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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 二次会のために移動したカラオケでは、他のクラスの生徒達もいた。その中には友井さん達の姿もあったけど、私は林から励まされたことを思い出して、彼女達に笑顔で挨拶できた。一瞬怪訝そうな顔はされたけど、彼女達もそこまで子供ではないので、挨拶は返してくれた。これで良い。チャラにしよう。そう思っていると後ろから声をかけられた。

「おー、矢崎じゃん。二次会?」

振り返ると、去年同じクラスだった、バスケ部の杉谷がいた。同じクラスだったけど、私と話す時いつも私の胸しか見てないし、デリカシーのない物言いが多くて、正直苦手なタイプだった。私は作り笑顔で答えた。

「お疲れ様。クラスの二次会。杉谷も?」

「いや、クラスの打ち上げあんまり盛り上がらなかったから、何人かで抜けてきた。」

当たり障りのない会話もしたので、その場から離れようとすると、

「なぁ、矢崎、林と付き合ってるって本当?噂聞いたけど。俺、あいつと1年で同じクラスだったからさ。どうなの?」

ニヤニヤと笑いながら聞いてきた。

なんか、嫌な感じ。

杉谷は、セクハラめいた発言も多く、同じクラスの時は内心うんざりしていたことを思い出した。

いけない、変な対応したら思うツボだ。

「違うよー。仲良い友達だよー。」

私は笑顔を崩さずに答えた後、じゃあね、と言ってその場を離れた。楽しい気持ちを削がれたくなった。

クラスメートの2/3が揃った二次会は、カラオケのパーティールームで行われて、大いに盛り上がっていた。私も2回ほど歌って、後半はみんなで大合唱してた。流石に歌い過ぎて喉が渇いたので、何か飲もうと思ってドリンクバーに行こうとすると、

「烏龍茶でいい?飲む?」

林が隣にやってきて、ドリンクを持ってきてくれた。

「ありがとう!はしゃぎ過ぎて、歌い過ぎて、喉カラカラ。明日声出ないかも。」

ありがたく受け取り、一気に飲み干してしまった。

「林も歌いなよ。バンドやってるんだし、本領発揮しなきゃ。」

私がそう言って肘で林をつつくと、

「いや、俺ベースだから。コーラスすらやらないのに、ムリムリ。みんなが楽しそうに見てるので充分。」

林は苦笑いしていた。

「えー、勿体無い。林の歌、聞きたいんだけど、私ばっかり歌ってて不公平。」

私はそう言って口を尖らせた。

「いやいや、矢崎ものすごい楽しそうに歌ってたじゃん。歌いたい人と、歌いたくない人間を同列にするのこそ不公平だから。」

そう言われても、私が納得できていないのが分かったのか、

「今度ね。クラスメートの前はハードル高いから嫌だけど、矢崎だけなら良いよ。今度行こう。」

約束してくれたので、よしとすることにした。

しばらくすると、林はトイレに行き、私はクラスメート達の歌う姿を見ていたが、喉がまだ渇いていたので、ドリンクバーに向かった。廊下を歩いていると、曲がり角の先から話し声が聞こえてきた。

「林、お前、矢崎と付き合ってんの?正直に言えよー。」

「どんな噂聞いたか知らないけど、付き合ってないよ。友達だから。」

杉谷と林の声だった。声を聞いただけで、杉谷のニヤついた顔が浮かんだ。私が付き合っていないと否定したのに、林にも絡むしつこさにうんざりした。私たちがどんな関係でも、あんたには関係ないだろう。林を助けてあげたいけど、杉谷の前に2人でいれば、さらに面倒なことになりそうだと思い、どうしようか考えていると、

