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2年生も陽介と俺は同じクラスになった。彼は、新しい教室内にいるクラスメートを一通り見回した後、黒板に貼られていた生徒名簿をすぐにチェックしており、見終えると、少し肩を落としていた。おそらく、山下さんと同じクラスになりたかったけど、彼女の名前がなくて、がっかりしたのだろう。あまりにも分かりやすくて、可愛いな。
しかし、いつまでも見ているだけでは、彼女との仲は進展しないだろう。お節介だとは思いつつ、こんな状況を半年以上何も言わずに見守ってきたので、さすがに、陽介の前で山下さんの話題を出そうと思った。陽介と昼ご飯を食べている時に、俺は話を切り出した。
「陽介、どう?新しいクラス。」
「まだよく分かんない。初めて一緒になる人も多いし。雰囲気悪くはなさそうだけど。」
さて、そろそろ聞くか。俺はお茶を飲んでいた陽介の耳元で小さな声で尋ねた。
「山下さんと同じクラスじゃなくて残念?」
陽介は盛大にお茶を吹き出した。もちろんそれは俺にもかかった。
「ちょっとー、お茶掛かったじゃん。汚いなー。」
「…お前が急に変なこと言うから、なんでいきなり、」
陽介は明らかに動揺していた。その慌てっぷりは正直かなり面白かった。
自分にかかったお茶をティッシュで拭きながら、俺は話し始めた。
「えー、だって、1年生の時、あの子のクラスの前を通るときだけゆっくり歩いてたし、あの子のことじーっと見てたから、気になるのかなーって思って。」
俺がそう言うと、陽介は目を見開いて驚いていて、そのまま頭を抱えていた。あそこまでいつも見てるのに、バレてないの思ってるの、逆にすごいな。そう思いながら彼の様子を見ていると、
「…そんなに見てた?俺。」
そう聞かれたので、
「うん。すごい見てた。」
しっかり答えておいた。陽介はバツが悪そうにしていたが、切り出したからにはちゃんと聞いておきたい。
「気になる?好きなの?」
俺が聞くと、眉間に皺を寄せて、少し考えた後に、
「好きとかはまだ…。気になる…かな。いつもストイックに勉強していてすごいなって思うし、なんか、あの子の目をみてると、すごい芯が強そうな感じで、意思が強そうで…かっこいいなって思う。」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら話していた。あまりにもウブな反応すぎる。
「そうか、そうか。まぁ、ずっとテストで学年1位なのはすごいよね。同じクラスだった人に聞いたら、休み時間もいつも真面目に勉強してるらしいから、天才型っていうよりも努力型っぽいし。あと、普通に可愛いよね。」
そう言うと、陽介は驚いて目を見開いた。
「…あの子が可愛いって、もしかして皆の共通認識?」
そう聞いてくる陽介の表情は、明らかに焦っていて、我慢できずに吹き出してしまった。
「あはは、もしかして、可愛いって思ってるの自分だけって考えてた?
それはないと思うよー。なんか、アザラシの赤ちゃんみたいな目してるよね。黒目がちというか。それに色白で背も低くて華奢だから、彼女のこと良いなって思ってる人いると思うけどね。わりと。目立つタイプじゃないだけで。ただ、話しかければ普通に会話してくれるらしいけど、彼女から話しかけてくることってほぼないらしいし、すごいストイックに、いつも勉強してるから、話しかけづらい雰囲気があるんじゃない?あそこまで成績良いと、それだけで引け目を感じる人も多いだろうし。」
陽介は俺の話を不安げな表情をして聞いていたが、一瞬怪訝な表情をして、
「ていうか、なんであの子のことそんなに詳しいの?」
そう聞いてきた。実は陽介が山下さんのことを好きそうだと気づいてから、彼女にアプローチする時に、役に立てばと思い、同じ中学校だった友達にそれとなく彼女のことを聞いていたのだった。面白がっている気持ちがゼロではないけれど、陽介のことを思っての行動でもある。
「奥手な友達が、好きそうだったから。」
俺がそう笑顔で答えると、
「お前…」
陽介は恨めしそうに俺を見ていた。
