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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 校庭に置かれた行灯の周りに集まるクラスメートを見ていると、笹井があずにゃんを遠くから眺めてるのが見えた。やっぱり、彼女に話しかける勇気はないようだった。

もう、これが最後のチャンスだ。ここまで言って、動かないなら、林のためとはいえ、私の中で笹井に協力したい気持ちはなくなるだろう。

私は彼のそばに近いた。

「...本当に、笹井は意気地なしだね。ヘタレです。全然ダメ。」

私がそう言うと、彼は驚いてこちらを見た。

「矢崎、いつの間に...。」

怯んでいる笹井を私は睨んだ。

「昨日話したこと忘れたの?さっきのあの態度は何?頑張るんじゃなかったの?またいつもみたいに見てるだけなの?」

私がそう言って責めると、

「...ごめん。あまりにも山下が可愛すぎて...声が出ませんでした...。」

笹井はそう白状して、頭を下げた。私への謝罪は別にいい、問題は、まだあずにゃんに対して、行動を起こしてないことなのだから。

「笹井にとっては悪いお知らせだけど、あずにゃん、浪川に声かけられて、お願いされて、写真撮ってたよ。浪川は、あずにゃんの可愛さに驚きつつ、とてもすんなりと”可愛いね”って言って褒めていました。」

笹井は目を見開いて驚き、頭を抱えていた。その表情はとても深刻そうだった。その顔を見れば、彼がどれだけ危機感を抱いているかはよく分かった。こうやって素直に感情を顔を出している姿を見れば、彼が悪い人間じゃないのも分かる。これで、私が今から言うことをちゃんと受け止めて行動するなら、応援してあげたい。私は口を開いた。

「あのね、私にとって、林は、とても良い友達なの。そして、その林から、笹井がどれだけ長い間、あずにゃんに片想いしていたかを聞いているの。1番に願ってるのはあずにゃんの幸せなんだけど、林のことも思うと、笹井に肩入したくなる気持ちがあるの。だから、今こうやって色々教えてあげてるし、お膳立てしてあげてるの。それでも、恥ずかしいからとか、驚いたからとか言い訳して、いつまでもウジウジ行動を起こさないなら、悪いけど、笹井のこと応援できなくなるからね。」

私が話し出すと、笹井は徐々に真剣な表情になった。

「好きなんでしょ?誰にも取られなくないんじゃないの?このまま黙って見てるの?いい加減覚悟決めたら?私にできることはここまでだからね?好きなら、ちゃんと、言葉と態度で示してね。」

そこまで言うと、笹井は真剣に考えていた。そして、しばらくすると、私の方をまっすぐ見た。その目を見て、彼の中で覚悟が決まったのだと思った。

「矢崎、ごめん。色々やってくれたのに。そこまで言わせて、ごめん。もう腹括る。」

そう話す彼には、もう迷いはないように見えた。もっと早くこの目になって欲しかったけど、まだ文化祭は始まったばかりで、ここから巻き返せばまだ間に合うはずだ。私は笹井の背中を叩いて、

「まぁ、頑張ってね。」

そう伝えた。笹井はあずにゃんの方に向かって歩き始めた。私はその後ろ姿を眺めていた。

「矢崎ありがとう。あそこまで言ってくれて。」

気づいたら林が隣にいて、いつもの笑顔で私のことを見ていた。

「たぶん、私って、とっても優しいよね。ドラマとか漫画の主人公の味方の良い友人がやる行動だよ、これは。」

私がそう言うと、

「間違いないね。優しい。とてもいい友達。陽介もあそこまで言われたら、動くよ。彼は反省して行動できる人間だから。」

林は、笹井の方を見ながら、話していた。


 そこからの笹井は、宣言通りきちんと行動していた。あずにゃんのそばから離れず、彼女にたくさん話しかけていた。行灯行列が終わり、校庭に戻ってから、私は隣にいた林に話しかけた。

「林の言う通り、ちゃんと反省して行動できるのが、笹井の良いところだね。頑張ってるのが分かる。問題はあずにゃんに伝わっているかだけど。」

私がそう言うと、

「そうだね。1年の頃から、ただ山下さんを見てるだけだった姿を知っている身としては、感慨深いよね...。お、ライバル出現。」

林がそう言ったので、あずにゃんの方を見ると、浪川が彼女に話しかけていた。しばらく2人が話す様子を見ていると、そこへ笹井が走ってきて、あずにゃんの腕を掴んで、浪川から引き離していた。