「えー、友達ってどういう友達?もしかしてセフレ?おっぱいくらい触ってるだろー。」

杉谷がそう言って、笑っていた。

やばい。本当に気持ち悪い。なんで、こんなことを言われなければいけないんだろう。ゲスな目で見られる不快感で鳥肌が立った。

どうして、私が仲良くしたい人と仲良くしているだけで、こんな言い方をされなければいけないんだろう。

心の底から悔しいし、悲しくて、私がその場から、動けずにいると、

「...お前、今なんて言った?」

林の声が聞こえた。今まで聞いたことがないくらい低い声だった。

彼は明らかに怒っていた。

「そんなゲスいこと言われて、相手がどんな気持ちになるかとか想像できないのか。お前、終わってんな。」

曲がり角の先を見ると、林は杉谷に、にじり寄っていた。いつも穏やかで怒りを見せない林に凄まれて、杉谷は明らかにたじろいでした。

「...いや、冗談だって。」

「謝れ。矢崎に。俺にも。ふざけんなよ。」

杉谷は林と同じくらいの背だけど、明らかに林に圧倒されていた。林は私と同じように、周りと揉めないように立ち回る人間なのに、私が傷つけられたと思って、怒ってくれたのだ。

私がそれが本当に嬉しかった。

あんな悪意に負けたくない。

私は深呼吸をして、曲がり角を曲がった。

「林、いいよ。もう。」

私が声をかけると、2人がこちらを見た。杉谷はバツが悪そうな顔をしていた。私は彼を睨みながら口を開いた。

「私に謝らなくて良いから。だって、さっきのが本心なんでしょ?謝られたところで上辺の言葉だって分かるし。それに、謝られたら、許さないと、こっちが悪者になっちゃう。...私は絶対に許したくないから。もう2度と話しかけてこないで。林、行こう。」

杉谷は、何か言いたそうに口をパクパクさせていたけど、私は無視して、林と一緒にその場を立ち去った。

しばらく黙って歩いていたが、

「矢崎、そろそろ出ようか。なんか、ここから離れて歩きたい。」

私もモヤモヤした気持ちでいっぱいだったので、林の言う通り、カラオケボックスから出ることにした。

部屋に戻ると、既に帰っている人もいて、人数が減っていたので、そのままさりげなく帰った。

カラオケから出てしばらく、夜道を2人で並んで歩いた。

「...矢崎、聞こえてた?全部。」

林に聞かれ、

「...セフレとかのくだりでしょ?聞こえた。気持ち悪かった。」

そう答えると、

「...怒って良いよ、矢崎。いくらでも。俺もムカついたから。」

今までも似たようなことを言われたことがなかったわけではない。

でも、今日は一段と腹が立った。私の大事な友達との関係を、あんな風に笑いながら言われたのが、友情を汚された気がしたのだ。

私は思う存分気持ちを吐き出すために、深呼吸をしてから、声を上げた。

「あーーキモいキモいキモい!!ゲスな目で見んな!!好きで胸が大きいわけじゃないわ!好きで男ウケする顔なんじゃないわ!何も知らないくせに...私と林のことをそんな目で見んな!!私が、やっと見つけた、大事な友達を、バカにすんな!!私と林の関係は、お前みたいなヤツには理解できないんだよ!!ふざけんじゃねーーーー!!あんなヤツ大っ嫌い!!」

一気に捲し立てるように言ったので、私は息切れしてしまった。

林は私が言い終わると、

「マジで気持ち悪いからな!あいつ!こっちが穏便に済ませようとしたら、調子に乗りやがって!何言っても怒らないやつと思ってんじゃねーよ!舐めんなマジで!!あーー殴ってやりたかったー!!ちょっと凄んだだけであんなにビビるなら絡んでくんじゃねーよ!」