「まぁ、やっぱり学年1位って目立つから、普通に噂で聞いた話もあるよ。ただ、ほら、俺だけがその可愛さに気付いてるあの子っていうタイプが好きな人も多いから、もし、本当に気になるなら、ちゃんとアピールしないとねー。誰かと付き合っちゃうかも。」
俺がそういうと、彼女が誰かと付き合っている想像をしたのか、陽介の表情が一段と険しくなった。
「…陽介。今、やばいくらい凶悪な顔をしてるよ。目つき悪すぎ。」
「…目つきの悪さは生まれつきだよ。」
そう返されて少し笑ってしまった。
結局そんなやりとりをした後も、陽介は特に行動を起こしておらず、相変わらず彼女のことを見つめるだけだった。
もし、菜穂さんが俺と同じ学年だったら、俺はしつこいくらいアプローチしただろう。こんなに近くに好きな人がいるのに、何もしないとは、ずいぶん贅沢なやつだと思ったけど、あくまでそれは俺の場合だ。
「へぇー、じゃあ、その彼は、ただ彼女のこと、見つめているだけなんだ。それじゃあ、どうにもならないでしょ。」
高校2年生の夏休み、地元に帰省した菜穂さんから連絡が来て、俺はいつものファミレスで彼女と会っていた。最近の学校生活について聞かれて、友達が学年一の秀才に恋をしている話をしていた。
「俺もそう思うんですけどねー。一応、いつまでも彼女がフリーとは限らないよって言ってはいるんですけど、シャイで奥手なんで。」
「そういう真面目そうな子ほど、遊び慣れてるチャラい男にコロっと落とされちゃったりするから、危ないよー。異性に免疫のない箱入り娘が悪い男に捕まるパターンってよくあるし。その子、もしかして一人っ子だったりする?」
陽介のために、山下さんについてリサーチした時に、一人っ子だと聞いた気がしていた。
「曖昧ですけど、そうだった気がしますし、ちょっと育ちが良さそうな雰囲気もしてますね。」
「うわー、早めにその友達がどうにかしなきゃ、悪い男に捕まっちゃうって。」
菜穂さんは笑いながら話していた。きっと異性慣れしていないピュアな女子が、恋愛慣れしてる男子に落とされる場面をたくさん見てきたのかもしれない。
「そうですねー。また機会があれば、言っておきます。でも、その子を見つめてるそいつの目が、なんというか、切なくて、本当に、その子のこと好きなんだなーって感じて。ピュアな恋愛って良いなって思いました。」
俺がそう言うと、菜穂さんは少し驚いた表情をした後に、
「自分もそんな純粋な恋愛したかったって感じ?ごめんねー、私が最初じゃ、ただれた恋愛だよねー。申し訳ない。」
笑いながらそう話していた。確かに、真っ当な付き合いではないかもしれないし、菜穂さんにとって自分は都合の良い存在なのは分かる。
でも、それは俺が菜穂さんのことを、ただ、ただ好きだから成り立っている。この恋愛を、ただれた恋愛の一言でまとめられるのは、ちょっと納得できなかった。
「まぁ...確かに、始まり方は、その、順序が違ったとは思いますけど...純粋に好きだったからなんで。気持ちはピュアだったと思ってます。」
俺が言葉を選びながら反論すると、菜穂さんは俺の頭を勢いよく撫でた。
「あーごめんね。うん。そうだ。悪いのは私。いつも、ありがとう。」
そう言ってからニコッと笑った。
結局この笑顔を見ると、ありとあらゆることがどうでもよくなってしまう。
「じゃあ、そろそろお開きにしようか。」
「...このあと、何か用事あるんですか?」
いつもなら、彼女の門限である22:00ギリギリまで一緒にいられることが多いが、今日は20:00前に解散を切り出された。
「ごめんねー。今日、この後、会う人がいるからさー。」
今日は昼過ぎにいきなり連絡が来て会うことになった。おそらく元々別の人と会う予定がなくなったか、これから会う人ともっと早く会う予定が、遅くなってしまったから、暇で俺のことを呼び出したのかもしれない。
あまりにも都合よく使われている気がするけれど、こんな風な気まぐれな彼女の呼び出しに、俺は結局すぐに応えてしまうのだ。付き合えてもいないのに、俺と彼女の関係は、いつまでも彼女が主導権を握っている。自分が望んでやっていることだけど、いつまで彼女に囚われているのだろうと、ふとしたときに怖くなる。
「...分かりました。大丈夫です。」
結局、いつもの笑顔で俺は返事した。




