがって...お前ら、いつの間にあんなに仲良いんだよ。」
陽介はジト目で俺を睨んだ。
「ほら、美化委員で一緒になったからさ、たくさん話して仲良くなったんだよ。それにありがたいアドバイスだと思うよー。山下さんと1番仲良いのは矢崎だし。応援してもらえるなら、こんなに心強い味方はいないと思うから。」
俺がそう言うと、陽介はしばらく考え込んだ後、
「それも...そうなのは分かるけど...。」
そう言いながら、まだ、もごもご話していた。
矢崎に言われたことで、陽介のお尻に火がついて頑張ってくれれば良いけれど。
こんな風にハッパをかけてくれる矢崎はやっぱり優しいと思った。
「いやー、矢崎に詰められる陽介、面白かったなー。本人にとっては深刻な状況だから、笑っちゃうのは可哀想なんだけど。」
翌日の美化委員の作業中、俺は思い出し笑いをしながら、矢崎と話していた。
「あれだけ、あずにゃんのこと見てて、周りに見ているのに気付かれてないと思ってるのがすごいよね。でも、危機感がないのはまずいよ。あずにゃん可愛いし、良い子なんだから。」
「一応、2年生の時に俺も言ってたんだけどねー。山下さんは普通に可愛いから、彼氏できる可能性全然あると思うよーって。でも、奥手でシャイなんですよ、彼は。そして、矢崎が、想像以上に山下さんのこと好きなのもよく分かった。」
「うん。あずにゃんのこと大好きなんだよね。あの子は、自分自身をしっかりもってて、周りの意見に左右されないで、良いと思ったら良いって言ってくれるから、なんか安心する。」
そう話す矢崎の表情はとても優しかった。彼女にとって山下さんが、とても大切な友達なのがよく分かった。
「ほら、私は、いつも周りの顔色を見て上手く立ち回ることばかり考えているから…正直、羨ましくて、眩しい気持ちもある。あんな風に真っ直ぐ育ちたかったなー私も。」
矢崎は寂しそうに話していた。
そして、同じ感覚を、俺も陽介に対して抱いていた。あんな風に素直に自分の感情を顔に出せるのが羨ましかった。
やっぱり俺と矢崎は似ている。
「周りの顔色、窺っちゃうの分かるよ。俺も、敵意を持たれたくなくて、必要以上に笑顔でいるからさ。」
俺がそう言うと、矢崎は驚いた表情で俺の顔を見た。
「もしかして、矢崎もそうなのかなって思ってたけど、いつも笑顔で感じ良くするのって、上手くやるための処世術だよね。」
俺がそう話すと、彼女はどこかほっとしたような表情をして、口を開いた。
「うん。自惚れてるとか、調子に乗ってるとか思われるかもしれないけど、私、男ウケ良い顔してるらしくて、割とモテるんだ。そのせいで、女子の中の人間関係が上手くいかないこともあったから。私としては、基本的にいろんな人と仲良くしたいんだけど、何も考えずに行動すると、思わせぶりとか、男好きとか、調子に乗ってるとか、色々言われちゃうから。人間関係で揉めないように、まず、男女問わず、笑顔で、愛想良く、ノリ良くを心がけて、良い子だなって思われるように努力してる。それに男子と話すときは予防線をたくさん張りまくって、告白まではさせないようにしている。素直に思った通りの行動を取って、上手くいった試しがない。」
いつも、笑顔で周りに合わせている矢崎の本音を聞いた気がした。彼女も色々と苦労が多いんだろう。
彼女の話を聞いていると、つい、俺も、自分の話をしたくなった。
いつもなら他人に自己開示をするのは1番苦手なのに、矢崎相手だと自然と話せる気がした。
「そっか。大変だったんだね。分かるよ、とか気軽に共感するのは良くないかもしれないけどさ。俺もさ、わりと家庭が複雑なんだけど…大人達って、不機嫌で静かな子供よりも、いつも笑顔で愛想良い子の方が好きなんだよね。それに気付いてからは、基本的に笑顔でいるのがクセになっちゃって。そのまま成長しちゃったもんだから、今も必要以上に笑顔を見せちゃう。でもさ、笑顔で、物腰柔らかく、自己主張せずにいるとさ…舐められるんだよね。結構。だから、いい加減、愛想良くし過ぎるの辞めたいんだけど、長年のクセって怖いね。なかなか変えられない。…困っちゃうよね。」