これは...とても頑張っているのではないだろうか。

「「...やるじゃん。」」

気づいたら、また林と同じことを言っていて、2人で顔を見合わせて、笑ってしまった。

そのまま、あずにゃんと笹井の様子を見ていると、笹井はあずにゃんに真剣に話しかけていて、それを聞いたあずにゃんが、顔を赤らめながら、何かを話していた。その後、キャンプファイヤーが始まると、笹井はあずにゃんの手を引いて、2人でキャンプファイヤーの最前列に向かい、到着すると、並んで高く燃える火を見ていた。あずにゃんが笹井の横顔を目を瞠りながら見ていて、しばらくしてから視線をキャンプファイヤーに向けた後、今度は笹井があずにゃんの方を切ない顔で見つめていた。タイミングがずれていたけど、2人はお互いに見惚れていた。

これは、笹井の頑張りが、伝わり始めているのかもしれないと思った。

「青春だね。」

2人の姿をクラスメートの集まりの後ろから見ていた私がそう呟くと、

「うん。青春だ。」

隣にいた林もそう言っていた。


 衣装と行灯担当の生徒は、前夜祭で全ての作業を終えたので、私と林はその日2人で打ち上げと称して、いつものファストフード店に入った。

「疲れたけど楽しかったなー。納得いくまで、衣装を作り込めたから大満足。色んな人に衣装を褒められたし、嬉しかったー。」

クラスメートはもちろん、他のクラスの人にも衣装を賞賛された私は、とても気分が良かった。

「本当にお疲れ様。矢崎がいたおかげで、うちのクラスの仮装は完成したからね。大活躍。ありがとうね。俺もマッドハッターの帽子、またどこかのタイミングで使いたいな。これっきりなのはもったいない。バンドで被ろうかな。」

バンドでベースの林だけ巨大な帽子を被っている様子を思い浮かべて、私は思わず笑ってしまった。

「ベースだけ目立ちすぎだね。後ろに誰かいても見えなくなっちゃう。林もお疲れ様。行灯、途中、大変そうだったから、ちょっと心配だったけど、完成したチェシャ猫すごかったよ。複雑な構造だったから、難しかったんだろうなって思った。」

私がそう言うと、

「まあねー。よく間に合ったよ。結構疲れた。だから、今日終わって本当にホッとした。打ち上げしたくてしょうがない気持ちだった。」

気遣い屋の林のことだから、行灯製作の作業中は全方位に気をかけて疲れたことだろう。そんな彼の労いたいと思った。

「林、お疲れ様。乾杯しよう。ノンアルで、健全に。」

私がそう言って、自分のウーロン茶を持ち上げると、

「うん。そうしよう。健全にね。」

林も笑顔で自分のジンジャエールを持ち上げた。

「「乾杯」」

そう言って乾杯した後、2人で飲み物を飲んだ。

「衣装のことはもちろんだけど、陽介のこともありがとう。背中押してくれて。おかげで、陽介も頑張れたと思うよ。最後はちゃんと青春してたし。」

林にそう言われ、私はキャンプファイヤーの前に並ぶ2人の姿を思い出した。

「笹井、頑張ったね。うん。お節介した甲斐があった。もし、うまくいったら、私に何か奢らないとダメじゃない?笹井は。」

私がふざけてそう言うと、林は笑っていた。

「それは間違いない。高いご飯でも奢ってもらうと良いよ。」

そう言って笑った後、なぜか林は少し寂しそうな顔をした。不思議に思って見ていると、林は口を開いた。

「矢崎は優しいね。人のことを考えて、人のために行動できて、すごいと思う...俺は、それができなくて、ダメだね。色々考えてるうちに、結局、何もできていないことが多くて、あんまり人の役に立ててない気がする。」

そう話す林の姿はやっぱり寂しそうだった。

「ダメだね、俺は。結局、陽介のことも、矢崎に任せっりで。陽介のこと、結構、大事な友達だと思っているのに。なんか、情けないな。」

林はいつも、笑顔だけど、人に心を開ききっていないような印象を受けていた。他人に踏み込んだことを言わないのは、自分も踏み込んだことを言われたくないからなのかもしれない。でも、どうして、そこまで自分のことを後ろ向きに捉えるんだろう。林は私にとって大事な友達と思える、素敵な人なのに。私はゆっくりと話し始めた。

「...でも、私もここまでお節介できるのは、笹井が私の大事な友達の林の友達だからだよ。笹井が悪い人じゃないのが分かったのもあるけど。林は自分のやり方は良くないって言うけど、私みたいなやり方で、干渉されるのが嫌な人もいるから、そういう人に対しては、林みたいに一歩引いた対応の方が良いと思うよ。結局、時と場合によると思うから。」

私はそこまで言うと、林の目を見て続きを話した。

「自分のことを卑下しないでね。私は林を良い人だと思ってるし、大事な友達だから。例え、自分のことを言っているとしても、私の大事な友達のことを悪く言われたら、悲しいよ。林は良い人。」

私がそう言うと、林は口をキュッと結んで、しばらく黙っていた。そして、少し息を吐いてから、

「...そんな風に言ってもらえて嬉しい。ありがとう。」

そう言って、笑っていた。でも、いつもの笑顔とは違って、泣くのを堪えているような表情だった。


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