林がここまで大声を出す姿を初めて見た。

私と同じくらい、私たちの友情を大切に思っていて、変な誤解を受けるのが許せないのだと分かって嬉しかった。喉の奥がツンとした。

「...でも、手を出したら林が悪いことになっちゃうから、そうならなくてよかった。あんなヤツのために、林が停学とかになったら、嫌だもん。」

私はそう言って林のことを見つめた。

「怒ってくれてありがとう。おかげさまで私も怒れた。すごい腹が立ったし、気持ち悪かったけど、林が怒ってくれたのが、嬉しかった。」

私がそう言うと、林は泣きそうな顔をした。

「どうしてもさ、私、胸大きいし、やらしい目で見られるのは、悲しいけど多いからさ。」

私は性的なことをしたい気持ちが全く起きないのに、そういう目でばかり見られるような体型なのは、なんて皮肉なんだろう。神様は意地悪だ。どうせなら胸を小さくして欲しかった。

私はそんなことを考えて、つい俯いてしまった。そんな私の様子を見た林は、深呼吸をしてから口を開いた。

「...あいつらは、バカだよ。矢崎の良さを全然分かってない。矢崎の顔とか、体とか、表面的なところばっかり見て。

矢崎は誰とでも仲よく話せて、自分のためにも、誰かのために一生懸命になれて、背中を押せて、集団の中でどう立ち回れば良いか、いつも考えてて気遣いができて、自分にないものを持っている人に嫉妬したりしない。たくさん素敵なところがあるのに、そういうところを一切分からないなんて、絶対バカ。」

そう言った後、一拍置いて、私のことを見た。

「矢崎が、どんな体つきしてようが...胸が大きかろうが小さかろうが、どんな顔をしていようが、矢崎が素敵な人なことは、絶対変わらないよ。俺は矢崎と仲良くなれて本当に良かったと思ってる。いつもありがとう。」

あぁ、こんな風に言ってくれる人が現れる日を私は待っていたんだ。

私は目元が熱くなって、溢れ出る涙を止められなかった。

「...ありがとう...。私の方こそ、仲良くなってくれて、庇ってくれてありがとう。林は私の、本当に、本当に大事な友達。大好き。」

泣いてる私を見て、林はゆっくりと話し始めた。

「こちらこそ本当にありがとう。...背中さすって大丈夫?」

こんな時も、触っていいかをきちんと確認してくれる林の気遣いが嬉しかった。私は大きく首を縦に振った。林の手が私の背中に触れると、とても温かくて、安心して、また泣けてきた。

「泣きな、泣きな。泣いてスッキリしな。」

林は私の涙が止まるまで背中をさすり続けてくれた。

「ありがとう。スッキリした。感謝です。」

私が、泣き腫らした目のまま言うと、林は今までで1番優しい表情をしていた。

「良かった...。これは提案なんだけど、コンビニで花火買わない?海でやりたい。青春っぽく。楽しいことして終わろうよ、今日は。」

林に提案され、私はすぐに賛成した。

「絶対やりたい。楽しい思い出作ろう。」

コンビニで花火とライターを買って、海辺に行った。夜の海は静かで、まるで世界に私と林しかいないような気持ちになった。

「まず、手持ちの花火からやろう。その後、置くタイプのやつやって、最後は線香花火で。夏だねー。」

手持ち花火にライターで火をつけながら私は言った。

「いいよ、そうしよう。火傷しないように気をつけてね。」

「...なんか、意外と火がつかない。」

手持ち花火になかなか着火せず、苦戦していると、

「俺が火つけようか?」

そう言って林が手を伸ばした瞬間に一気に火花が散り、お互いに驚いて大声をあげてしまった。

私達は目を合わせて、笑った。

「危なっ、火傷するかと思った!え?矢崎わざと?」

林に笑いながら言われ

「いやいや、事故事故!全然悪意ないから!」

私も笑いながら返した。そのあともずっと笑いながら花火をしていた。子供のように2人ではしゃいだ。最後に並んで線香花火に火をつけた。

「...夏だし、青春だね。」

「うん。完全に同意。」

2人で言い合いながら、オレンジ色に散る火花を見ていた。私はふと、林の横顔を見つめた。

林、ありがとう。あなたは、また、私のことを救ってくれました。

...いつか林に彼女ができるまでは、どうか、もう少し隣に居させてください。

心の中でそう願っていた。


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