ぽろぽろと、自分の本音が出てきて、話しながら驚いていた。こんな感覚は初めてのことだった。俺の話を聞いた矢崎は、少し考えた様子を見せた後、笑顔になって口を開いた。
「林、もうさ、お互い2人でいるときは、愛想良くを心がけず、気楽に話そうよ。似たもの同士なのがよく分かったし。」
彼女が、俺と同じように、お互いが似ているという認識を持ったことに驚いたと同時に、気持ちが通じ合った気がして、なんだかとても嬉しかった。
「…じゃあ。優しい友達の言葉に甘えようかな。」
矢崎は俺にとって、とても大切な友達だ。
彼女の存在に、俺は感謝した。
数日後、登校すると、矢崎が俺のところまで駆け寄ってきた。
「おはよう、今すぐ報告しなければいけない、大ニュースがあります。ちょっと外で話そう。」
彼女に小声で一気に早口で捲し立てられて、驚きながらも、一緒に人気のない昇降口の辺りに向かい、話を聞いた。
なんと、山下さんが陽介のダンス動画を見て、彼のダンスに夢中になっているとのことだった。しかも、彼の出場するダンス大会を、観に行く約束までしていたらしい。この前までの、ただ一方的に山下さんを見ているだけの状態から、休日にダンス大会を見に行く仲になったことが、あまりにも急展開すぎて驚いてしまった。
「「びっくりしたー。」」
思わず呟くと、また矢崎と同時に同じセリフを言っていた。
あまりにも気が合いすぎる。俺達はお互いに顔を見合わせて笑ってしまった。
話せば話すほど、矢崎と俺は共通点が多く、似ている感覚を持っていることが分かった。ここまで気が合う人に初めて出会ったので、正直興奮していたし、そんな人と仲良くできることに感謝した。
「…あのさ、私、友達との関係って、天体で例えられるかなって思ってるんだけど…ちょっと語ってもいい?持論。」
唐突に矢崎に言われ、驚いたけれど、とても気になった。
「えー、何それ、聞きたい、教えて。」
俺がそう答えると、矢崎は話始めた。
「宇宙ってたくさんの銀河があるじゃん?で、その中の、天の川銀河の中の、太陽系に地球があるけど、話していて、感覚が合うなって思う人は、同じ太陽系の人で、仲良くなれる友達。合わないけど、人として好きだなって人は、太陽系ではないけど、同じ天の川銀河の人。全然合わないし、人としても苦手だなって人は、違う銀河の人。それで、同じ太陽系の惑星の中の人でも、特に仲良くなれる距離感の近い、水星、金星、火星、木星辺り人と、距離感は遠いけど、友達って言える、土星、天王星、海王星くらいの人がいて、究極に仲良くなれるのは、私と同じく地球にいるなって感じる人。正直、今までの私の人生で、同じ地球にいる人だなって思える人は、いなかった。あずにゃんは、大好きだけど、私と違ってて、羨ましいなって思うこともあるから、なんとなく火星の人のイメージ…この説明で伝わってる?」
俺は、頭の中で、昔、理科で習った太陽系の惑星一覧の図を思い浮かべていた。なんだか壮大な話だけど、頭の中に思い浮かべる惑星の姿はキレイだった。
「うん。分かる気がする。あと、天体の勉強になって面白い。」
「…それで、私は...林は同じ地球の人だなって思った。友達として、ここまで感覚とかが合う人がいなかったから、なんていうか…感動してる。」
矢崎も俺と同じように、こんなに気が合う人と初めて仲良くなれたと考えてくれていたことが嬉しかった。頭の中の地球で、笑顔の矢崎と会えた状況を思い浮かべた。なんだかとてもロマンチックで、少し気恥ずかしかったけど、とても素敵な考えだと思った。
「…矢崎の持論、分かる気がする。確かに俺も、同じ太陽系の人は出会ってきたけど、地球の人は…いなかったかな。それに、これが大事なことだけど、俺としても矢崎は初めての同じ地球の人かもしれない。だから、矢崎にそう思ってもらえて、嬉しい。」
俺がそう言うと、矢崎は今まで見た中で、一番の笑顔を見せてくれた。
「…じゃあ、これからも同じ”地球の人”として、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
お互いに頭を下げて挨拶した後、目が合うと、お互いに吹き出して、しばらく笑い合っていた。




